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第18章 うぃんたそバトマス復帰配信ってアリですか?②

 そこからなんだかんだで30分ぐらいだろうか、パックを剥きながら、どのカードがいる、とかSRよりもレアリティの高いカードがある、とかそんな雑談配信化してきた頃合いだった。「ギンメイジンっていうキーカードが」そんなお話を振った瞬間であった。


「およっ」

「おっ」


『キタ━(゚∀゚)━!』

『いやまだだ、まだ』

『まだ、喜ぶには早いッ……‼』

『あとギンメイジンだけなんやけどなあ……』


 バトマスのロゴマークと熱い炎エフェクト、SRを越したオーバーレアリティの確定演出だ。これが確定したということは……。


「も、ももも、もしかしてギンメイジン⁉」

「いや、落ち着けうぃんたそ。この演出が出ても2分の1の壁がある」


 そう、この弾のオーバーレアリティはギンメイジンとデッドドーロの2種類。ギンメイジンを確約してくれるわけではない。だけれど、オーバーレアリティは分解時のポイントが凄く高いため、正直この時点で勝ちであることは変わらなかった。


「ちなみに秋城さん、デッドドーロの方は出てもあまりオススメできない感じなのかな?」

「お、うぃんたそデッドドーロ気になる?」

「うーん、どうせなら配信の記念に自分で引いた最高レア‼って取っておきたいなぁ、って」


 ふむふむ、まあ、確かに自分で引いたカードって大切さも一層増すよネ。

それに、いつかもしかしたらデッドドーロを使いたいってなるかもしれないし。デッドドーロが出ても分解せずにとっておくのも一つの手かもしれない。


『眩しい』

『光のカードゲーマーうぃんたそ』

『おまいらが捨ててきたものやで』

『辞めろ、その攻撃は俺に効く』


「お、お前らがどんどん浄化されてってるな。無論、俺も消えそうです」


 秋城の滅多に動かない表情筋を動かしての笑顔にプラスして金色のキラキラとした消失エフェクトを秋城にかける。


「え、え、消えないでぇー‼秋城さん居なくなったらバトマスのこと誰に聞けばいいか分からなくなっちゃうよぉ~‼」

「うぃんたそが……なんかすごく可愛いことしてくれたら戻ってこれる気がする……」


『唐突な無茶振り』

『なんかすごく可愛いこと』

『そこに居るだけで可愛いので達成しているのでは?』 

『うぃんたそ~、うちの馬鹿が無茶振りしてすまンゴ』


「え、え、可愛いこと……可愛いこと……‼」


 おめめぐるぐるエフェクトで混乱ぷりを見せてくれるうぃんたそ、そして、そんなうぃんたそは「はっ」という声を上げて。


「鳩のモノマネしますっ‼」

「可愛いの方向性ッ‼」


 俺の全力のマイクに配慮しつつの叫び声。鳩のモノマネするうぃんたそ?可愛いと思う‼むっちゃ可愛いと思う‼だけど‼


『くるっぽー(チャンネル登録しました)』

『可愛いけど』

『可愛いの方向性が』

『うぃんたそ、適当に甘い声で秋城の名前呼んどけばええんやで』


「え、え、秋城さん適当に甘い声で呼ばれた方が戻ってこれそう?」


 うぃんたそがコメントを見て、困ったような声で聞いてくる。それはそれで聞きたい、そんな気がしてしまうが———。此処で切るべきカードは欲望に素直になるカードではない気がする。ということは、だ。


「俺は適当じゃ嫌なので鳩の真似で頼んだ」


『適当じゃ嫌』

『適当じゃない瞬間がある、ということ⁉』

『クソー‼表だけじゃなく裏でもイチャついてるのか‼』 

『秋うぃんてえてえんじゃ……』 


 コメント欄の反応に内心ガッツポーズをしつつ、チャットではうぃんたそから親指サムズアップなチャットが送られてくる。お褒め頂けて光栄だ。


「それじゃあ、あたしの鳩の真似いっくよー!秋城さん振ってくれる?」

「おう、じゃあ、行くぞー。3、2、1、キュー‼」


 すると、うぃんたそのモデルが首をくいっくいっと前後に動かしながら画面の中を小刻みに歩き始める。そして、きょろきょろと辺りを見回して。


「くるっぽー」


『まさかそう来るか』

『全身で表現してくるとは思わなかった』

『アイドル脱ぎ捨ててきたなあ……』 

『そういうのはセイラに任せときなうぃんたそ』


 しかも面白いのが「くるっぽー」も微妙に声を高くして、寄せてきている、鳩に。いや、うん、俺はねうぃんたそが可愛い声で「くるっぽー」っていうのを期待してたんだ。俺は目を伏せながら諭すように口を開く。


「うぃんたそ、うぃんたそは、アイドル」

「そうだよー?」

「そういうのはセイラにでもやらせておけ、な?」


『いや、セイラもアイドルなんですが』

『セイちのことバラエティ芸人だと思ってる?』

『変なことやらせたらピカイチだからな』

『鳩の真似をするセイち』


「んー、でもね、秋城さん」


 うぃんたそがちょっと真剣な声で切り込んでくる。


「そうやって雑に全部セイちに任せてるといつか全部セイちでいいやになっちゃうって知ってる?ねえ、知ってる?秋城さぁん」


 うぃんたそのキラキラと輝くおめめが真っ黒に染まる。そして、ずずい、とうぃんたそが秋城のモデルに詰め寄る。


「まあ、秋城さんはセイちの方がいいかもしれないけどーこの間の放送も仲良さげだったもんねー?うぃんたそにはお前って言ってくれないもんねー」

「ちょ、ちょちょちょ、いきなりどうした。え、うぃんたそにお前だなんて、そんな雑なこと言えない、無理無理」

「コメントも熟年夫婦とか言われてたもんねー、秋城さん満更でもなかったんじゃないかなあ?お前らの皆さんどう思う?」


『ヒィッ』

『秋セイが熟年夫婦なら秋うぃんは新婚だよね』

『秋城も秋セイはないって言ってたよ』

『俺は秋セイより秋うぃん派です‼』


 お、今日のうぃんたそは暴走気味だな。とか思いつつ、唐突に振られた話題に俺の手は汗ダラダラです。うぃんたその演技にごりごりに押されてる。多分これも、演技、きっと秋うぃんてえてえに着地させるための演技。


