目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

16-2






 大丈夫だと思いたいけど、何だかとてもヴァルターさんから視線を感じる気がする。怪しむだけの材料があるけど、断定は出来ないからあっちもそこで留まっている感じがする。



「カジキ殿は靱魔国出身のようだが……何故彼女らと?」

「出身は靱魔国ってだけで、住んでるのはビア国出身なものでね」



 話が私から切り替わった。かと思えば、鋭く切り込む刃みたいにヴァルターさんの質問はカジキへと飛んだ。その刃をカジキは飄々とした態度で躱しているけど。

 でもその掴みどころのない、ヘラヘラとした態度が真面目そうな彼のカンに触ってそうな気もする。眉間のシワ、私から話を聞いた時より増えているし。



「……ビア国で盗みを働いた者が国外に逃げた可能性がある。ただ潜り込んだだけならまだしも……他国でも盗みを働く可能性がある。しかも、友好国であるビア国が被害に遭っている」



 最初に取り調べを行って、更にここまで連れてきてきた理由を話してくれたようだけど。それはその候補が私達だと言っているようなものだ。



 多分だけど、私がビア国出身で無職っていうのは大きな要素だけどそれだけじゃない気がする。カジキがビア国に住んでたっていうのもそうだし、そこに商人であるソーニャが絡んでいるっていうのも。私たち全部の要素が一因になってそうだ。思い過ごしではなさそうな気がする。

 だから、騎士側にとってはかなり疑いの目になっているのかも。



「え、っと……私達がその犯人もしくは共犯者じゃないかって事、ですよね?」



 こちらとしては早く疑いを晴らして騎士団の本部に向かいたい。だからもう、遠回しなやり取りはやめて率直に聞いた。



「そうだ」



 そうしたら、あっちからもストレートに返ってきた。



「私達の荷物に怪しいものがあった……と?」



 だけど、ヴァルターさんが疑っているのは今は私達の身元から来るものだ。ソーニャが答えてくれただろうけど、馬車に乗っている品はソーニャが販売するために仕入れたもの。手荷物の方は、ソーニャの私物とかで。手荷物の方は旅に必要な水や食料だ。

 そんな怪しまれるようなものはないはず。



「いや、あの馬車にそれらしき物はなかった」



 そこを怪しまれたら言葉をどんなにかけても無駄そうだけど、彼らの方は物的証拠は見付けられなかった事を認めてはいるようだった。胸の内の不安が一つなくなった気分だ。



「しかし……盗難騒ぎが起きたビア国出身が二名。盗品を売るのにうってつけな商人が一名。更には、ビア国から遠く離れたこの地に来ている。怪しむには十分だとは思わないか?」



──それをこちらに聞かれたら。咄嗟に否定の言葉が出なくなる。



 でも、ヴァルターさんの言う通り他から見れば怪しいのだろうなと思いはする。実際、あの少年が通ってきただろうルートを大体辿って来ているし。動きとしては彼と近い。


 それなのに、ビア国出身が二人で。そのビア国から来た人間がこんな遠方まで来ているってだけでも怪しいのに商人がいるってなると。疑いたくなるのも無理はない。だとしても、私たちは少年を追っている立場であって、あの少年ではないんだけど。



「わたし達、盗んだりなんて……そんな事、してません! 商人は信用第一なんです! そんな、商売出来なくなるような事しないですよ」



そう訴えかけるソーニャの手は震えている。ソーニャはただただ本当の事を言って、誤解を解こうとしていた。


 私たちはずっと本当の事を言い続けているんだけれど、ヴァルターさんの眉間が和らぐ気配が全然ない。どうにも疑いは拭いきれないみたいだ。



 彼らからしたら、物的証拠がなく。だけど怪しさはある。言動で信用するかしないかってところなんだろうけど──彼らはこういう対応を何度もしてきたはず。

 だから、言葉で惑わせる人達だとかもいただろうし、簡単には信用出来なさそうだ。



 かといって、前世でこういった冤罪で捕まって尋問された事はない。職質だって幸いな事に一度もない。だから、こういう時の切り抜け方なんて全然思い当たらない。ネットの知識でそれらしい単語とかは頭にふわっと浮かんで来るけど、浮かぶのは検索ワードで使うような短い単語だけだ。



──ああ、もうこうなったら言おう!



「ぎゃ……逆なんです!」

「……逆?」



 何が正解かわからない。

 でも、解放されない可能性があるなら、信じてもらえるかはともかく情報を渡した方が良い気がする。あの少年が狙っている『聖遺物』が騎士団の本部で展示されているなら、どのみち騎士団と協力出来た方が良い。



「私たちは、ビア国で盗みを働いたあの少年を追って来たんです!」



 あわよくば協力してもらいたい。そんな気持ちで、少年の事を話した。ヴァルターさんの手が動くのが目に入る。その手はただ、自分の顎にあてられただけだったけど。



「何……?」

「むしろ、あの少年が来ていないか知りたいくらいなんです!」



 それはもう本音をぶちまける。自然と両手に力が入って、握りこぶしが二つ出来ていた。

 今度はヴァルターさんの顔が動く。視線が合わない。どうやらヴァルターさんは私たちの後ろ──ドアの横に立っている騎士ふたりを見ているようだった。その二人が視線を受けてどんな表情や動きをしたかは知らないけど。確認をする程気にはならないから振り返らなかった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?