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第17章 ちゃん呼び飛ばして呼び捨てってアリですか?③

「んで、なんで二人とも苗字さん付け呼び?」


 @ふぉーむ式発注書の形式をお借りして、その発注書を埋め終えた俺、降夜さん、世那。そんな張り詰めていた糸が弛んだ様な空気の中に世那が唐突に疑問を投げ込んでくる。


「……いや、なんでって言われてもな」


 まだ出会って3ヵ月しか経ってない相手のことを馴れ馴れしく呼ぶ度胸は俺にはない。


「高山さんとは、まだ出会って3ヵ月だもの」


 そう、お互いに。秋城とうぃんたそを知っていた期間を含めるならそれなりに長くなるだろう。でも、高山隼人と降夜鈴羽はまだ出会って3ヵ月。そりゃ、食事行ったり、そこそこにコラボやらをしてたりするけど、ね。呼び方を変えるのは、なんか、こう。気恥ずかしさが伴ってしまう。


「じゃあ、共通の友達ができた記念に呼び方変えてみよーよ‼隼人はなんて呼ばれたい?」


 唐突に振られる質問についつい俺は真面目に考えてしまう。え、降夜さんに呼ばれるなら……?


「……普通に下の名前とか?」


 平静を装う。正直、降夜さんに下の名前呼びとかされたらそれはもう嬉しい。


「じゃあ、逆にすーちゃんは?」

「……そうね、気軽に鈴羽、とかかしら?」


 ししししし、下の名前をそんな気軽にいいんですか?内心の俺はその恐れ多さに飛びのいてしまう。もちろん、現実の俺は平静を装って、震える手でポテトを食べている。ははは、芋美味しー。


「そっかあ。じゃあ、すーちゃん‼」


 そうして、世那は降夜さんの方を向いて人差し指を躍らせる。


「りぴーとあふたーみー‼隼人ッ」


 唐突なる世那の無茶振りに降夜さんが固まる。降夜さんはポテトを口に含みながら、固まる。そして、そのポテトをぽりぽりとウサギのように食べ———困ったように俺を見る。んぐ、可愛い。そんな降夜さんに世那が顔を近づけて言うのだ。


「りぴーとあふたーみー‼隼人‼」


 ぐいぐい押す世那。何故、いきなり呼び方を改めさせようと……?そんな疑問を抱きながら、俺は軽くため息をつく。これは世那の暴走を諫めなきゃいけない気がする。


「おーい、世那」

「なに?隼人?」


 降夜さんにうりうりと頬を寄せていた世那が俺の方を見る。


「呼び方を変えるのなんて関係性の成り行きだろー?人に指図されて変えるものじゃあないはずだ」

「えーでもー」

「それとも呼び方を変えると世那に得がある、とか?」

「ないけどー」

「けど?」


 俺と世那の言い合いに、降夜さんが途中で買ってきた珈琲を一口飲んでから口を開いた。


「隼人の言うとおりね。呼び方なんて人に指図されるものでもないし」

「そうそう、降夜さ」


 降夜さんからの援護射撃。だと思ったかァ‼思いもよらないところに隠された爆弾に俺は固まってしまう。え、え、今なんて……?俺の耳がバグったに違いない、そう思い降夜さんの顔を見れば———平静を装っているが僅かに頬の高い位置が赤くなっていて。それはきっと化粧のせいなんかではなくて。そんなほんのり照れを見せる降夜さんの顔がまた可愛くて俺の言葉は出て来なくなる。そんな時間が温かく止まったような静寂を打ち破ったのは世那の声だった。


「でえ、隼人は呼ばないんですかァ?」


 口元を隠しても分かる、世那のやつ相当楽しんでやがることが。そんな世那の生暖かい瞳から逃げるように目を逸らしつつ、降夜さんをちらり、と見れば視線がぴたり、と合う。視線から降夜さんの感情を伺うスキルは俺にはまだない。だが、そんな俺でも感じ取れるぐらいの照れの感情が降夜さんからにじみ出てて。……これ、俺が此処で引き下がるととてつもなく格好悪くない?俺は降夜さんから視線を外して腕を組み、若干俯き———。


「す、すじゅは」


 はいっ、はい!大事なところで噛みました‼最悪‼あーあーあー。頭の中の俺は壁に頭を打ち付けて何度もヘドバンしながら、現実の俺は咳払いをする。そして、もう一回。


「しゅ、ずは」


 駄目だこれ。。あーあーあーあー。目の前で腹を抱えて笑う世那と笑いをかみ殺している降夜さんを見て思う。あーもー滅茶苦茶だよ。俺はとんだ羞恥プレイと化した場に今すぐ舌を嚙みちぎりたくなりながら、両の手でさめざめと顔を覆うのであった。


「……コロシテ……」

「ふ、ふふ……そうね。でも、相手の名前を意識して呼ぶっていうのは、なかなか緊張するものね……ふふっ、それにしても噛みっ噛みで……ふ、まあ、隼人が大事なところ格好付かないのは前もあったことじゃない」


 そういう降夜さんはさらっと俺の名前呼んできますね。いや、嬉しいからいいんだけどね、いいんだけどね?


「……まあ、さらっといつか出てくるわよ。ね、隼人?」


 無茶苦茶連呼してくるじゃないですかァ———‼正直心臓が持たない、俺の下の名前を呼んでくる異性なんて、前世は職場の同僚と妹、今世では母親と世那ぐらいだったもんだ。そこにいきなり最推しが殴り込みに来るなんて聞いちゃいない。ドキドキしてしまう。


「そ、そうだな……すじゅは」

「ぶふっ」


 こうしてこの後もかっこつかない俺なのでした。世那?腹抱えて大爆笑して最終的には過呼吸気味にびくびくと震えてたよ。


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