アルナ、スタア、プリス
君たちに捧げるこのニューワールドオーダーを見ていてくれ
あれは僕が勇者になる前のことだ
アルナ、スタア、プリスは僕の幼馴染たちだった
引っ込み思案だが魔法の才能があり、僕の恋人だったアルナ
負けん気が強く兄貴肌で、仲間のために動ける正義漢のスタア
気は強いが優しいプリス
僕たち四人はいつも一緒で、そしてそれは僕が勇者になってからも変わらなかった
僕たちは幸せだったんだ
でも、魔王との戦いで僕以外皆死んでしまった
ヒト族に裏切り者が出て、奇襲をする予定だったのがすでに敵にばれていて
待ち伏せされてあっという間だった
最初にスタアがプリスをかばい、魔法で頭を吹き飛ばされて死んだ
プリスはスタアのその光景を見てへたり込み、そこを囲まれ切り刻まれて死んだ
最後に、アルナが僕を逃がそうと魔法を撃とうとしたところで、魔人の炎によって炭化するまで焼かれて死んだ
あの可愛かった彼女は、ただの黒焦げの炭になってしまった
あの時からだ。僕の心から決定的な何かが零れ落ちたのは
魔人も、魔王も、ヒト族も
ユルサナイ
それから僕はヒト族と魔人、魔王との和平に尽力し、史上初の魔人とヒトの懸け橋となった勇者になった
ああ、君たちは幸せになれたね。良かった良かった
本当に、良かったよ
僕はまず、ヒト族を止めず、僕の仲間を死に至らしめた神竜を殺害した
この時から闇を扱う術を覚えた
そのおかげで神竜の娘の一人を闇に染めれた。まあその闇を克服できたのは予想外だったけど
次に僕は姿をくらました
魔人やヒトを操り、互いに殺し合わせる
そのためには暗躍が必要だった
数年を要したが無事魔王を暴走させ、ヒト族と魔人は再び争うようになった
だがそれで世界が滅びるわけじゃなかった
それからも僕はいかにして世界を滅ぼそうかとあの手この手を使ったが、世界崩壊を防ぐ抑止力とやらに阻まれてことごとくが失敗した
だから僕は力をつけることにした
まず禁忌に手を出し魂を改造し、寿命をなくした
僕は人間じゃなくなったんだ
そして数千年間、ただひたすらに力をつけ続け、僕は次元や世界すら渡る力を得た
これはたまたまだったんだ
本当にたまたま、流浪の神を捕獲し、その力を奪えた。ただそれだけの事
そのおかげで僕は様々な世界を渡り、さらに力をつけることができた
この世界の比にならないくらいに魔物一匹一匹が強い世界もあったし、まるで魔力のない文明の進んだ世界もあった
時には時間の流れの違う世界もあり、そこでの数日がこちらでの数百年にもなる世界もあった
そうこうしているうちに、僕が仲間を失ってから数千年という年月が経ってしまった
時間は、僕のこの憎しみと怒りを風化させてはくれなかった
むしろ日に日に増してくる僕の復讐心
仲間との思い出は強く強く蘇るばかり
傷はさらに深くなった
そして僕は、あの輝くような勇者と出会った
勇者ランス
彼は光そのものと言ってよかった
僕の闇を明るく照らし、その慈愛に満ちた心は眩しかった
彼は僕をも救おうとしていたんだ。もはや汚れ切ったこの僕をだ
ランスは僕にとって天敵と言ってよかった
でも、僕の計画は変わらない
暗躍し、ランスの目的を打ち砕き、最終的にはランスとダークドラゴンを相打ちにさせることに成功した、かに見えた
ああ、それも僕の驕りだったな
結局はランスとダークドラゴン、いや、ティアにしてやられたわけだ
あの時相打ちのように見せかけ、陰で見ていた僕にランスとティアの攻撃が直撃した
ランスの命と、ティアの全てをかけた一撃
それは様々な力を身に着けた僕の命に届きうるものだった
攻撃により死の間際まで追い詰められた僕は、そこから回復するのに長い長い年月を要したんだ
そして現代に僕は蘇った
もはやランスもおらず、魔王たちもいない世界だった
まず僕がやったのは、ランスの時代に生きた魔人と魔王を甦らせることだった
この勇者のいなくなった世界で混乱を引き起こさせるためだった
だけど、蘇らせた魔王は自我を取り戻し、力を失いながらも抗って僕の手から離れた
しかし、放っておいても良かったんだ
魔人たちは自分達を騙したヒト族を憎んでいたからね
そして誰にも姿を見せず、僕は世界中で不穏の種をまいて置いた
だけどそれも失敗した
生きていたティアによってすんでのところで防がれていたんだ
猫の姿になり、力は失っていたが、彼女もまた暗躍しながら僕の計画をつぶして回っていたんだ
そして、僕が直接手を出していた計画も、一人の男につぶされた
どう見てもただの人間で、その人間の中でも弱い部類の男のはずだった
でもやつは、あいつは、異世界の神々に愛されていた
あの力は理不尽だった
長い年月をかけてつけた僕の力と同等か、それ以上かもしれない
それにあの男は、どことなくランスに似ていた
誰にでも優しく分け隔てなく接し、仲間のために勇気を見せるあの姿
その姿がずっとランスと重なっていた
再び相まみえたあのまばゆい輝きを、カズマという男は持っていたんだ
あの光はだめだ。僕の、この怨嗟を、復讐心を風化させてしまう
それほどに優しかったんだ
だめだ。だめだだめだだめだ
僕の、大切な仲間達。あれだけ人々のために尽くしていたのに裏切られ、非業の死を遂げた仲間達
彼らのためにも僕は怒りを煮えたぎらせなくちゃいけないんだ
目をつむって過去を、故郷を思い出す
笑顔で僕と抱き合うアルナ
共に剣の修行をしていたスタア
勉強しろと口うるさかったけど、いつも差し入れを持ってきてくれていたプリス
三人は僕の思い出の中ではいつも笑顔で、そしてそれは死に顔に変わって行く
苦しい、ずっと胸が痛くて苦しいんだ
だから僕は、必ずこの世界を導く神になる
そして世界は争いのない愛の満ち溢れた世界になるんだ
僕はその目的のため、ただ前を見て歩き続ける
それだけが僕の生きる意味だから