オープンするホテルの全てを使ったレセプションパーティーの準備。
それは予定通り進んでいるように見せて色々と問題が起きていた。
細かい所からの確認と言った形で集められる情報を司は処理していく。
「発表に使われるPVの長さは?」
「2分ぐらいです」
「タイミングがシビアだ。秒数まで知りたい」
「解りました…2分23秒です」
「了解。音響演出側との時間の調整はどうなっている?」
「専用の回線を一本用意しています。
それで直通です。準備にもうすぐ取り掛かれます」
「…優先順位を上げておいてくれ。
音響設備の調整よりも演出でのタイミングの方が重要だから。
回線の設置が完了後、余った時間で調整の形で進行してくれ」
「解りました」
「…時間が足りないな」
「どうかしましたか?」
「なんでもない」
庄司の思うがままのイベントは多岐にわたる。
それこそ主催者の望むままの夢を体現する為の用意は一筋縄では出来ない。
細々とした調整は最期のイベントが無事完了するまで続く。
それこそレセプションパーティー進行全体を把握している人は司しかいない。
演出される内容が漏れない様にするにはそうするほかない。
本当に驚いてもらうために秘密にしたままにするには、
大切な部分は…それこそ脳内に収めて置く事こそバレない最高の方法なのである。
断片的に漏れても分からない。
多くの耳と目を持っているセレブ達。
彼等に驚きを与えるにはそういった絶対に漏れない秘密を抱え込む事。
それすらも必要なのである。
それでも準備が順調に出来てしまっているのは司の采配の所為である。
司は何度だって計算する。
予定を組み立て直す。
全ての行動を円滑に行うための緻密なスケジューリング。
全体を管理していた司はその予定を熟す為、長い間準備してきた。
イベントの進行の全容を知っているのは司しかいない位なのである。
予定通りの進行であるのならば問題ない。
けれど司はここにきて祥子の為に動く事を決意した。
パーティー会場の裏方にいる訳にいかなくなったのである。
彼女の為にも今の司は一歩も引きさがる訳にはいかないのだ。
反逆を企てるしかなかった結果は予想以上の忙しさとなって跳ね返ってくる。
夜のパーティーのクライマックス。
開場でのライトアップ。
流される生演奏。
別々の事柄を一体化して動かす事が出来てこそ演出は成功する。
その最後のタイミングと間の読み。
それらのタイミング。
完璧に仕立て上げられる空間があってこそ。
最高の演出となり参加者に感動を与える事が出来るのだ。
本来ならそのイベントの中で庄司と祥子の婚約発表は一番のサプライズ。
そして伊集院グループと綾小路グループの統合が発表される場となる。
その代わりを用意しなくてはいけない。
司は時間との戦いを強いられる事になっていた。
イベント一つを順調に進行させ成功させること。
それだけでも司は大きく時間を取られる事になる。
けれどこれ以上は表側の時間を削れない。
削るには自分の代わりに誰かに時間を稼いでもらわなくてはいけなくなっていた。
別のキャストを呼んでいる暇はない。
苦肉の策として思いついたのは祥子の為にも。
きっと協力してくれるであろう人物に声をかける事だった。
司の第一候補としては祥子が信頼している有珠にお願いしたい所であった。
彼女に声をかける事が出来れば確実に要望は聞いてもらえる。
けれどソレは出来なかった。
司にとって現在切れる手札はほとんどない。
既に手伝ってくれている部下はギリギリまで頑張ってくれている。
これ以上の負担をかけることは出来なかった。
「祥子のご学友達であればきっと協力はしてくれるだろうが…駄目だ。
庄司に目を付けられていた。
動いている事を知られる可能性が高くなる」
情報が洩れる可能性が上がる事は出来ない。
なら背中を押してくれた集に頼るのかと言われるとそれも出来ない。
集はあくまでビジネスのパートナ―的な立ち位置にいる。
信頼は出来るが集には何度となく助言してもらい繋がりを見せている。
その集が動けば庄司は絶対に警戒する。
なら大地か紘一かとなるが…
大地はとても愉快な事になっていた。
会食時の大人顔負け?の礼儀正しさを見せ集と共に行動をしていた大地。
相談すれば集と同じようにきっと手伝ってはくれるだろう。
しかし…
大地は色々と目立つ上に里桜をエスコートする姿は何というか…
甘かったのだ。
あの場に置いて優先順位を間違えないと言うか…
例えるのなら紳士?が令嬢を甘やかすかのような?
少女漫画から出て来た理想の男子が恋に不慣れな女の子を導く。
そんな夢を地でやりやがっているのである。
夕食後、紘一と大地はそれぞれに楓と里桜を伴ってその場を離れた。
勿論庄司に対して警戒していたからでもある。
「さぁ里桜こっちにおいで?」
「な、なにをやっているのよっ!」
「ははは愛いやつめぇ~」
「愛いじゃないっ!一体何をしているの???」
「勿論里桜を愛でている。
望み通りだろう?」
「違うけど!そだけど!そうじゃないの!」
自身を囮に愛され方?を示し有珠をその気にさせると言う里桜の作戦。
それが根底にあるしその目論見は確かに成功している。
「集に抱き上げられて颯爽と逃げた有珠を見ただろう?
