運命とでも言えば良いのか。
誰かしらが決めた撮影スケジュール。
その決められたレールの上を歩き予定通りに映像を撮影すること。
決められたハプニングは予定調和でヒーローが登場し解決してくれる。
解決役は庄司であり彼が問題を華麗に解決するヒーローとして設定。
そういった予定で物事は進行しているのだろう。
集はそう考え納得する事にしていた。
どう考えてもハプニングのレベルが想定以上であるとは思う。
けれど焦りパニック気味でも庄司は責任転嫁を忘れないし。
何より撮影スタッフは不気味なほど冷静であった。
それは既に集達が考えるメディア特有の非常識な部分。
カメラを通して撮影するプロフェッショナルの仕事と言えば納得は出来る。
自身の命よりも映像に固執する。
所謂スクープを取れるのなら命をいくら危険にさらしても惜しくはない。
そういった狂気を孕む人種たちの暴走であったのだが。
彼等撮影者という第三者の無神経さに集は異質な部分も感じていた。
非常事態を許される場へと変換していたのは確実にあの撮影者達だったから。
迷探偵騒動の時の事を考えると災厄は存在する?
映像関連から事象に干渉してくる可能性は高いのか?
災厄の種は撮影機材に仕込まれているのではないか?
そういった思考が働いていた。
けれど災厄についての考察をそれ以上集がする事は出来なかった。
出来る事ならアリスに連絡を取ってその根源を特定したい気持ちもある。
しかし集がその起点を見つける事は出来ないし。
可能性に過ぎないのだから。
アリスにいくら情報を渡したとしてもきっと断定はできないのだ。
それに優先するべきは災厄を見つける事ではない。
司を支援する事の方が今の集には重要な事である。
時間は有限であり災厄の位置を推測するのに時間を取ることは出来なかった。
庄司がヒーローとして撮影される映像に付き合う必要があったのだ。
飛行機から降りて控室へと案内される事になった集達であるが…
その間もカメラは庄司に向けられ続け英雄的行動のインタビューは続く。
休憩室がてら用意された飛行場に隣接する建物の内部も整えられていた。
このハプニングが起こる事を想定した対応とでも言うべきか。
インタビュー会場として用意されていたのだから。
3人掛けソファーの中心には庄司。
その両脇を固める様に有珠と祥子を座らせその腰に手を回していた。
有珠と祥子の造り笑顔が何とも言えない雰囲気を作っているが。
その事を気にするような庄司ではなかったのだ。
それ以上にインタビューをするスタッフが庄司にその事を気付かせない。
そこはヒーローが称えられる場。
そう言う事なのだ。
「流石は副機長でしたね。
こういった状況ですら冷静に判断して機体を無事に着陸させたのですから!」
「ははは。訓練の賜物ですよ」
「いやはや私達撮影スタッフ達も肝を冷やしました…
命の危険を感じる事態でしたが無事に着陸できてよかったです!」
「いやぁ…それほどの事は無いですよ」
「ですがそれにしてもギリギリの判断でしたね!
決断できた理由は何でしょうか?」
「愛する将来のパートナー達が乗る機体を無事に着陸させると言う使命感。
それが私の心の強い支えとなって決断する事が出来たんです」
「やはり愛は人を強く出来るのですね!」
「着陸寸前まで安心できませんでしたが…
それでも機体の状態は理解できていましたから。
私は最後まで自身を信じて着陸を決断する事ができたのです!」
「素晴らしい!」
それこそ褒めたたえ続けるインタビュー。
調子に乗って答えるスタッフの持ち上げが面白い。
集も大地も苦笑いしか出来ない状態だった。
離れた場所で眺めながら小声でだが言葉が漏れてしまう。
「まぁ…間違ってはいない…のかな?」
「そうだな。確かに間違いは何一つ言っていないな!
うまぁく状況を隠しているし素晴らしいインタビューだ」
「確かに伊集院さんは決断だけはしてくれたからね」
「違いない」
クックックと声を押し殺しての笑い方を見せる大地。
それはまるで悪役らしい含みのある笑い方であった。
庄司を正義のヒーローとするのであれば集と大地は悪でなくてはいけない。
それ位簡単な図式がある方が解りやすい。
それこそ集もつられて大地の様な笑い方で愉快な顔を作っていた。
その笑顔を見せた瞬間を撮影スタッフのカメラは見逃さなかった。
「おぉ!乗客はとても笑顔ですね!
やはり副機長を信じていたから笑顔でいられたのですね!
副機長を信頼して信じていたからこその笑顔!とても良いですね。
不安など無かったでしょう?」
「はい!何も不安を感じる事はありませんでした!
自分を信じて行動すれば結果はついてきますから」
「そうです。副機長の決断があればこそだった!
私達は無事に着陸することが出来たのです」
「あの副機長の決断は普通ではきっと出来なかったでしょう!」
「あまりにも独創的過ぎで今でも信じられませんが結果は正解でした」
最高の庄司に対する皮肉ではあったが大地も集も訂正はしない。
間違いなく集達を救ってくれたのは庄司の決断なのだ。
その先に命がけの操縦があった事等些細な事でしかない。
感謝する言葉を話す事になんら不都合はない。
少なくとも庄司に任せていたら無事に辿り着けたかどうか…
大地が燃料が足りないと気付いて計算したから。
燃料が足りるルートを選定していなかったらきっと何処にも辿り着けなかった。
その事すら庄司はきっと気付けない。
着陸だけではなく辿り着くと言う意味でも操縦を任せて貰えて正解だったのだ。
その事に集は感謝する。
余りのスリリングすぎる旅行の始まり。
これから訪れる数日間の滞在では何が起こるのか。
あまり考えたくなくなる集であったがそれどころではなく。
疲労感と言う意味では全員例外なく疲れていたが撮影は終わらない。
ここはリゾート地の入り口。
撮影はこれからが本番なのだ。
果たして撮影用に用意されているシナリオは素晴らしい物なのか?
リゾート地を盛り上げる為と言う建前の元何が用意されているのか。
推測を立てるだけでも集の頭は痛くなっていたが休んでいる暇はない。
「それじゃぁ移動を開始しましょう」
庄司のその言葉を皮切りに有珠と祥子を連れ立った庄司。
迎えの自動車が停まっているエントランスへと移動を始める。
集達もそれに遅れないようについて行く事になったのだ。