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第170話 お前は全校生徒から笑われないとだめだろ? 

「ノア……」


「ボク、お前にファーストネームで呼んでいいなんて、一度も言った覚えないよ」


 後ろ手で教室のドアを閉めたノアは、ゆっくりとした足取りで俺に近づいてきた。


 俺はとりあえず、すぐそばに置いたままとなっていた車椅子へ座った。


「呼びに来てあげようと思ったら、校庭から変な格好した女の子が見えて、まさかと思ったけど……。へぇー……」


 まるで最初に出会ったときと同じように、ノアは俺のことを、頭のてっぺんからつま先まで、歩きながらじっくりと観察してきた。


「それで、何? その車椅子で可哀そうアピールもするつもり? でも、今座ってなかったよね? それも嘘なわけ? ほんとお前って、そういうアピールがお上手なんだね」


 矢継ぎ早に向けられる質問の端々から、俺に対する憎悪が手に取るよう伝わってきて、俺は緊張から、また息を飲み込んだ。


(誰だよ……月宮学園に天使が舞い降りたなんて言ってたヤツ。てか、いつものフワフワキラキラした話し方は演技かよ……)


 俺に対する今までの態度からすれば当たり前の言動になるのだが、さすがにこうも違うと、もはや驚きを通り越して感心したくなる。


 だが、このまま好き勝手されるのも、いい加減俺の性に合わない。


 そう思った俺は車椅子を動かすと、ノアの方を振り向いた。


「フッ……」


 鼻で笑ったノアは、口元に笑みを浮かべていた。


 しかし、目元は蔑むように冷ややかなまま、俺を睨み続けていた。


「……」


 まるで、下等生物を見るようなノアの冷ややかな目に、俺は背筋から冷たいものを感じながらも、ノアから決して目を離さなかった。


「べつに……。アピールとか、俺にそんなつもりはないよ」


「ふーん……。あっそ」


 興味なさそうに俺の返答へ軽く頷いたノアは、車椅子の目の前で足を止めると、俺を見下ろしてきた。


「へぇー。よくできてるねー。なに? お前にそんな、女装趣味でもあったわけ?」


 ノアは俺に向かって手を伸ばしてくると、金髪ウェーブのウィッグに、指を通すように触れてきた。


「でも、おっかしいなー。姫役はみんなに笑われる役だって聞いたよ。こんな本格的にしたら、引いちゃって誰も笑ってくれないよ? あーあ。せっかくボクが姫役に選んでやったのにさー。お前って、姫役の役目も分かってないの?」


(やっぱり、そういう理由で俺を推薦したのか)


 姫役に推薦されたときは、自分に落ち度があったと反省した。


 だが、どうやらノアのこの口ぶりでは、俺が何もしなくても、俺を姫役にするのは決まっていたのだと察した。


(それなら……)


 俺は意を決して、膝の上に置いていた手を拳にして力を込めた。


「俺は……笑われるつもりなんか全くないよ」


 はっきりと俺は言い切ると、ノアは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑い出した。


「ハハッ! 何言ってんだよ? お前は全校生徒から笑われないとだめだろ? 元々そういう存在なんだからさー!」


 一瞬、表情が消えたノアだったが、すぐにまた口元が笑い出すと、近くの机を勢いよく蹴とばした。


「……っ!」


 机と椅子の倒れる大きな音が教室に響き、俺は思わず肩をビクつかせてしまった。


 けれど、それでも俺はノアから目を逸らさずに、ノアの目を真っ直ぐ見上げ続けた。


 臆さない俺の態度へさらに苛立ったのか、ノアは静かに舌打ちをすると、俺の目を覗き込むような距離まで顔を近づけてきた。

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