私達の見せつけは確実に集の行動に勢い?を与えていたと思わないか?」
「そうだけどっ!そうかもしれないけど!」。
「その効果が出ている以上里桜を甘やかす事を辞める理由はないな?」
「あうぅ…」
それこそ言い淀み顔は赤くなっているのである。
正しくはないが確かに大地の行動は里桜の望み通り。
だから断る事は出来ず里桜は翻弄されるのだ。
大地の行動はより大胆に。
そして激しくわかりやすく里桜を愛するのだ。
正しく昼のメロドラマの様に?
それこそ学校という場であれば出来ない事なのだが。
リゾートと言う特別な場所が後押しする。
特に同年代の目はなく周囲には大人が多い。
どういった関係かは大地には解らない。
きっと伊集院関係と綾小路関連の人であることは間違いないが。
場慣れしている大人がほとんどである。
そのやりすぎな愛の囁きも自然と受け入れられる空間なのだ。
なれない場所で色々と緊張しているはずなのであるが。
大地だけはどこ吹く風で場慣れ感が半端ない。
用意された衣装に相応しい王子様ぶりを発揮していたとでも言うのか。
常識という2文字を忘れて物語に潜り込んだかのような行動は終わらない。
「わ私をお姫様?扱いして楽しいの?」
「あぁ。とても楽しい。
里桜の可愛らしい恥じらいは私にとても幸福感を与えてくれているよ」
「へ?へぇ…それはよかった?わね」
「あぁ、良かったと思ってくれているのなら攻めても構わないね?」
「それとこれとは話が違うぅ!」
「違わないね。里桜が良い子だからいけないんだよ」
「な、なんなのよっ!もう」
そしてTPOを弁えた?行動を進めた。
里桜とラブいちゃの空間に演出は♡を作り出す。
その波動を有珠と楓に届けていた訳である。
里桜が真面目な性格であるためにそこまでの異質性は見せない所が質が悪い。
場所が場所だ。
リゾート地と言う場所柄もあってかタガが外れてしまったかの如く。
彼氏に可愛がられながら顔を赤くしてはにかむ笑顔もまたいい味を出している。
外から見れば見間違える事ないバカップル。
何よりもそれが普通であるかのように振舞っていても違和感がない容姿の良さ。
容姿の良さは全てをエンタメ化する。
「この二人には役者としての才能が見える。見えるぞ!
ちゃんとカメラは回しているな?」
「当然です」
力強くスタッフは大地と里桜を追いかけていた。
それこそ芸能人のスキャンダルを取る為のパパラッチ?の様に。
二人の時間をそれこそ映像を収めるスタッフが張り付いて逐次記録している。
それはドラマのワンシーンと同じ。
プロモーション用の映像を見るのであれば確実に素材としては完璧。
素晴らしい夢を魅せるものとなりカメラを構えるスタッフも親指を立てる。
大型カメラは撮影を続けているのであった。
それは身内でなければ俺達の間に入って来るなと宣言している…
つもりはないのだがそうみられても否定はできない。
二人にとって素晴らしい時間の演出。
スモークを焚かれて霧がかった演出を挟めば幻想的な雰囲気を演出。
その勢いによって同時に庄司の意識から里桜を消し去ってもいた。
「では私達の時間を楽しむために先に失礼するよ」
「え?え?え?」
里桜はどこまでも困惑しカメラ目線。
大地は決め台詞を使ってスゥっと存在を消して見せたのだ。
…同時に司から声をかけられる事を躊躇わせる事にも成功していたのだが。
彼氏と言う意味では里桜はちゃんと大地によって守られているのである。
大地の行き過ぎた行動と視線を遮る立ち位置。
慌てる里桜を見せつける事によって庄司の入り込む隙は生まれない。
仮初の恋人同士であるはずなのにここにいる誰よりも熱かった。
庄司には有珠同様に可愛らしい里桜の存在には気付けない。
ピンと張りつめたような凛々しさと年相応の幼さを残した愛らしさは、
有珠には劣るものの有珠の持つ独特の愛らしさとは別の方向で負けていない。
有珠の横に並んでも見劣りしない位には愛らしいのである。
勿論完璧なカメラ映りを考慮した大地の勢いに宛てられた庄司。
彼自身も隣にいる祥子を利用して自然と対抗していた。
お前達がそうやって見せつけてくるのであればといった具合で。
当然の様に抱き寄せて優位性を保とうとすらしていた。
庄司からすれば大地の行動は女慣れしているのはお前だけじゃないと。
けん制されている気分だったのだ。
高校生相手に大人げない姿でもあった。
庄司の圧を綺麗に躱し続ける大地の力量はともかく。
司はさすがにその間にも今は入りたいとも思わない。
場から離れ残った紘一へと声をかけることするのである。