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第16話

16-1









「砦……だよね?」



 砦じゃないかなと思ったけど、違うかもしれないので同じように降りてきたカジキやソーニャにも尋ねる。ソーニャは私達が連れて来られた場所を見上げた。高くそびえ立っていて、首を上に伸ばしても一番上までは見えそうにない。



「うーん……砦、かは分からないけど……。ここ、さっき話した普段検査している場所だよ」

「えっ」



 ちゃんとしたところで検査しているのは見た事がある。

 抜き打ち検査の事で尋ねた時、確かソーニャがそんな感じの事を言っていた。物々しい雰囲気のここで行われているんだ。



──でも、それなら何で私達はここに?



 質問にはソーニャが答えてくれたし、私達は旅券も積み荷も見せた。だったらもう調べるような物はない気がする。魔石を使った道具が生み出されては来ているけど、何かそういう機械がある訳でもないだろうし。



「中ってどうなってるの?」

「ええっと……入口付近しか見た事ないからなあ……変な感じではなかったはずだよ。仮眠とか休憩も出来たはず……」



 ソーニャの話を聞く感じ、そこまで怖い場所では無さそうだ。

 中に入っていくヴァルターさんの背中が見える。離れ過ぎたらこちらの立場が危うくなりそうなので、私も中へと入った。


 中はシンプルな作りだ。カウンターみたいなテーブルや椅子はあるけど、何もない空間が多い。それに意外と中には人がいた。騎士もいるけど、一般人っぽい人を何人も見かける。彼らも検査を受けているんだろう。椅子に座って向かい合って質問されている人もいる。見る限り、酷い扱いは受けていなさそう。尋問している様子でもないし。それに少しだけ安心した。



「こっちだ」



 先を歩いていたヴァルターさんが振り返って私達を見た。ヴァルターさんの隣にはドアがある。安心したところだったのに、別室に入れられるとなると不安が蘇ってきた。


 尋問室的な場所ではない事を願いつつ、部屋の中へと入った。

 部屋の中は、ここにもテーブルと椅子があって椅子は向かい合わせの形で置かれている。部屋の中には私達三人とヴァルターさん以外にも、騎士がいて、ドアの横に静かに立っていた。



 私達の前にある椅子に座るように促され、座る。促した本人であるヴァルターさんは向かいに座った。部屋に入れられたからには何か聞かれるんだろう。緊張してきたので大きく息を吸っておく。



「貴殿らにはいくつか聞きたい事がある」



 ヴァルターさんが置いた手がテーブルの上をスライドする。何かが手の下にある。ヴァルターさんの手は戻っていって、手の下にある物が見えた。私達の旅券だ。



「ビア国で窃盗騒ぎがあった事は知っているな?」



 ビア国で盗まれたもの。どれだけ日数が経ったか、正直数えていなくて正確にはわからない。でも随分前の事のように思える。


 私がビア国を出た時にはもう布告が発されていたし、もう大分知れ渡っているんじゃないだろうか。



──と、いう事は。もしかして……私達、窃盗犯だと思われてる!?



「そりゃーまァ。すぐに上からご要望出てましたし?」



 窃盗犯だと思われている疑惑が私の中で浮かぶ中、カジキは何でも無い事のように事実を話してる。実際カジキからしたらその通りの事を話しているように思えるけど。色々な話をカジキからは聞いていたけど、今言っているような事も過去に話していたのを覚えている。だから、嘘はついていない。


 いや、そもそも私たちはあの少年じゃない。何も盗んでいない以上、嘘をつく必要はないんだけども。



──ただ……疑惑が深まるような事は避けたい。穏便に事を済ませるのに、何かしら嘘はつかないといけなさそうな気も薄っすらするような気がしてきてる。



「失礼。職業は」

「何でも屋みたいなモンですよ」



 短く。基本情報に関する質問をされて、カジキは世間話でもするみたいに答えた。言葉と共に出てきた息も、別に緊張しているような震えはなかったように思える。



「あ、わ、わたしは商人です!」



 対して、ソーニャはいつもより小さく見える。手荒──という程ではないけど、こういう扱われ方はあまりされた事がないんだろう。決して私も慣れている訳ではないけど。


 普段の商品を売る時の機敏さとは程遠い動きでソーニャは自分を示して答える。ソーニャの様子をヴァルターさんは見ていないみたいだったけど。ヴァルターさんの目はテーブルに向いているようだった。多分、私たちの旅券を見ているように見えた。



 ヴァルターさんを見ていたら、目が合った。目が何か言っている。これは、次は私だと言う事だろうな、きっと。



「えーーっと……」



 職業を聞かれているのだから、言うべき言葉はわかっているんだけども。言葉が喉で突っ掛かる。酸素だけが、どんどん体の中に入っていって。覚悟を決める。



「無職、です……」



 成人したばかりだし、あまり仕事のない町にいたし、こうして少年を追ってきた立場だし何もおかしくないはずなんだけど。さっきまで見ていたはずのヴァルターさんが見られなくなる。



 というか、ビア国出身で無職って大分怪しいのでは──と。思い始めて、ゆっくりとヴァルターさんを見てみれば、眉間に皺が出来ていた。これは疑いが濃くなっていそうな。だけど、何も言わない。ただこっちを見ているように感じた。それはそれで怖い。



「え、あっ! イルドリちゃん……彼女はわたしと一緒に働いてくれてるんです!」



 ソーニャが横から入って来てくれて、助け船を出してくれた。前のめりになって説明してくれてる。だけど、ヴァルターさんから出てきたのは吐息だ。

 いや、さすがに怪しさはあるかもしれないけど、そこまでではないはず。ビア国での冤罪は、間違われても仕方ない背丈と場所だったし。



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