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第93話

 黄泉平坂と呼ばれる冥界

 そこに一人の体が腐り落ちた女性と、雄々しい男性が玉座に腰かけていた

「母上、父上もどうやら手を貸すようです」

「あの男、ちゃっかりとわらわのものを・・・。まぁ良い。お前含め我が子らが手を貸しておるゆえ、多少のことは目をつぶろう」

「ですがタケミカズチまで手を貸すとは思いませんでした」

「あれは戦神。戦々恐々こそ本分であるからな。高ぶったのだろうのぉ。ところでスサ、それはなんじゃ?」

「壊れた魂ですよ。少し修復すれば輪廻の輪に返せそうなので」

「ふむ、わらわに寄こすがよい。これはカズマが必要とするじゃろう。いずれの話じゃが」

「分かりました」

 二人、いや、二柱の神はお気に入りの人間の様子をうかがう

 日ノ本にありし主神たち、八百万の神々

 彼らはとある一人の男にご執心だった

 かつて神を降ろす器としての役目を担った王の血筋の女性

 神の厄災を鎮めるためその体に神を宿し旅をした、その役目を斎王と呼ぶ

 神と波長が合わなければ器は壊れ、廃人となってしまう

 だがその男は違った

 全ての神と波長が合い、その力を全て引き出すことができる

 これは神々が生まれてからかつてないほどの出来事だった

 それ故に神は彼を愛し、慈しみ、死した後はその魂を別世界へと送り、彼の第二の生のサポートをした

 斎王の血筋ではないにもかかわらず、彼がその力を持ったのは神々ですらうかがい知れないことではあったが、特異点のように彼は日ノ本の神々の中心となった


 一方天界にて、美しい男性と、太陽のように輝く女性が立っていた

「お父様、お母様が」

「はぁ、イザナミも当然動くか。ツクヨミは何を?」

「それがあの子、勝手に体を使って」

「ふむ、あまり我らが力を貸すのも褒められたものではないが、あの世界に神はいない。いや、正確にはいなくなったと言うべきか。神のいない世界は長くはない。とは言ってもカズマの寿命よりは長いだろうが・・・。待てアマテラス、これは」

「はい、止まっています」

「なんということだ・・・」

 男は頭を抱える

「イザナミか?」

「はい、神がいないのならば神にしてしまえと」

「何を考えているんだ! 怒られるのは私なのだぞ」

「お母様は、自由ですから」

「はぁ・・・、仕方がない。八百万もいるのだ、一人くらい異世界を管理する神がいてもいいだろう」

「心中お察しします」

 ため息をつく二柱は再び水鏡でカズマの様子を見始めた


 目を覚まして吹っ飛ばされたことだけを思い出した

 また俺は役に立てず、早々に気絶していたらしい

 ここは、王宮の俺にあてがわれた部屋か

 ゆっくりと起きあがるといきなり抱き着かれた

「旦那様!」

 ギシギシと骨が音を立てる

「いたたたたたた! やめろファンファン! 痛い!」

 自分の力の強さを理解していないのか、俺は全身の骨が砕かれそうになった

「ご、ごめん旦那様。でも目を覚ましてくれてよかった。三日も寝込んでたからな」

 どうやら頭を打って寝込んでいたらしい

 ここにいるのはファンファンと、アネモネか

 アネモネの方は寝込んでいる

 ずっと看病してくれていたんだろう。本当にいい子だ

 もう動けそうだから立ち上がり、部屋の外に出るとダンがいた

「おお! 目ぇ覚めたんだな! お前はすげぇよ! あんな力使えるとは思わなむぐ」

「ダン・・・」

「むぐ、おおすまんすまん、顔が見れてよかったぜ。あんたの連れのおかげで無事ビスティアまで戻れたしな。それとあの少女たち、国預かりになるそうだ。とは言っても治せないかとか、城で面倒見るって話しだから心配すんな」

 マナがなぜかダンの口を塞いだが、それよりもあの二人の子供が無事でよかった

 あの後の話を聞いた

 謎の男を何とか退けたらしく、その後さらに奥へ進み、全員が驚愕した

 そこには暗殺者だった者たちの死体が積みあがっていたそうだ

 その死体はどれも一部がかけていて、それ以外に外傷はなかったらしい

 暗殺集団は既に壊滅していたことから、あの男の仕業と考えられる

 だったら、あれは一体なんだったんだ?

 自分で組織したものを、自分で壊したのか?

 それにしては違和感がある。何とは言えないが、あいつからは得体のしれないモノが漂っていたんだ

「ともかくよぉ、これで女王様はもう狙われねぇってことだよな?」

「いいえ、まだ王兄が残っているわ。彼が野心を抱く限りまた必ず狙われ」

 その時突然城全体が揺れた

「な、なんだ?」

 驚いていると兵がこちらに向かってきているのが見えた

「大変です皆さん! 城に化け物が突然飛来してきて、女王様を!」

 驚いて窓を開け、外を見ると、巨大な化け物が女王を掴んで城を破壊していた

「なんだあれ・・・。魔物か? 見たことないぞあんなの」

「ともかく女王様を助けなきゃ」

 ガーディがまっさきに走り出した

 それに続いて俺たちも走る

 襲撃した魔物は体中がボコボコと膨れがっており、話に聞くトロールに似ている気がするが、顔はどろりと崩れていてまるでゾンビのようだ

「ラヴィナァァアアアアアア!! ラヴィナァアアアアアア!!」

 何かを叫んでいる? いや、鳴き声か?

「う、ぐぅ、助、け、て」

 今にも握りつぶされそうになっている女王様

「うぉおおおお!!」

 ダンは飛び上がり、大剣で女王を掴む手を斬り落とした

「マナ!」

「ええ!」 

 落ちて行く女王をマナが見事にキャッチした

「ラヴィナァアアア!! ラヴィィイイ!!」

 変な鳴き声を上げながら魔物はマナと女王の方を見る

「オラァ!」

 さらにダンが魔物の胸辺りを斬った

「ラヴィィイイ!!」

 城頂上から中庭へと落ちる魔物

 やつはグニグニと肉体を動かし、その姿を変えた 

 それはまるで竜のような姿になる

「グラアアアアアアアアア!!!」

 咆哮が響く

 第二回戦、ってところか?

 ファンファンと俺も武器を構え、後ろでアネモネがメイス型大杖を構えた


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