鬼人のテンは陽気な性格で、様々な話をしてくれた
どうやら観光ガイドをしながら他にも仕事をしているらしい
なんでも弟たちを食べさせるため必死なんだそうじゃ
「両親がね、数年前にアヤカシに喰われて死んじゃったんだ。だからあたしが弟たちを食べさせてんの」
アヤカシか
キガシマ周辺の海に住む巨大な魔物じゃな
全長数百メートルという巨躯に、妖術という力を操る
危険な魔物じゃが、近づかなければ攻撃してくることはない
それが、人を喰らったじゃと?
おかしいのぉ
「ふぅむ、テンよ。そのアヤカシはよく出没するのか?」
「うん、しょっちゅうだよ。あたしが小っちゃいころはそんなことなかったのに・・・」
しょっちゅう出るか
それもおかしい
アヤカシは魚を食い、食いだめした後は数年寝る
活動期は一か月ほどで、テンの両親が喰われてそこからずっと出続けているとしたら、異常事態じゃ
アヤカシは特Sランクの魔物
Sランクの冒険者数人でかからなければ討伐できん
まあわしなら簡単じゃが
「あ、ここは駄目なんだった」
「駄目? 何故じゃ? 見たところ民宿などがあるようじゃが」
「ここはね、今他国の偉い人がいるんだって。だから近づいちゃ駄目って言われてるんだ」
「そうか、ならば他を案内してもらおうかの」
「うん!」
その後テンに色々と案内してもらい、大満足の一日じゃったわ
彼女の弟たちにも会ってみたが、何と可愛らしい
・・・
ふぅむ、わしも子を可愛いと思えるようになってきたか
わしとカズマの子はどんな子になるじゃろうな
来ない未来に思いをはせ、わしはテンに礼を言ってまた金塊を渡した
それと
「礼ついでじゃ。お主の両親の仇、わしが取ってこようかの」
「え!? 駄目だよお姉さん! あれは人が立ち向かえない災害だって姫様言ってたよ! 危ないよ」
「わしはな、これでもSランクの冒険者にして稀代の大魔法使いじゃ。あの程度どうということはない」
「で、でも」
「安心せい。ちゃちゃっと倒してパパっと帰ってくるわい」
そしてわしは魔法で空を飛び、アヤカシの元へと飛んだ
アヤカシか、久しぶりに喰ろうてやるかの
バカでかいウナギみたいなもんじゃ
かば焼きがうまいんじゃよ
数千年ほど前に一度喰ったことがある
さて、アヤカシなら今の力でも十分勝てるじゃろう
これでも元はダークドラゴン
世界自体を破滅させることのできる終末の獣と呼ばれることもあった
そんなわしからしてみれば、アヤカシなぞその味通りウナギみたいなもんよ
「ふむ、あのあたりか」
魔力で感知する必要もないほどに巨大なウミヘビの姿が空からはっきりと見えた
うねりうねって周囲の魔力を喰らっておる
まったく、育ちすぎじゃろう
まずはあぶりだす
「黒炎、ヴェラヴァラ」
わしほどになれば魔法の深淵をその場で召喚できる
これはわしが消さねば決して消えぬ炎
水の中でも消えることはない
それをアヤカシに向けて放った
「ジュガァァアアアアア!!!!」
島全体に響くほどの咆哮
全くうるさいのぉ
「ほれほれ、もっと焼いてやろう。こんがりとな」
さらに火力を上げてアヤカシを焼く
そもそもこいつはでかすぎて討伐が難しいだけで、対処の仕方はある
火にかなり弱いからな
そのまま火力を上げ続け、やがてアヤカシはなすすべなく死んでしまった
あとに残ったのはうまそうな匂いを漂わせる巨大ウミヘビ
「これだけあれば島の食料として申し分ないじゃろう。む、騒ぎを聞きつけて鬼人たちが集まって来たな。めんどくさいからパパっとわしに必要な分だけ取ってテンの元へ帰るとするか」
素早く肉を切り取り収納し、テンのいる方向へと戻った
「あ、お帰りなさい! 今すっごい音が聞こえたけど、あれってもしかして」
「うむ、アヤカシをこんがりといい塩梅に焼いてきた。うまいぞ」
「えええええええ!! ほんとに倒しちゃったんですか!?」
「あんなもん、ただでかいだけのウミヘビじゃ。対処法さえわかっとれば誰でも倒せる」
「あはは、それはまた無茶を・・・。でもありがとうお姉さん。両親の仇、取ってくれて」
「うむ、わしからの礼じゃ。それとほれ」
わしは収納から取り出したアヤカシ肉をテンに渡した
「こ、これって」
「うむ、アヤカシの肉じゃ。焼き直して醤油でもかけて喰うといい。うまいぞ」
「いいんですか!?」
「礼じゃと言ったじゃろう。遠慮なく食うのじゃ。弟たちにもわけてやるのじゃぞ」
「う、うう、ありがとうお姉さん!」
しかし本当におかしいのぉ
あれほどの巨大なアヤカシが育つには魔力の流れ、龍脈が近くにあるはずだったんじゃが、やつがおった場所は龍脈からほど遠い・・・
なにが奴を育てた?
