翌日、私とドナベさんは早速御本人達に直接話を聞く事にした。
「ねえねえ、皆の好きな女性のタイプってどんなの?」
「フリーダだ。それ以外考えられん」
「僕の知らない知識を持っていて、研究に貪欲な女性ですかね」
「オレはよぉ、まだ女を好きになるとか考えた事ねぇんだ」
タフガイは論外だが、ブーン様とリー君はハッキリと意見を言ってくれた。これをヒントに、The・ニューヒロインに変身すれば良いんだ。
「ブーン様が好きなのはフリーダさん、リー君の好きなのは知的な女性。つまり、頭の良いフリーダさんになれば二人の好みの条件を満たせるんだ!ドナベさん、今直ぐ伊達メガネを買いに行こう!」
「メガネを掛ければ賢く見えるって発想がもう頭悪いよ。でも、確か魔力補正があるメガネ型のアクセサリーがあったから、それを見に行くのも良いかも」
「決まりだね、それじゃあ冒険マートにゴーゴー!」
そんな訳てギルドの近くにある冒険マートにやって来たのだった。
「すみませーん、頭良さげに見えるメガネありますかー?」
相変わらす、下手なダンジョンより迷いやすい店内だったので、私は恥ずかしがらずに店員さんに場所を聞きに行った。
「アクセサリーコーナーに有りますよ。案内致しますね」
「はーい」
冒険マートの看板娘さんに着いていって無事にメガネコーナーに到着。
「ホーホケキョ!私は注意力三万のフリーダさんですわよー!…どう?」
メガネを掛けてフリーダさんの真似をして、ドナベさんの感想を伺うが、反応はよろしく無かった。
「雑炊、慣れない事はやるもんじゃないね。君はフリーダに全く似てないし、馬鹿にしか見えない」
「そんな事ないよですわ!私はフリーダさんに賢さを加えた究極生命体ですわよ!ホーホケキョ!」
「その言い方だと、素のフリーダがアホって事になるから、本人に見つかる前に今直ぐ辞めるんだ。これ、フリじゃ無くてマジで言ってるからね?」
どうやら、私はフリーダさんの真似がとことん苦手らしい。考えてみれば、ヒロインと悪役令嬢は真逆の存在。一年近く友達として傍で見て来たとしても、そっくりになるのは土台無理な話かも知れない。
「仕方無い、賢いフリーダさん路線は私に合わないのなら、ブランBにするよ」
「雑炊の言うプランBって?」
「賢いプリンちゃんになる!ヘシン!」
私は、髪型をプリンちゃんに近付けてメガネを着用する!
「私は知性を得たプリン・フォン・モエモエ。ゴミ拾いなんて、単純労働しか出来ない奴らにさせておけばいいのよ!」
「さっきから、一人で何やってるんだお前」
アクセサリーコーナーで騒いでいると、聞き慣れたツッコミ。セール品をまとめ買いしているトムだった。
これは、好都合。一般人代表から見た私がイケてるか聞いてみなければ。
「あ、トム。どう?私カワイイ?私インテリア?プリンちゃんに知性を加えた感じでモテそう?」
「まずプリンはあんな事言わねえし、髪の色以外お前はあいつに何一つ似てないからな。つーか、一人でやかましい。同級生として恥ずかしいから、あんまりはしゃぐな」
「メンゴ」
ドナベさんの存在を知っているのは私とフリーダさん一派だけ。トムみたいな、その他大勢にはドナベさんの存在は秘密にしたままだ。なので、トムからしたら私が一人で騒いでると判断しても仕方が無い。
「そんじゃトム、こっちのフリーダさんの真似はどう?ホーホケキョ!」
私は謝罪を終えた直後、今度はフリーダさんのモノマネをしてみせた。
「何か、凄く迷走してる感じがする。お前、A組に上がってから、おかしくなったよな。前は他人を真似しようなんて事する奴じゃ無かっただろ」
「私にも、色々あるの!今のままじゃモテモテなんて夢のまた夢だもん!」
「お前、何の為にそんな事やってるんだよ」
本当の事は言える訳が無かった。だから、私はハーレムしたいでゴリ押す事にした。
「私はA組五位以内の男と付き合いたいの。何度も言ってるでしょ?これだって新しいアプローチを試してるだけだよ」
