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第128話

 あるく、あるく

 ただそれだけに意識を集中させていた

 一体この道はどこまで続くのだろう?

 ふと不安になり振り返るが、歩いてきた道は何もない闇が広がるだけ

 更なる不安が押し寄せて押しつぶされそうだ

 だがあるく

 何か大切なものがあったはず

 それを求めるかのように足は歩みを止めなかった

 大切な何か、誰か、だったかもしれない

 そもそも自分はなんだ?

 自分が何なのか、誰なのかも覚えていないのに、温かい笑顔が浮かんでくる

 ああ、あれは誰だったのか

 その者の顔を思い出してみる

 霞がかかって思い出せないが、多分自分の大切な思い出なのだろう

 思い出そうとするだけで胸がきゅっと締め付けられるように苦しくなり、また暖かくなるのだ

 その大切な思い出のためにもあるく


 シュエリアから帰ってくるとフェンリナイトが消えていた

 ここにいた人々は突然のことに何が起きたかも分かっていないようだったが、レンタロウのおかげでこの国が消滅した理由が分かった

「エイジのやつ、隠してる力があった。あいつの力はロストじゃない。イレイズって力だ。なくすんじゃなくて消す。それが本質だ」

「あまり違わない気が」

「いや、全然違うぜ。ロストはただ消えるってだけだ。でもな、イレイズは任意のものを消せる。ここみたいに街自体全てを消すこともできるし、ヒトだけを消すことも出来る。だが恐ろしいのはそこじゃねえ。あいつのあの力は、概念や力場、思ったものを何でも消せるんだよ」

 レンタロウは街のために動いてくれた

 それが罪滅ぼしだとばかりに、この街の騎士たちの言うことを聞きながらもくもくと

 騎士たちも彼のことを信頼し始めてくれている

 力はまだ使わせるわけにはいかないが、力が無くても出来ることはあるからな

「旦那様、とりあえず仮設の家は街の人分は出来たみたいだぜ」

 ここには多種多様な種族が集まっている

 そのためか、半日である程度の家が立ち並んだ

 まあ他の国からたくさんの人々を転移で連れて来たからってのもあるけどな

 ともかくだ、首脳たちがいない今指揮は唯一生き残ったラフィナ様が取っている

 まだ幼さの残る子だというのに、彼女は必死に、人々のために動いている

「カズマさん、ここでの指揮は私に任せてください。カズマさんは世界を、どうかお願いします」

「ええ、必ず」

 俺は目をつむって力を使い、目を開く

 一時でも早く、一刻も早く

 見える景色を倍速再生のように流し見ながら、セイヴの部下の気配を手繰った

 そして見えたのは、終焉都市アルエマノエラにたたずむ一人の少年の姿だった

 アルエマノエラはたしか俺がこの世界に生まれる数年前に突如飛来した隕石によって一夜にして消えた国だ

 まるで終焉が訪れたかのような光景から、その跡地のクレーターは終焉都市と呼ばれるようになった

 確か生き残ったのはわずか15人で、子供はたった一人だったとか

 その少年は何をするでもなく空中に浮かびながらクレーターを見つめている

 その場に転移をして少年に話しかけてみる

「おいそこの君、君はセイヴの」

「誰? 邪魔しないでよ。今母さんと話をしているんだ」

「母さん? そこには誰も」

 霊か何かがいるのかと思ったが、この目は霊も見通す

 そこに何もいないのは分かっている

「いるよ。僕の母さんだもん。ここで僕にご飯を作ってくれてるんだ」

 少年は明らかに現実を見ていない目でクレーターの虚空を見続けている

 まるで現実逃避をしているようだった

「な、なあ」

「うるさいな、邪魔!!」

 声が衝撃となって俺を襲う

「ぐお!」

 ものすごい力に押され、足がじりじりと後ろに押されて行く

「邪魔、邪魔邪魔邪魔! 僕の世界に入ってきていいのは、セイヴ様だけだ!」

 彼の力は大きく膨らみ、まるでドームのようにこの土地そのものを結界で囲ってしまった

 今までのセイヴの仲間とは明らかに違う

 彼は何も見ていない

 いや正確には違う

 彼はここしか、この場所しか見ていない

 一体何が彼をそうさせて・・・

 アルエマノエラは、終焉の土地

 ここで生き残ったのは15人で、うち一人が子供だった

 つまり彼は、この地の生き残り!?

 だからここしか見ないのか

 彼は幸せそうな顔をしている

 その目の奥には悲しみが宿っていた

「戻るか・・・」

 彼は特に何をしているというわけではない

 ここでずっと自分の中での止まった時を眺め続けているのか

 あまりにも、悲しすぎる

 これは救いじゃない。彼は何も救われていないよセイヴ

 あの少年はセイヴとこの土地をよりどころとしているのだろう

 もしそれがなくなった時・・・

 あれほどの力を持つんだ。どうなるかが分からない

 彼のことは定期的に見ていた方がいいかもしれないな

 人を救うって言うのはどうすればいいんだ

 ただ手を差し伸べるだけが全てじゃあない

 分かっているんだが、心を救うためにはどうすればいい?

 セイヴも、彼も救うには、俺はどうすればいいんだ

 俺は未熟だし、ただ力を授かっただけの一般人だ

 誰かを救うには、俺には経験も人生の重さも足りないのだろう

 それでもがむしゃらに俺は、誰かを救いたい

 この手で救える誰かがいるのなら、手を伸ばし続けたいんだ

 自分の手を見る

 農業や鍛冶で培ったゴツゴツとして豆だらけの手だ

 ファンファンやアネモネは俺の手を優しい手だと言ってくれた

 だったら俺は、この手を

 セイヴ。救いたいって思いは、俺も同じなんだ

 だからこそきっと分かり合えると信じている

 やってやるさ、セイヴも、世界も、全部救って大団円と行こうじゃないか


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