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第126話

 少女からのSOSを受けてから数日

 俺はどうセイヴを救えばいいのか悩んでいた

 相変わらず世界各地でセイヴの部下が暴れて入るのだが、俺が到着したとたん逃げることから、恐らくそうするようセイヴに指示されているのだろう

 ともかく考えるのは後回しにし、残るセイヴの部下を倒すことに集中することにした

 そして今現在

 メイガ王国で俺とファンファン、そして相手に眼鏡の少年エイジが対立していた

「くそ! なんで効かないんだよ!」

 俺にいくら消去の力を使おうとも、俺は神々に守られている

 その攻撃はまったくの無駄に終わっていた

「いい加減やめないか? もう犠牲を出すのはやめてくれ」

「うるさい! どうやったか知らないが、レンタロウを洗脳しやがって!」

 エイジは話を一向に聞いてくれない

「仕方ないか」

 俺はエイジの後ろに転移すると、腕をねじり上げて拘束した

「く、放せ!!」

 そのまままた俺は転移し、彼をフェンリナイトの地下にある牢獄に連れて行った

 そして彼の力を完全に封じる

「あああ!! なんで、なんでだよ! 僕の力を返せ! 僕はこの力で世界を救わなくちゃいけないんだ!」

「なぁ、それで本当に世界を救えると思うのか? 何かの犠牲の上に幸せが成り立つとでも?」

「思うさ! 少なくとも僕は今までその犠牲だった。僕達のような弱い人間は誰かに搾取されて踏み台にされて、だから僕らはいいんだ! 踏みにじっても、虐げてもいいんだ!」

 彼に何があったのか分からない

 だが辛いことがあったことは分かる

 セイヴは確かに彼らからすれば救世主なのだろう

 あれほどに信頼しているのだから

「まあ、そこでゆっくり考えてくれ。君たちの身柄は俺預かりになってるからな。死なせはしないよ」

 俺がそう告げると、エイジはうなだれて沈黙した

 その隣にいるレンタロウを見てみる

 彼はただたんたんと俺が与えた仕事をこなしていた

 ただここで待っているだけというのも辛いだろうと、簡単に出来る仕事をいくつかさせているんだ

 レンタロウは文句ひとつ言わずにもくもくと作業をしている

「お、カズマさんじゃん。ほら、こっちは終わったぜ」

 レンタロウの声を聴いてエイジの方から声が上がった

「レンタロウ! なんでそんな奴を! そいつは僕らの力を奪ったんだぞ!」

「はぁ、エイジ、それでいい、それでよかったんだよ。こんな力俺たちにはいらなかったんだ。確かに俺たちは・・・、あっちじゃろくなことはなかった。でもさ、それで俺たちがあいつらみたいになっちゃ駄目だったんだよ。変われる。まだ変われるんだエイジ」

「っち、とんだ腑抜けだったってわけか」

 エイジはまだわかってくれないだろう

 それでも

「カズマさん、後は俺に任せてくれ、必ず説得するからよ」

「ああ、ありがとうレンタロウ」

 エイジのことを彼に任せ、俺は地下から階段を上がって行った

 エイジがニヤリと笑っていることも知らずに


 部屋に戻ると、レナがすでに待っていた

「カズマさん! 大変です、シュエリアが!」

「襲われてるのか?」

「はい、白い少年が襲撃してきて、冒険者が応戦していますが、ギルドマスターが」

「フォウさんが!?」

 すぐにレナと共に転移し、シュエリアへと戻った

 一撃で国が消される、ということはなかったみたいだが、街は燃えていた

 そこかしこに人々が倒れていて、何人か亡くなっている人も見える

「カズマ、カズマや、わらわを呼べ」

「は、はい」

 声が聞こえ、俺はその声の主、イザナミ様を呼び出した

「ふむ、魂がそこかしこに浮いておる。まったく、フラフラしおって、自分の死体の上に戻れバカ者ども!」

 イザナミ様は出て来て早々俺たちには見えない魂に呼びかけていた

「生死反転、反魂の法」

 イザナミ様は犠牲者たちの遺体をその場に並べると、体を元に戻し魂を入れなおした

「ふむ、じきに目が覚めるじゃろう」

 顔に生気が戻った犠牲者たちは、無事呼吸を開始する

「ありがとうございますイザナミ様」

「うむ、また何かあったら呼ぶがよい」

 彼女のおかげで犠牲者はいなくなったが、どこからか戦闘する音が聞こえる

 そこに走って行くと、ボロボロのフォウさんと白い少年が戦っていた

 少年の方は余裕があるようで傷一つない

「く、いやになるほど実力差があるが、なぜ他の者のようにすぐに殺さん!」

「・・・てるから」

「なに?」

「お母さん、似てるから」

 少年は戦闘をやめ、涙を流している

「どういうことだ?」

「あなた、お母さん似てる。でも僕、あなた殺さないとダメ。だから悲しい」

「どういうこと、だ?」

「僕、この国出身、お母さん鬼人だった。でも、お父さんと一緒に、隣町行く途中、盗賊に殺された。僕生き残ったけど、両親いなくなった孤児。一人。悲しかった。僕誰にも受け入れてもらえなかった。ずっと泥水飲んで、残飯食べて暮らしてた」

「そんな、馬鹿な。この国は孤児でも幸せに暮らせるよう王が孤児院に多額の寄付をしていたはずだぞ」

「違う、今じゃない。もっともっと昔。500年前」

「500!? ならなぜ君は年を取っていないんだ!」

「セイヴ様の力。僕達のお父さん」

 そうか、この子も

 セイヴはこういった子供達を集めていたのか?

「ごめんなさい、そろそろ、殺すね」

 相変わらず彼は涙を流し、それをぬぐいつつフォウさんをナイフで襲った

 剣で受けたが、その剣ごとフォウさんは斬り伏せられた

「ガッ」

 袈裟斬りのように斬られ、フォウさんが倒れる

「次はあなた達」

 少年は俺を見る

「ま、待て」

 走ってきて斬りかかるが、レナがそれを剣で受けて流した

「やめなさい! そんなに悲しいのなら、その武器を振るうのをやめるの!」

「でも、僕は戦わなくちゃ。セイヴ様の役に立たなくちゃ、恩返しができない」

「それが本当にセイヴのためになってると思うのか? 本当は君も、メシアという少女のように、セイヴを救ってほしいと思ってるんじゃないのか」

「それは」

 少年は俺のその言葉で止まる

「頼む、武器をおろして投降してくれ」

 少年は持っていたナイフを地面に捨てる

「ねえ、本当にセイヴ様、助けてくれる?」

「ああ、任せろ」

「分かった。僕はキュウセ。お願い、約束、守って」

 キュウセをレナに任せ、俺はフォウさんに駆け寄る

 幸い急所は外れ、普通の回復魔法でも治るレベルだ。恐らく無意識に手加減していたのだろう

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 俺の薬で回復したフォウさんは立ち上がり、キュウセを抱きしめた

「辛い思いをしてきたのだな・・・。カズマ、犠牲者はもしや」

「ええ、犠牲者はゼロです」

「ありがとう。とりあえずこの子のことは任せてくれないか?」

「分かりました。でも力は封じさせてください」

「それでいいか? キュウセ」

「うん」

 キュウセの力を封じ、後のことをフォウさんに任せる

 彼女にはラナを養子にしてもらっているし、子供の扱いにもなれている

 彼女に任せるのが一番だろう


 だんだんとセイヴの部下を無力化できている

 恐らく彼ら全員を無力化すれば奴は出て来るだろう

 そんな気がしてならない


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