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第18章-日常放送編・秋城&うぃんたそ-

第18章 うぃんたそバトマス復帰配信ってアリですか?

 俺は切り替えるように咳払いして、ヘッドフォンを左手で押さえる。


「準備はいいか、うぃんたそ」

「大丈夫だよ~、秋城さんの方ちゃんと画面動いてる?」

「ああ、動いてる動いてる。うぃんたそがパック購入の画面右往左往しているのもばっちりだ」

「も、もう~~~~~~‼」


 そんな放送開始前の軽快な会話。さて、今日は一体なんの放送なのか?そもそも何故、うぃんたそとまたコラボしているのか。まあ、そんなのは放送しているうちに分かることだ。


「じゃあ、放送開始するぞ~」

「らじゃー」


 幕が開ける。さて、今日も放送開始だ‼




「んっんっんっ、こんしろ~秋城の生放送、はっじまるよーゆっくりしていってね。んじゃあ、お次はうぃんたそ~」

「勝利を運ぶっ、鈴の音鳴らすVTuber‼鈴堂うぃんだよ~~‼お前らの皆さんこんしろ~」


『こんしろ~』

『うぃんたそお久~』

『ここ最近はソロ配信ばかりだったからな』

『やはり花があるなあ、花びら舞ってる』


 コメントでも言われている通り、セイラとの雑談配信からしばらくは個人配信が続いていた。ので、久しぶりのコラボ配信である。


「花があるのはそう。うぃんたそだからな。でも、うぃんたそなら舞うのは花びらじゃなくて羽って感じがするよなぁ」


『羽が舞う中で振り向くうぃんたそとか絵になる』

『うぃんたそ天使だしな』

『大 天 使 う ぃ ん た そ』

『ウユニ湖に降り立つうぃんたそ』


「アニメ鈴堂うぃんのオープニング映像決まったな」

「あたしのアニメかあ、エンディングは秋城さんが一緒に歌ってくれるのかな?」

「く、うっ……デュエットのお誘い、だがっ、俺は推しの声だけを聴いていたいッ……‼」


 俺が胸を押さえて前のめりになれば、秋城も前後にかくかくと動く。


『厄介オタクしてんな』

『そういえば秋城の歌って聞いたことないな?』 

『↑伝説の配信前のパック開封で鼻歌なら聞けるやで』

『歌枠やれ秋城』


「えー、俺の歌枠とかどこ需要だよ……そういうのはアイドル系VTuberの担当だろぉ?」

「需要は此処にありまぁす‼秋城さんの歌聞きたい!」

「う、歌なあ……」


『もしかして:音痴』

『でも、鼻歌で歌ってた初代バトマスのOPは上手かったやで』

『まあ、家事出来て運動できるんだからできないことの一つや二つ……』

『秋城に二物を与えず』


 音痴疑惑。うーん、それもそれで否定したい気がするけれど、正直自信がないのが正直なところだったりする。というか。


「お前ら、落ち着いて考えてくれ。天下の歌姫、鈴堂うぃんの前で胸張って歌えるやついるかぁ?」


『あっ』

『それはそう』

『うぃんたその前では無理やなあ……』 

『うぃんたその前で歌うとか恐れ多すぎて』


 だよなあ。そうなるよなあ。どんなに現実で上手いと持て囃されようともうぃんたその歌唱力という圧倒的説得力の前では大体の人間は歌が上手いなんて言えなくなる。


「えー、でも、あたしの歌が上手いのと秋城さんが歌わないのは別問題だよ。歌おう?秋城さん」


 うぃんたそ真顔でのマジレス。それはそうなんだけどね。というか、嫌に真剣だな。うぃんたそから圧倒的圧を感じる。


「うーん、……まあ、それは後で考えよう。このままでは此処で歌う流れにされかねないからな‼」

「え、歌わないのぉ⁉」

「せめて覚悟を固める時間をください。今日は本題もあるしな~。さりげなく、うぃんたそがパック購入ボタンをたぷたぷしているのは見えているんだぞ~」

「てへ」


 まだ放送画面には載せていないが、うぃんたそがずっと購入ボタンを触っては戻ってを繰り返してそわついているのは画面共有で確認している。


『可愛い』

『助かる』

『しかし、マジでうぃんたそがバトマス触るのか』

『まあ、今限定環境やってるし触りやすい気はする』


 ということで今日の本題である。俺はうぃんたそと俺のアバターをそれぞれ左右に配置して、中央に画面を表示する。大きく表示される画面はうぃんたそが操る配信用端末の画面のミラーリングである。これでうぃんたその手元の動きがばっちり見えるわけだ。


「んじゃあ、改めてうぃんたそのデジタル版バトマス復帰配信始めていくぞ~はい、拍手‼」


『8888888888888888888』

『パチパチ』

『シャカパチシャカパチ』

『頑張れー!』


「ちなみに、事前に秋城さんに教えてもらってアカウント設定とチュートリアルと課金は済ませてあるよ~とりあえず、5万円」


 うぃんたそが手をパーにして前に突き出す。


「分かりやすく言うと1天井分だな。まあ、正直1天井で揃うか若干不安なんだが……」


 1天井、つまり、1回は確実に好きなカードが貰えるというガチャの救済システムだ。複数同じカードが必要なバトマスにおいて割と大事なシステムだったりする。


『まあ、いらんダブりを分解すれば』

『何のデッキ組むん?』

『SRの枚数次第では追加入りそうだな』

『限定構築戦?』


「うんうん、秋城さーん‼質問いっぱい来てるよぉ!」

「お、答えられないと思ったら答えられる人を呼ぶのナイス、うぃんたそ。そう、今回は限定構築戦……今回のルールだと2024年の店舗予選構築戦をやろうと思ってるぞー。ちな、うぃんたそにおすすめしてるのは魔法族デッキだな」


