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第54話 面倒な二人

「ふわぁ……なんか長いようであっという間だったなぁ」


「……ん」


 約一時間半のバス移動を終えて。乗車する時と違い、次は最後尾にて降車した。


 ちなみにだが、ポッチーゲームをしたあの後から、三葉の甘々密着はすっかりなりを潜めていた。


 きっと相当驚いたんだろうな。あれのせいで俺の気持ちの変化にも察しがついてしまったのかもしれない。おかげで手を繋いだり軽く腕を組んだりくらいはあったものの、それ以上密着してくることはなくて。というかそのわずかなボディタッチですら、耳を赤くしていたくらいだ。


 そんな、今もなお少し大人しくなっている三葉と手を繋ぎながら。きょろきょろと辺りを見渡す。


 バスが止まったのはパーキングエリアのようなサイズ感の大型駐車場。近くには売店、レンタルショップなどが並んでおり、漁港独特の匂いというか……


「ここ、お魚臭い」


「……」


 はい。言葉を選ばずに言うとそういうことです。


 ったく、せっかく俺が人当たりの悪くないオブラートに包んだ言い方を探していたというのに。


 やはりさすが漁港というべきだろうか。少し離れたここでも魚の匂いは充満しており、三葉の言うように″臭い″と嘆く生徒も数多く居た。


 俺は正直そこまで気にはならないのだが……やはり女子は匂いに敏感なのだろうか。三葉はすっかり鼻を摘んでしまっている。まあ慣れるまでは仕方ないか。


 それに、どうせすぐに気にならなくなる。匂いという意味では、これからのイベントも中々だからな。


「よぉし、それじゃあこらからバーベキューの器具の説明とか諸々すっからなー。班ごとに集まってちゃんと聞けよー」


 お、もう班ごとに集合するのか。


 なら二人を探さないとな。えっと……あ。


「うぅ。やっぱりちょっとたんこぶになってるじゃんか! 乙女の頭になんてことすんのさ!!」


「だぁから! あれは俺のせいじゃないって言ってんだろ!? なんかが飛んできて自撮り棒とスマホの接続パーツ破壊しやがったんだって! 俺だって被害出てんだよ!!」


 な、なんだ? もしかしてあの二人、揉めてるのか?


 雨宮はともかく、あの温厚な中山さんが怒るなんて珍しい。いったい何があったのだろうか。


 正直なところ興味半分、近づきたくない半分といった感じなのだが。あの調子だと説明を聞くどころじゃなさそうだしな。班員がそんな状態じゃ俺たちまた怒られてしまいかねない。仲裁に入らないわけにはいかないだろう。


「どうしたんだよ二人とも。何揉めてんだ?」


「あっ、市川君! 聞いてよ雨宮がさぁ!!」


「ちょっ、馬鹿お前! 相手駿だぞ!」


「だからなんなのさ!」


「っ……馬鹿すぎるだろ!!」


「バカって言った方がバカなんですぅ! つまり雨宮の方がバカ決定!!」


「あ゛あ゛ん!?」


 お、おいおい。なんか何もしてないのにヒートアップしていくんだが。


 えっと……とりあえず雨宮が何かしたのか? まあしてもおかしくないとは思うが。しかし中山さんを怒らせるほどって本当に何したんだ。よっぽどのことだと思うが……


「しゅー君。お困りなら私が止めよっか?」


「え? お前、そんなことできんのか?」


「ん、余裕。背後に回ってーーーー」


「気絶させるとか無しだぞ」


「……」


「図星かい」


 嫌な予感がして釘を刺しておいてよかった。


 いやよくない。つまりこれ、俺しか止められる奴がいないってことじゃないか。


 三葉のはいくら何でも最終手段が過ぎる。そりゃコイツにかかれば首トンで気絶させるくらい簡単なんだろうけどな。その後にあまりにも問題が生まれすぎるのだ。


 くそっ、やっぱり俺が頑張るしかないのか。面倒くさ……じゃない。とりあえず落ち着かせないと。


「えと、中山さん。一旦何があったか聞かせてほしいというか。この馬鹿が何したんだ?」


「しゅ、駿てめぇ! お前まで俺が悪いと思ってんのか!?」


「待て待て待て。そうじゃないけどさ。まあ中山さんの方から変なことはしないかなぁと」


「コイツはいつも変なことしてるだるぉ!?」


「う゛っ……そ、それはまあ。否定はできないけど」


「否定してよぉ!!!」


「ああもうどっちも面倒くせぇ! いいから何があったのか言えって!!」


 そうして、押し問答を続けることしばらく。何やらキレながらも頑なに何があったのか説明しようとしない雨宮に代わり、中山さんが口を開いた。


「全部雨宮が悪いんだよ! 市川君と三葉ちゃんのイチャイチャ写真を隠し撮りするとか言い出して……そのせいで!!」


「っ!? クソ、共犯者の人選ミスったッッ!!」


「「……」」


 どうやら、そういうことらしい。


 まるで見方を裏切って敵に擦り寄るキャラーーーーいや、中山さんの場合は単におバカキャラか。まあとにかくそんな感じで、彼女は気持ちいいくらい事細かに起こったことを話してくれた。


 何かプラスチックみたいなのが飛んできた、って。んな事あるわけないだろう。やりそうだとすれば三葉だが……。コイツはずっと俺と膝掛けの中にいた。そんな、いくらコイツでもノールックで射撃なんて、な。


「……威力、強すぎたかも」


「マジかお前」


 とりあえず、うん。




雨宮は、肉半分の刑で。

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