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第124話

 見えた!

 フェンリナイトからこの星の裏側にある国、魔族の国ディエン・マ・ソレ

 魔族はかつて魔物と同じ扱いだったらしく、ヒト族の一種族とは認められてはいなかった

 しかし遥か昔、とある勇者の活躍によって魔族はヒト族として認知された

 まあ魔力が高いのと、角がある以外普通の人間と見た目は変わらない

 現にフェンリナイトやシュエリアにも少ないけれど姿を見ることがある

 彼らは魔法に長けていて、ルカが化けていたアルクも魔族だったため、あれほどの魔力を持っていても不思議がられなかった

 今回の首脳の集まりにディエンの王は来ていなかったらしく、無事なようだ

 というのもディエンの前王と女王は既に亡くなっており、現在は一人娘が女王になっているんだが、病弱であまり動けないらしい

 死に至るほどではないが、常にめまいがするんだとか

 女王が政治に関われない中、彼女の優秀な臣下が国を回しているらしい

 まだ若いため、許嫁というものもない

 年齢的には確かビスティアの女王よりも年下だ


 俺はそんなディエンにいる白い少女を見る

 どこか悲しそうな顔をしている少女だが、そこには決意のようなものも見えた

 そして彼女は街の方に手を向けた

「まずい!」

 俺はすぐに転移して月の女神の力を借りた

「月の守護!」

 少女のその一切に迷いのない攻撃は守りに入った俺を襲った

「こ、これは・・・」

 とんでもないほどの精神汚染?

 守りが無ければ俺は正気を失って絶望の中死んでいただろう

「邪魔をしないで」

 少女には角があった

「君は、魔族なのか?」

「ええそう。元、ね。今の私は天使。神となられるセイヴ様の従順なる使いの一人。名前はメシア」

「メシア・・・」

 救世主という意味だな

 セイヴにしてもそうだ

 セイヴァー、それは救世主を意味している

 何が救世主だ。犠牲の上に成り立つ救世なんてない

「この国は、弱者を救わない。弱いものは淘汰されてただ死ぬだけ。私もそうだったから」

「君は、やはりこの国で」

「ええそう。私達白き世界、天使はセイヴ様に救われた子供達で構成されている。そう、私達は救われた。だからセイヴ様は神様なの」

 そうか、この子はこの国で辛い目に遭って生きて来たのか。それを、理由はどうあれセイヴは救った

 この子達にとってセイヴは本当の救世主というわけだ

「でも、だからと言って、国を壊し、大量虐殺を行うことが君には本当に正しいことだと思うのか?」

「・・・」

 メシアは無言で僕に手を向けた

「分かり合えない。あなたは幸せだったでしょう?」

「それは・・・」

 そうだ。俺は前世も今世も、両親に、そして周りに恵まれていた

 愛されて育って愛されて生きて来た

 この少女の気持ちを分かってあげることはできない

 だが

「分からない。分からないけど、寄り添うことはできる。分かろうとすることはできる。俺が出会って来た人達から与えられたものを、小さいかもしれないが与えることはできる」

 今にも泣きだしそうな少女は、その手をゆっくり下ろした

「あなたはセイヴ様と同じ目をしている。本当の優しさが何かを知っている目。本当に愛を与えられる目」

「セイヴが?」

「私にも理由は分からないけれど、セイヴ様は心に大きな傷を持っている。ねえ、私達を救うなら、あの方も救って! どうか、お願い、します」

 メシアという名の少女は涙を流し、嗚咽を漏らし、俺に頭を下げた

「どうにかするさ。子供の願いをかなえるのが大人の務めだ。なってやるさ。世界の敵になろうとしているセイヴの、たった一人だろうと味方に」

 その時急に背中に悪寒が走った

 誰かに見られている。そんな気配だ

「セイヴ、見ているのか? ならもうやめないか?」

 そう言ってみたが、気配は何も答えなかった

 あくまで自分の決めた道を突き進むつもりなんだろう

 セイヴを救う

 この俺に出来るのだろうか?

 不安はある。だけど、これは俺がやらなくちゃいけないんだ

 俺を見ている気配が消える

 今セイヴは何を思っているのだろうか?

 それは彼にしかわからない

 俺はただ、今出来ることを精いっぱいにやるだけだ

 ディエンからフェンリナイトへと戻る

 一人で急に転移したためファンファンが抱き着いてきた

「よかった! 無事だったんだな旦那様。今後オレたちを置いて行かないでくれ! せめて誰か連れて行くんだぞ」

「あ、ああ悪かったファンファン」

 ファンファンの抱き着きを引きはがして俺は首脳たち亡き今指導者として立ったラフィナ女王に、今しがた起こったことを話した

 当然ラフィナ女王も苦い顔をし、頭の中で考えをまとめようとしていた

「しばらく考えさせてください」

 彼女はそう一言だけ言うと、あてがわれた自室へと戻って行った

 俺たちもその日は早めに休むことにした

「大丈夫だ旦那様。旦那様はすごいんだ。きっとなんとかなる!」

 ファンファンの慰めのおかげか、心がいくらか軽くなったな


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