『魔法族なら通せば勝ちだもんな』

『あの時期は巨人族と魔法族が強かった』

『というか、秋城の放送やってなかった時期のバトマスやんけ』

『お、秋城この頃のバトマス語れんのか~?』


 ぐぬぅ、痛いところを突いてくる。そう、2024年と言えば隼人の体年齢6歳……記憶を取り戻して1年経ったかぐらいの頃である。当然バトマスに触れてはいたが、お小遣いの関係上がっつり環境は追えてなかった。


「あ、でも、2024年なら丁度見習い天使だった頃にバトマス触ってた時期だよ~もしかしたら、うぃんたそ多少なら分かるかも?」

「マジか、店舗予選とか出てたん?」

「店舗予選は出てなかったけど……バトフェス?とかは出てたよ~。勝率はあまりよくなかったけど……」


 苦笑の色を浮かべるうぃんたそ。でも、バトフェスとか公式イベントにちゃんと出てる辺り、思ったよりバトマスやってたんだな、という印象が生まれる。


『うぃんたそバトフェス出てたんか』

『思ったよりちゃんとやってる』

『コレクションするのは簡単だけど、そこからプレイするかは別だからな』

『それも秋城の影響?』


「もちろんっ、秋城さんがあんなに楽しそうにゲームをするんだもん、うぃんたそも触ってみたくなったからね!でも、その当時のなんだっけ……火鳥ヒドリ?とかケモノ?とかにぼこぼこにされたなあ……」


 ああ、俺もやんわりとしか知らないが、当時の環境トップたちですね……火鳥。ケモノも相手のライフを触らずにエクストラウィンを決められるデッキとしてかなり評価されていたし。

 うぃんたそもしかして、かなりの激戦区に出てた?そんなことを考えながら口を開く。


「それは負ける、知らないうちにゲームが終わったんだろうなあっていうのが無茶苦茶想像つくなあ。ちなみにうぃんたそは何使ってたん?」

「うーん、何のデッキって言われるとちょっと困るなあ。オリジナルデッキって言えばいいのかなあ。好きなカード集めた40枚、って感じのだよ~」


『分かる、それを公園でジャリジャリになるまで回すんだよなァ‼』

『↑いつの時代の小学生だwwww』

『でもそう言うのが作れるのが醍醐味だよなあ』

『そういうデッキでの一勝をいつまでも大事にしたかったぜ……』


「いつしか環境と金の暴力に溺れて勝利だけを求め続ける何かになった俺達からすると眩しいよな……。まあ、でも、今日からうぃんたそには環境と金の暴力に溺れていただくのですが」


『いい話を台無しにしやがって……』

『うぃんたそ逃げて』

『ごりごりの環境を回すうぃんたそ』

『でもそれはそれで可愛いのがうぃんたそ』


 そう、うぃんたそは可愛い。これだけは何があっても覆らないものだ。


「いぇいっ。じゃあ、そろそろ開けていいのかな?かな?」


 待ちきれないように両手をワキワキと滑らかに動かすうぃんたそに俺は心の中で親指をサムズアップしながら言うのだ。


「存分に開けてくれ~うぃんたそ」

「じゃあ、いっちゃうよ~!」


 うぃんたそが3Dモデル上の端末を出現させる、それに対してうぃんたその指先が触れる瞬間、配信画面上の端末画面のパックを購入するボタンが押される。もちろん、1回の開封上限の10パックだ。

 ドキドキ、最初の10パック。ローディング画面に入り、暗転画面が明けて———。


「わっ」

「金か~」


 暗転画面明け、金色の輝きを放つパック。


『金か~』

『ちょっとしょっぱいな』

『まあまあ、始まったばっかだし』

『次いこ、次』


「え、え、金色なのに駄目なの⁉」


 うぃんたそと比べて視聴者&俺のテンションの落差よ。これはデジタル版バトマスをやっている人間にしか分からないのだが。


「うぃんたそ、金じゃSRが出ないんだ……」


 正確には出なくはない、出なくはないが、非常に稀である。金はあくまでVRというSRの下のランクが確定しただけなのである。


「もしかして、SR以外のカードって価値ない……?」

「いや、そんなことはない。だけど、SRカードの方が分解したときに貰えるポイントが多いから、結果SRが出たら嬉しい、みたいな?」


『カードを分解して、そのポイントでカードを作れるんやで』

『極論、ポイントがあればパック剥かなくてもデッキ作れるからなあ』

『ポイントがあるに越したことはない』

『ちな、分解したカードは使えなくなるから注意やで』


「ほえー、……えーと、つまりは……」


 頭を左右に揺らすうぃんたその様子に処理落ちしかけている気配を察知する。


「まあ、今はガンガンパック剥いて目当てのカードとポイントを貯めていこう、が方針だな」

「よし、じゃあガンガン剥いていくよ~‼」


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