目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

最終話 新たなる旅立ち(6)

 二ヶ月後――。

 今日は、ティウォーの港から東方大陸へ向かう交易船が出る日だ。交易の品とともに、東方大陸へ向かう客も幾人か乗っていく。その客の中に、ジェイドもルウルウもいた。


 港に着けられた交易船に、次々と荷物が運び込まれる。客も次々と乗り込んでいく。ジェイドたちも荷物の入った鞄を抱え、船に乗った。


 大陸間を渡る交易船は、港の中でもひときわ注目される。出港を見届けようと見物客が集まり、彼らを見込んで行商人や大道芸人たちも集まってくる。芸人たちが音楽を鳴らし、にぎやかに船を見送ろうとしていた。


「いよいよだ」

「うん」


 ルウルウとジェイドは甲板から港を見る。ティウォーの港――ひいては西方大陸を見るのは、今日が最後になるかもしれない。陸が見えなくなるまで、ルウルウたちは甲板で見届けるつもりでいた。


 にぎやかな港の様子を見ながら、一抹の寂しさを抱えて、旅立つ。それはすべての客に共通する感情だろう。ルウルウたちも同じだった。


「おー……い」


 港の陸の彼方から、駆けつけてくる者がいる。


「おーい! おーい、待った待ったァ!!」


 見物客たちをかき分けて、三人の冒険者らしき旅人が船に近づく。ルウルウたちは甲板の上から、彼らを見下ろす。


「あ……ランダさん! ハラズーンさん!」

「ルウルウ! ジェイド!!」

「カイルも!!」


 ランダ、ハラズーン、カイル――三人の仲間たちだ。


「よかった、間に合った!」


 ランダが船上のルウルウたちに向かって大きく手を振る。


「ルウルウ! ジェイド! 必ず手紙、寄越しなよ!!」

「はい!」


 ランダの言葉に、ルウルウが答える。

 次にハラズーンが大声を上げた。


「我らのことは案ずるな! 息災で暮らせよ!」

「ああ、ありがとう!」


 ハラズーンにはジェイドが答える。


「幸せになってよ、ルウルウ! ジェイドの旦那!!」

「ありがとう、カイル! あなたも!」

「カイル、元気でいてくれ!」


 カイルの呼びかけに、ルウルウとジェイドは答えた。たがいに手を大きく振り合う。

 そして出港の時間が来る。


「出港――――!!」


 船長の言葉とともに、交易船は帆を広げて風を受けた。大きな船体が海へと解き放たれる。徐々に陸から離れて、青い海の上を滑り出す。


「さようなら、ルウルウ!」

「さらばだ、ジェイド!」

「さよなら、ふたりとも!!」


 陸のほうから、三人が呼びかける声がする。ルウルウたちもそれに答え、波音に負けない声量で呼びかける。


「さようなら、ランダさん! ハラズーンさん!」

「さようなら、また会う日まで! カイル!!」


 爽やかな風と水の音が、別れの言葉を飲み込んでいく。ともに冒険した仲間たちは、たがいが豆粒のように小さくなって見えなくなるまで、手を振り続けた。


「ああ……」


 ルウルウは海風を受けながら、いつまでも陸の方角を見つめていた。陸は徐々に遠くなり、緑色も海の青さの中へと溶けていくようだ。

 ルウルウの胸の中を、嬉しさと寂しさと、それを上回る涼やかな気持ちが満たしている。おそらくは感謝の気持ちだろう、と思い至った。


「ありがとう、みんな……ありがとう」


 たくさんの冒険をともにした、仲間たち。もはや彼らには聞こえぬ言葉を、ルウルウはつぶやく。彼女の肩を、ジェイドがぽんと叩いた。


「ルウルウ」

「ジェイド……」

「東方大陸についたら、毎日手紙を書くか」

「うん、そうだね」


 たとえ手紙は届かなくても、その誠意が風の噂で伝わっていくのを信じたい。ルウルウとジェイドは同じ気持ちだった。


 やがて――交易船は東方大陸へ至るだろう。

 そこから始まる、新たな冒険譚。真珠色のルウルウと、漆黒色のジェイドが紡ぐ、終わらない物語――その顛末は、ここでは書かない。ただこれだけは言えるだろう。幸福な結末があるということを。



 「真珠色のルウルウ」おわり

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?