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第87話

 護衛について三日目

 この日は何事もなかったが、暗殺者が残した些細すぎる情報の解析が行われていた

 恐らく何も出ないとのことだが、暗殺者の来ていた服が残ったので、それを魔法で分析しているようだ

 それにはアネモネも加わっている

 どうやら彼女は魔導書や魔法書を読み漁ったことで様々な魔法を習得し、それには解析なども含まれているようだ

 役に立ってきますと言って嬉しそうに行ってしまった

 だから今日は俺とファンファンだけだ

 手練れの暗殺者相手にいささか不安だが、ファンファン一人でも対処できるだろう

 俺はもしもの時のために盾になるくらいの覚悟はできてる

 この身一つで守り切れればいいが

 一応体を硬化させる薬も飲んでるから、そんじょそこらの武器の刃は通らない

「今日も暇だなぁ旦那様。護衛ってもっとこうドーン!バーン!って感じだと思ってたのに」

「我慢しろファンファン。これも仕事なんだから」

「はーい」

 夜もすっかり深くなったころ

「旦那様、何か変な気配がするぞ」

「む、まさか暗殺者か? でもアネモネの魔法に引っかかってないな」

 アネモネの探知魔法はこの城の者以外が侵入すると警報が鳴るようになっている

 それが鳴らないが、ファンファンの野性的な察知能力も俺は信じている

 勘違いもありえなくはないので、女王を起こさないようにゆっくりと扉を開けて中を見る

 真っ暗だが、俺は薬の影響で昼間のように見えていた

 そこに一つに影がある

 背は高くなく、かなり小柄だ

 それが女王の真横に立っていて、何かを振り上げていた

「この!」

 俺はナイフを投げてそいつの持つ何かをおとさせた

「ぐ、クソ、なぜバレた」

 少女の声?

「こうなったら」

 魔力の膨れ上がる気配がする

「まずい! ファンファン女王をかばうんだ!」

「分かった!」

 ファンファンに彼女をかばわせ、俺は収納袋から大盾を取り出して敵と俺たちの間に挟み込んだ

 この大盾には守りのための魔石が組み込まれている

 地面にドスンと立てられた大盾はすぐに結界を展開した

 膨れ上がる魔力

 暗殺者の体がみるみる膨れ上がった

服が破け、小さな女の子の姿が見える

「嘘だろおい!」

 俺は気が付くとその子を体で押さえつけていた

「な!? なにしてんだ! やめろ! 女王を殺さなきゃ!」

 俺のとっさの行動に驚いた少女は膨らむのが止まり元のサイズに戻った

「やめろ放せ! この変態! ボクの命に代えてもこいつを殺さなきゃ! 三号が!」

「大人しくしてくれ、君を傷つけたくはない。頼むから・・・」

 俺はこの子の言葉で悟った

 人質を取られている・・・

 俺の目に浮かんだ涙を見て、彼女は大人しくなった

「なん、だよ・・・。ボクにどうしろって・・・。ボクはどうすればいいの?」

 少女は頭を抱え泣き始めた

 本当にまだ小さな少女。恐らく10代前半だろう

 俺が少女を落ち着かせるために頭を撫でていると、女王が目を覚まして俺たちがいることに驚いていた

 ひとまず事情を説明し、他のメンツにも来てもらって彼女を拘束し、魔法を使えないよう魔力を縛る魔道具を付けた

 この子をどうするか、それが問題だな


 捕まえた少女は涙目で何も話さない

 俺たちがいろいろ質問してもただ黙り込む

「なぁお嬢ちゃん。頼むから何か話してくれ」

 俺は優しく彼女に話しかけるが、ぷいっとそっぽを向いて黙ったままだ

「おい、そんな優しく話しても駄目だろう! 俺が吐かせてやる!」

 ダンが少女につかみかかろうとしたが、俺はそれを止めた

「なぜ止める!」

「落ち着いてくれダン。この子を見ろ。怯えてるだろう」

 この子は恐らく暗殺集団に人質を取られて、自爆してでも任務を遂行するよう言われているんだろう

 それによって人質は助かると吹き込まれているんだろうが、そう言った手合いは約束など守らない

 その人質の子もどうなるかは分かったもんじゃないだろう

「ほら、お腹すいただろう。これでも食べて、な」

 俺は手作りのクッキーを彼女の前に出した

「いい匂い」

 ようやく喋った

「これ、食べていいの?」

「ああ」

 少女はすぐに手をだし、クッキーをむさぼり始めた

「おいしい?」

「うん!」

 口いっぱいに頬張って、子供らしい一面を見せる

「名前は?」

「もぐ、むぐ、ムシャムシャ。ゴクン。ボクは、四号」

「四号? それが名前?」

「そう呼ばれてた」

 それから彼女は少しずつ話をしてくれた

 自分たちは孤児で、知らない大人たちに買われて暗殺技術を叩き込まれたらしい

 かなりの数の孤児がおり、暗殺技術を学ぶ間に幾人も死んだそうだ

 その中で、彼女と仲が良かったのが三号と呼ばれる少女

 その三号は彼女よりも実力が劣るのだが、唯一彼女の友人と呼べる少女だったようだ

 そして発任務、この国の女王を暗殺するよう命令された彼女は、失敗した場合自爆してでも達成するよう言われ、もし逃げ帰れば三号を殺すと言われたそうだ

 なんてことを

 こんな幼い少年少女を使うなんて

「うぉおおお!! 俺は、俺はこんな子になんてことを」

 号泣するダン

 やっぱりこいつ、良いやつだな

「それで、その暗殺集団はなんて言うのか分かるかな?」

「黒、ただそう呼ばれてた」

「黒・・・?」

 俺どころか周りも聞いたことがないようだ

 本当に深いところにいる組織なのかもしれないな

「何処が拠点かは、さすがに知らないかな?」

「うん。拠点はいろいろ移動してる。ボクはこの国に転送されて、そこから任務を開始した」

「転送魔法か。その転送された場所は?」

「裏路地。目印は赤い看板」

「ありがとう。君と三号は必ず助け出すよ」

「う、うう、うわあああん」

 俺がそう声をかけると、彼女は大泣きし始めた

 今まで辛い思いをしてきたのだろう

「アネモネ、転送魔法を逆探知、みたいなことはできるかな?」

「恐らくできます旦那様」

「頼む」

「はい!」

 アネモネは優秀だな

 彼女に拠点の位置を特定してもらう間、四号と呼ばれたこの少女をなだめ、大臣に処遇をどうするかを聞いた

「女王様がこの子を咎めないとのことですじゃ。まったくお優しい。本来ならば牢に閉じ込め、二度と日の目は見れぬのですがな・・・。じゃがわしも、賛同しますじゃ」

 よかった。四号についてはどうにかなりそうだな

 まあまた自爆しないように魔力は封じたままだが

 それからしばらくして、アネモネが場所を特定したと帰って来た


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