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第105話

 魔王はまず数千年前、魔王軍と勇者たちの戦いのことから教えてくれた

 ヒト族と魔人たちは相いれない。そのため起こった諍い

 その戦いでヒト族代表として立ち上がったのが、勇者ランスだった

 歴代最強にして、あのダークドラゴンをも倒した勇者の中の勇者

 彼は様々な魔人と戦い、その中で話を聞き、ついには魔王とも和解したのだった

 歴史書などに残っている話とは全く違う

 こっちが本来の話ってことか

 伝わっている内容は、魔王は非道で残虐。勇者が和解を申し出たのを無下にし、結局勇者に倒されてしまったと伝わっているのだ

「ランスも、その妻であった彼女、聖女リアラスも、私達の話を聞いてヒト族との橋渡しとなってくれました。最初のうちこそヒト族と私達魔人は、友好関係を結べていたのです。ところが、突如としてヒト族が私達を裏切りました。勇者ランスが制止しようとも聞かず、先の戦いですでに疲弊していた私達は、次から次へと討たれ、死んでいきました。その時最も悲惨な目に遭ったのはセリでした。あの子は今も心を閉ざしてしまっています・・・」

 そして彼女は話をつづけた

 呼吸も苦しいのか、深呼吸を繰り返している

「殺された私達は、そこで終わりのはずでした。それが数年前のこと、突然私は、死したこの赤の山で目覚めたのです」

 何者かに甦らされた彼女は、その力の大半を失い、人間にもらった致命傷の一撃の傷が残ったままだったという

 そして彼女と同じように、魔人たちは目覚めていた

 それぞれ殺された場所でだ

「蘇った私達は、ヒトとの道を歩むべきか、それとも敵対し、魔人の住みやすい世界を作るべきかを悩みました」

「魔王オレガ様はお優しい方だ。ヒトと共にあるための努力を怠ったことはなかった。その努力を踏みにじり、約束を反故にし、優しいオレガ様を傷つけたお前たちを、私達魔人は許せなかった」

 オレガの話をさえぎって、横にいた女性は言った

 特徴から恐らくバジルーシャだろう。魔王の右腕にして、一つの体に三姉妹が宿っているというケルベロスの魔人

 厳格そうな性格から、今は長女ロロの人格のようだ

「あたしら魔人はさ、元々魔物だ。お前と戦ったミンティも、ロイドもな。でもな、あたしらはヒトと同じように考えれるし、感情だってあるんだ。仲間が楽しそうにしてれば嬉しいし、危害を加えられれば悲しいんだ」

 そう言ったクーミーンも、アロエラも。確かに話してみるとレナやミリアと同じように、ヒトと同じように感じる

「ランスはね、本当にみんな仲良くってのが好きな人だったの。幼馴染だから知っているのだけど。子供のころからそうだった」

 俺はそんなのろけ話も親身に聞き、魔王たちへの考え方を改めなおした

「それで、オレガさん。話はそれだけじゃないんでしょう?」

「ええ、ここからが本題です。確かに彼らヒト族は裏切りました。私達を、ランスを。それでもおかしいのです。私達を歓迎してくれ、本当に仲良くしてくれたヒトたちもいたのです。そんな彼らまでもが、私達の敵となっていたのです」

「それは一体・・・」

「私達は何者かに甦らされたと言いましたね。そして、私達の中には離反した者がいるのです。それがチーパックです」

「他にいない魔人もいるが、ハッカは武者修行、ローズマリーは世界中で情報収取をし、新たな情報を得る度に戻ってきてはいる」

「チーパックだけ様子がおかしかったのです。何も告げず、突然いなくなりました」

「一人でヒト族全体に挑もうとしたってことか?」

「いいえ、それは違います。彼は慎重な性格でした。一人でなどまずありえないのです」

 だとしたら・・・。そうか俺の感じた違和感

「操られて」

「ええそうです。そしてこれは、ダークドラゴンのことや、かつて神獣と呼ばれながらも邪竜に陥れられた竜、ティフォンのことともつながる話なのです」

「ティフォン?」

 聞いたことのない竜の名前だ

 この国は神竜アルビオナによって守護されている

 その竜以前に、別の竜が守護していたということなのか?

「神竜ティフォンは、アルビオナ、そしてダークドラゴンたるティアの母です」

「え!?」

 そんな話は聞いたことがなかった

 ダークドラゴンはアルビオナの敵で、勇者ランスと相打ちになって死んだと伝わっている

 それが実は間違いだったのか?

「ティフォンはかつて、とある勇者によって貶められ、殺されたのです。その勇者は私達魔人とヒト族との関係も、壊しました」

「それじゃあそいつが原因ってことなのか?」

「ええ、名前をセイヴ。闇勇者セイヴです。リアラスが全て教えてくれたおかげで、私達は本当の敵を知ることができたのです」

「教えるべきかどうかは迷いましたけどね。でも、戦争を仕掛けようとしたのを止めないきゃって思って」

「ええ、知らなければ私達は、ヒト族との戦いを選んでいたことでしょう」

「そうか、それであのミンティって子も」

「いやそれは違うぞ。あいつが暴走したのは、お前が原因だ」

「お、俺が?!」

「ああそうだ。お前、自分の力分かってんのか?」

「俺は、そりゃあ確かに生活スキル関係だけは自信がある。といっても料理を作ったり鍛冶で武具を作ったりってのが関の山だし」

「はぁ、ほらなオレガ様。こいつ何もわかってないわ」

「恐らく彼の中の者がプロテクトをかけているのでしょう。彼に悟られないよう、気づかれないように」

 何を言ってるんだ魔王たちは・・・

 俺の力? 俺の中にいる者?

 そんな疑問が頭の中をぐるぐるとめぐっているとき、突如として俺の体が光り、その光が人型となって目の前に立った


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