「そんなやり方じゃ、仮に付き合えても、本質的に好きな相手じゃないんだから幸せにはなれないだろ」
「トムみたいな凡人ならそうかもだけど、私はハーレムを作るポテンシャルを秘めたヒロインだから、最終的には全員をメロリンキューにして見せるよ」
「違う違う。ブーン様達じゃ無くてだな…お前の心の事を言ってるんだ」
「?」
私は、トムの言っている事の意味が分からず首を傾げた。
「雑炊、真面目な話するから聞け。お前ってブーン様達本人じゃ無くて、肩書きを見て求愛してるよな?お前は勉強は出来るし、黙ってればそれなりの男が出来るだろうに、何で高嶺の花を全部毟り取ろうとしてるんだ?」
「あ、あー、それはそのー」
マズイ、誤魔化す言葉が出てこない。私がゴニョゴニョしていると、トムが確信を突く発言をした。
「お前、もしかして誰かに命令されてブーン様達に付きまとっているのか?」
トムに指摘された瞬間、私はハーレムを築けない本当の理由に気が付いた。今まで私はドナベさんに言われるがまま攻略対象へ突撃してて、私自身が彼らをどんな感じで好きなのかとかは一切考えていなかった。
そりゃあ、両想いの状態には絶対ならないよ。私、彼らの事をちゃんと好きになっていなかったもん。ハイスペックイケメンが欲しけりゃ言う通りしろと言われて行動してただけで、そのハイスペックイケメンがブーン様達である必要なんて私には無かった。もし、ドナベさんが攻略対象として紹介したのがこの国の王太子とかだったら、私はウキウキで王太子を狙い、ブーン様には目もくれなかっただろう。
「私、今まで一体何をしてたんだろう…」
攻略対象を攻略対象としてしか見ておらず、ベストエンドの駒として考えていた自分の浅はかで失礼で愚かな態度に気が付き、後悔の涙がポロポロと流れてくる。
「使え。後、泣くならそっちに女子トイレあるから」
チーン。
トムから受け取ったハンカチで鼻を噛むと、トイレに駆け込んで涙と鼻水が枯れるまで泣いた。その後、ハンカチを洗面台で洗いトイレを出ると、外で待っていたトムにハンカチを返す。
「ハンカチありがと」
「ん」
「あのさ、トム。変に疑われたままなのも気持ち悪いから、本当の事話すね」
私は、トイレの中で泣きながら考えた大嘘をトムに話す事にした。この件にこれ以上突っ込まれたらフリーダさん達にも迷惑が掛かるから、トムにこれ以上変な探りを入れられない為にも、彼を納得させる嘘が必要だ。
「私さ、ダンジョンで死んだおっかさんの情報を得る為に冒険者学園に入ったんだよ。それで、入学直後に聞いちゃったんだ。ダンジョン管理を任された大貴族の息子が同学年に居るって。私はおっかさんがどこでどんな風に亡くなったかの手掛かりが欲しくて、大貴族の息子やその友達に近付いたんだよ」
我ながら中々上手い嘘だと思う。半分ぐらい真実を混ぜてるから、これを嘘だと見抜けるのは、フリーダさんぐらいじゃないかな。実際、トムは私の話を聞いて納得したらしく頷いた。
「そうだったのか。でも、婚約者が居る貴族様相手にそんな事したら、外国から来たスパイとかに間違われてもおかしく無いし、もう辞めておけ」
「分かってるって。おっかさんの情報は欲しいし、友達として付き合い続けたいけど、もうあの人達を恋人にしようとかは辞めておくよ」
「なら良い。恋人作るなら、ちゃんと自分が好きになった相手を選べよ」
私に釘を刺してトムは去って行った。まだこちらを疑ってるかもと思い、一度だけ振り返りトムが本当に帰ったかを確認する。
「えっ、何で!?」
私は驚愕した。トムはちゃんと私達から離れて行っていた。それは良い。問題は、小さくなっていく彼の後ろ姿だ。
トムの頭の上には、真っ黒なハートが浮かんでいた。大男の頭の上に黒いハートが浮かんでいたら、嫌でも気になりそうなのに、トム本人含め誰も彼の頭上のハートを気にしていなかった。
「雑炊、君にも見えるかい」
「うん、私とドナベさんにしか見えてないみたい」
私とドナベさんは、攻略対象では無い男の頭上に突如出現したハートを、不安げに見つめる事しか出来なかった。