「お、お前らの言う通り‼うぃんたそ、俺は秋セイはないってちゃんと否定したぞー。満更じゃないぞー」

「むう、でも、秋城さんセイちとの会話うぃんたそより気軽だったよ」


 頬を膨らませて拗ねたように視線を逸らすうぃんたそ。ぐうかわ。俺は悶えそうになりながら、精一杯それを隠して声を出す。


「アレは気軽っちゃ気軽だが……なんだろうな。男友達に接するソレ的な?」


 我ながらこれは正確に言ったと思う。長年の付き合いのアレソレとか絶対に言えない言えない。ので、セイラのキャラ込みで言うなら、男友達っぽいが一番それっぽい理由になるだろう。


「むぅぅぅう……でも、うぃんたそも気軽に接して欲しいな。秋城さんと知り合ったのはあたしが先だもん」


『嫉妬するうぃんたそきゃわ』

『秋城そこ代われ』

『今日は秋うぃん成分大量だな?』

『三角関係うめめ』


「うぃんたそに気軽なー……お前、って呼ぶのは無理でも今結構気楽な気がするんだけどな」

「ほんと?」

「ほんと。セイラと話すときより肩肘張ってる感じはしないし、リラックスはしてると思う」


 これは事実。何をやらかすか分からないセイラ相手だと、何が飛んでくるか分からずに実は割とどぎまぎしながらやっている。対して今は結構リラックスはしていた。いや、最低限放送中であるということは意識してるけどね?

 すると、うぃんたそは口を両手で押さえながらふにゃり、と脱力して笑うのだ。3Dモデルが動くのと連動して小さな鈴の音が鳴る。


「ふふ、もしかして、これはうぃんたそが秋城さんを癒してるって言っても過言じゃないね」


 むふ、とドヤ顔をするうぃんたそ。マジで嬉しそうな顔が可愛くて、というか———。


「え、なにを当たり前のことを。うぃんたそに癒されてない日はないぞー?」


 カラカラと笑いながら事実を告げる。そう、推しに癒されない日はないのだ。毎日、うぃんたそのグッズに配信に無限に俺はうぃんたそに癒されてる。うぃんたそがいるから頑張れる。

 うんうん、と俺がそんな事実を噛みしめていれば、うぃんたその動きが止まる。


「おーい、うぃんたそー?落ちた?」

「~~~~~、ちょっと待ってね、うぃんたそお水飲むね。そしたら、このオーバーレアのカード開けようね‼」


 そうしてマイクから少し離れる気配。あれ、俺なんか不味いこと言ったか?そう思いつつも、うぃんたそがお水を飲んでいる間場を繋がねばとコメント欄を見れば。


『秋うぃん今日ヤバくね?』

『秋うぃんの大洪水じゃん』

『秋うぃんが尊すぎたのでとりあえずチャンネル登録しました』 

『お互いが推し故の交通事故や……』


「交通事故て。いや、でも、お前らも日々推しに癒されてるだろ?」


『まあ、それはそう』

『日々推しには感謝してるよ』

『ま、秋城じゃねーけど』

『ニキはなんだろうね、癒しというより安心枠?』


「安心枠……と言いつつ、お前ら俺を辱めることに余念がないよなァ⁉」


『ソンナコトナイヨ』

『ネー』

『何の話だ?』

『そんな秋城が玩具だなんて』


「お前らの本性が駄々洩れだな⁉ったく……」


 そんな会話をしているとマイクの傍にうぃんたそが返ってきた気配をヘッドフォン越しに拾う。そして、3秒もすれば元気なうぃんたその声が届いた。


「ただいまあ‼」

「おう、おかえり」

「じゃあ、この一番レアなカード開けちゃうよぉ‼」


 そして、うぃんたそが3Dの端末に向かって指を落とす。そして、画面上でもカードが開かれる演出が入る。そして、姿を現したのは———。


「はあああぁああぁああ⁉」

「へっ?」


『それは予想外』

『いや、うぃんたその幸運値は強いと思ってたが』

『ガチャくんうぃんたそに敗北ゥ』

『オーバーレアを引くだけでかなり運がいいのに』


 そのカードが現れた瞬間、俺は口を開けて固まってしまった。いやいや、あー……流石うぃんたそ。つよつよ幸運値の持ち主。まさか。


「……ギンメイジンのシークレット引くとかマジか……」


 そう画面に現れたのは通常のギンメイジンではなく、シークレット版のギンメイジン。ちなみにデジタル版バトマスではシークレットverのカードにはゲーム内アバターとスリーブとプレイマットがついてくる。大当たりだ。


「も、もしかして……すっごくいいやつ?」

「うぃんたそ、魔法族と心中しような?」

「すっごくいいやつなのは分かった‼」


『さすうぃん』

『うぃんたそ俺のガチャも引いて』

『外さねえなあ、うぃんたそ』

『俺はうぃんたその敗北が見たいよ』


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