二ヶ月後――。
今日は、ティウォーの港から東方大陸へ向かう交易船が出る日だ。交易の品とともに、東方大陸へ向かう客も幾人か乗っていく。その客の中に、ジェイドもルウルウもいた。
港に着けられた交易船に、次々と荷物が運び込まれる。客も次々と乗り込んでいく。ジェイドたちも荷物の入った鞄を抱え、船に乗った。
大陸間を渡る交易船は、港の中でもひときわ注目される。出港を見届けようと見物客が集まり、彼らを見込んで行商人や大道芸人たちも集まってくる。芸人たちが音楽を鳴らし、にぎやかに船を見送ろうとしていた。
「いよいよだ」
「うん」
ルウルウとジェイドは甲板から港を見る。ティウォーの港――ひいては西方大陸を見るのは、今日が最後になるかもしれない。陸が見えなくなるまで、ルウルウたちは甲板で見届けるつもりでいた。
にぎやかな港の様子を見ながら、一抹の寂しさを抱えて、旅立つ。それはすべての客に共通する感情だろう。ルウルウたちも同じだった。
「おー……い」
港の陸の彼方から、駆けつけてくる者がいる。
「おーい! おーい、待った待ったァ!!」
見物客たちをかき分けて、三人の冒険者らしき旅人が船に近づく。ルウルウたちは甲板の上から、彼らを見下ろす。
「あ……ランダさん! ハラズーンさん!」
「ルウルウ! ジェイド!!」
「カイルも!!」
ランダ、ハラズーン、カイル――三人の仲間たちだ。
「よかった、間に合った!」
ランダが船上のルウルウたちに向かって大きく手を振る。
「ルウルウ! ジェイド! 必ず手紙、寄越しなよ!!」
「はい!」
ランダの言葉に、ルウルウが答える。
次にハラズーンが大声を上げた。
「我らのことは案ずるな! 息災で暮らせよ!」
「ああ、ありがとう!」
ハラズーンにはジェイドが答える。
「幸せになってよ、ルウルウ! ジェイドの旦那!!」
「ありがとう、カイル! あなたも!」
「カイル、元気でいてくれ!」
カイルの呼びかけに、ルウルウとジェイドは答えた。たがいに手を大きく振り合う。
そして出港の時間が来る。
「出港――――!!」
船長の言葉とともに、交易船は帆を広げて風を受けた。大きな船体が海へと解き放たれる。徐々に陸から離れて、青い海の上を滑り出す。
「さようなら、ルウルウ!」
「さらばだ、ジェイド!」
「さよなら、ふたりとも!!」
陸のほうから、三人が呼びかける声がする。ルウルウたちもそれに答え、波音に負けない声量で呼びかける。
「さようなら、ランダさん! ハラズーンさん!」
「さようなら、また会う日まで! カイル!!」
爽やかな風と水の音が、別れの言葉を飲み込んでいく。ともに冒険した仲間たちは、たがいが豆粒のように小さくなって見えなくなるまで、手を振り続けた。
「ああ……」
ルウルウは海風を受けながら、いつまでも陸の方角を見つめていた。陸は徐々に遠くなり、緑色も海の青さの中へと溶けていくようだ。
ルウルウの胸の中を、嬉しさと寂しさと、それを上回る涼やかな気持ちが満たしている。おそらくは感謝の気持ちだろう、と思い至った。
「ありがとう、みんな……ありがとう」
たくさんの冒険をともにした、仲間たち。もはや彼らには聞こえぬ言葉を、ルウルウはつぶやく。彼女の肩を、ジェイドがぽんと叩いた。
「ルウルウ」
「ジェイド……」
「東方大陸についたら、毎日手紙を書くか」
「うん、そうだね」
たとえ手紙は届かなくても、その誠意が風の噂で伝わっていくのを信じたい。ルウルウとジェイドは同じ気持ちだった。
やがて――交易船は東方大陸へ至るだろう。
そこから始まる、新たな冒険譚。真珠色のルウルウと、漆黒色のジェイドが紡ぐ、終わらない物語――その顛末は、ここでは書かない。ただこれだけは言えるだろう。幸福な結末があるということを。
「真珠色のルウルウ」おわり