考えても仕方がない。わしがここへ来たのはビスティアの王兄を見つけるためじゃ
この地におるのは間違いない
テンが言っておった偉い者達が集まっている場所が怪しいと見とる
ひとまず行ってみるかのぉ
テンにもう一度礼を言うと彼女と別れてその場所へと戻った
姿を虫に変えて内部へと侵入
中にいたのはこの国の中心人物たちと思われる鬼人たち
そしてサイラらしき男が一人
「駄目です! そんなことをしては、よりいっそう溝を深めるだけです」
「君に理解してもらおうとは思っていない。これは我らの問題なのだから」
「ですが!」
「ハク、こういう手合いはいくら言ってもダメよ」
「姉様・・・、でも」
む、あれはこの国の二姫、ハク姫とクラ姫か
その美しさから世界に名をとどろかせておるらしいが、わしのほうが美しいじゃろ
それとあのサイラの男、この二人と対等に話ておるということは、サイラの重鎮、いや、長か
「話は終わりだ。我らサイラはワコクへ攻め入り国を取り戻す」
「カガミ、あなたはそれでいいのですか?」
「ええ、兄様がそう言っているのだもの。ハク、あなたもこちらにつきなさい。鬼人も元はワコク周辺に国を置いていたはず。それがかつてのダークドラゴンによる襲撃のどさくさにまぎれ、ワコクの者たちに国を取られた。我らサイラは鬼人の血も混じっているわ。あなた達鬼人とは言わば家族。共に、戦ってくれるでしょう?」
「でも、だからと言ってあのような男と組まなくても」
「俺たちには悪とは言えあの男のあの力が、必要なんだよ」
「ミズキ・・・」
サイラの長がミズキ、その妹のカガミか
ふむ、それとあの男と言うのが気になる
もう少し調べてみるか
会談は終わったらしいの
サイラの二人が帰って行き、そこには二姫が残された
「姉様」
「ハク、私は別方向からこの戦争を回避するため動くわ。可愛い妹、あなたはあの二人の説得をもう一度お願い」
「わかったわ姉様」
二姫の話し合いも終わり、この場に誰もいなくなった
「さてと、サイラの二人を追ってみるかのぉ」
虫の姿のまま彼らを追って飛ぶ
「兄様」
「ああ分かってる」
突如二人が振り向きわしを見た
「何者だ?」
その一言を放った直後に刀を抜き、ミズキという男はわしに斬りかかった
「うおっと」
「やはりか。貴様何者だ?」
「これを見抜くか、手練れじゃのぉ」
「何者かと聞いている!」
妹の方も殺気立っておるわ
どうしたもんかのぉ、二人をのすのは簡単じゃが、ここで派手に暴れるわけにはいかん
まさかわしの変化を見抜く目を持つとは・・・
ここは一旦引くか
見えぬ魔力の糸で二人をターゲッティングしておるし、大丈夫じゃろう
「何者か?か。気になるならそのまま気になっておけ。じゃあの!」
そのままわしは転移魔法でテンの家近くまで戻った