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9-10 二人の家族

 全員で病院の外に出ると、改造ハイエースバンから二人の男の人が降りて来た。

 見覚えのあるその顔は……!?


「どうしてお父さんとお兄ちゃんが来ちゃうの!?」


 夏美さんは駆け出すと、お父さんの春彦さん、兄の秋人さんに抱きついた。


「八雲さんに頼まれたんだ。車を持って行ってくれって」


 秋人さんは妹に片目を瞑ると、私とみひろに視線を向ける。


「葉室財閥所有の車じゃない方がいいんだろ? ウチのトランポ仕様ハイエースならあんた達全員乗れるし、何かあった時のためにもいいかなって」

「ありがとうございます、大変助かります」


 みひろが礼を言うと、秋人さんはお父さんと話してる夏美さんをちらりと盗み見しながら、声を落とす。


「あまり詳しい事は聞かされていないんだが……今、葉室財閥が大変な事になってんだろ?」

「ええ……お恥ずかしながら」

「正直夏美の事は心配だが……葉室財閥に関する事なら、俺たちよりあんたたち二人と一緒にいてくれた方が安全だと思ってる。悪いが、夏美を守ってやってくれないか?」


 みひろは明朗な口調で応えた。


「私たちにとっても、夏美さんは絶対に欠かせない仲間です。私と藍海はもちろん、ここにいるリーラちゃん、ミセリさん含め、全員無事に帰還する事をお約束します」

「頼りにしてるよ、みひろさん。おーい夏美! あんま無茶するなよ」

「うん、分かってる! ありがとうお兄ちゃん! お父さんも!」


 最後にもう一度夏美さんとハグした岡島父と兄は、私たちが乗ってきた救急車両とバイクに乗って去って行った。

 私たちもガンメタ色のハイエースバンに乗りこむと、運転席の伊織さんがエンジンをかける。助手席のみひろがナビの電源を入れると、八雲さんの顔が映った。


『皆さん、ご無事で何よりです。それから、大変な事になってしまって申し訳ありません』


 相変わらず色白イケメンな八雲さんがモニタに映ると、後ろの座席の夏美さんが身を乗り出して手を振っている。ウチらの映像は、向こうに届いてないんじゃないかなー?


「いえ、こちらこそクルマのお手配ありがとうございました。それで……私たちはこれから、どちらに向かえばよろしいでしょうか?」


 八雲さんは真面目な顔で、意外な言葉を口走った。


「それはもちろん、箱根湯本の温泉宿です」


* * *


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