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第20話:光の檻

 クロがキャトリンとフローライトの二人と合流した頃、ジンとアリシナの二人は帝国軍の増援を迎え、反撃の準備を進めていた。


「魔法に特化した舞台も大隊と同じ規模がいる。これならコロシオの街全域を包むだけの結界が張れるわ」


 コロシオの街に集まった増援を前に、アリシナが事態の好転を確信する。ギシアが操っている骸兵達はコロシオの西部を殆ど制圧しているが、東部から運河の中州へと続く連絡橋は既に帝国軍が取り返しており、遠距離攻撃による制圧が可能であれば、骸兵達を制圧することは容易いだろう。


 その上、アリシナは結界内で意識さえたもっていられるのなら、ギシアによる操作を受けないことを付け入るチャンスだと捉えていた。


「ジン君の作戦はつまりはこういうことでしょ? このコロシオの街を帝国軍の魔法使い達による結界ですっぽり覆って、その中で元第一皇子と戦うこと。それができれば、戦いの中で手傷を負っても、操作から逃れることができるってことよね?」


 アリシナの張った結界の中であれば、ミラが操作されていなかったことに、逆転の可能性を見たアリシナ。


 となれば、結界さえ張ってしまえば、ギシアと骸兵に対して軍による正面衝突が可能になり、そうなれば数で勝る帝国軍の勝利の可能性が出てくる。


「そうだな。確かに、状況だけ見れば、アリシナの言った通りの作戦が一番勝率が高いと思う」

「私だって伊達に帝国軍の中隊を任されている立場じゃ無いからね」


 ジンの言葉に得意げな笑みを浮かべるアリシナ。


「それなら後は時間との闘いよね。コロシオの街を完全に包囲するだけの結界の展開なんて、絶対に時間が掛かるもの。でも被害をこれ以上拡大させない為には絶対必要よね」

「ああ、それなんだが……、その結界の範囲を少し相談したいんだ」

「え……? 街を覆うだけの結界を張ればそれで……」

「普通はそうだよな。でも俺は今回の一件が上手くいきすぎているとも思っているんだ。何か決定的な見落としをしている、そんな気がする。これは知恵比べだよ。俺は相手の手を読んで、戦場を限定しなくちゃ行けない。そんな気がする」


 ジンの言葉に訝しげな表情をするアリシナ。そしてジンが今回の作戦の本命を伝えると、アリシナは目を丸くする。


 そしてアリシナによって作戦の全貌が伝えられ、帝国軍は灰色の軍師の作戦によって動き始めた。



 ………………。



「ジン君、言われた通りに準備はできたけど、本当にこんな事でどうにかなるの? 本当なら街を覆うような結界を作った方が……」

「いや、これでいい。この中州で今回の一件に決着をつける」


 空が白み始める中、ジンとアリシナの二人はコロシオの中州へと辿り着いていた。連絡橋を占拠していた骸兵の一群は、既に到着した帝国軍の増援による遠距離魔法によって討伐が完了している。


 そして今、中州を取り戻した上でジンはキャトリンへと合図を送るため、アリシナの精霊魔法によって光の柱を空に向かって立てて貰っていた。


「炎の魔石の準備は?」

「大丈夫。でも、本当に魔石を使って良かったの? あれって、フォルン領から取り引き用に与えられていた商品だった思うけど……」

「採算度外視って言ったらミラには怒られそうだけど仕方ないだろ。今回の一件が片付いたら、帝国の国庫からいくらかだしてくれ」

「私の一存じゃ、どうしようも無いけどね」


 アリシナが呆れた表情を浮かべる中、中州でギシアを迎え撃つ準備を進めた二人。そして、遠くから駆けてくるクロが見えた次の瞬間、骸兵の軍団が中州へと続く連絡橋へと押し寄せた。


「来たみたいね」

「あぁ、後は予定通り」


 中州へとなだれ込んでいく骸兵達。そんな彼等に追われるように、中州へと向かったクロの背には、二人の皇女が共に乗せられていた。


「兄様、キャトリン様ヲ連レテ来タヨ!」

「ありがとう、クロ! キャトリン様に……、フローライト様まで……。二人とも無事で良かった」


 到着したクロに対して笑みを浮かべるジン。そして、ジンとクロの背に乗ったキャトリンの視線が交錯する。


「ジン、ここで決着をつけるつもりか?」

「……はい。その為の準備をしてきました」

「そうか」


 ジンの言葉に頷きを返すキャトリン。彼女は未だジンが何をするつもりなのか理解はしていない。それでもジンを信じることを選んだのは、彼がキャトリンが見いだした天才だったからだろう。


「後は任せる。私は少し疲れたからな……」

「ええ、時間を稼いでくれてありがとうございます。後は俺達に……。クロ、二人を連れてここを離れてくれ。俺とアリシナは、ここで骸兵達を食い止める」

「ウン!」


 ジンの言葉に頷きを返すと、クロは二人を背に乗せて中州からコロシオ東部へと走り始める。そして中州には骸兵の一団を連れたギシアも到着をしていた。


「ジン君、そろそろ行くわよ!」

「ああ、始めてくれ!」


 ジンの言葉にアリシナが魔法を行使した瞬間、街の中に幾つもの軍服が現われ、それは一つの軍となって骸兵達へと向かっていく。


 アリシナの作った光の柱が空に浮かぶ玉となると、放射状に周囲に広がって何本もの光の柱へと別れるように中州を包囲する。光は中州へと集まった骸兵を閉じ込める為の檻となって周囲を取り囲んでいく。


 そして中州そのものがついには一つの結界となった瞬間、骸兵達とその一群をつれたギシアが光の檻の中に閉じ込められた。


「これで俺達を捕まえたつもりか、ジン!」


 ギシアが問いかける。しかし、ジンは彼の言葉には答えない。そして骸兵達が彼等の前に立ち塞がる帝国軍に向かって襲い掛った。


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