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第18章 うぃんたそバトマス復帰配信ってアリですか?③



 そんなこんなでカードを引くのもそこそこに。デッキレシピは当時の店舗予選優勝デッキを丸パクリしてデッキを作成、俺参謀の元うぃんたそはカジュアルマッチに潜ることになる。


「あー、初陣だよぉ……ドキドキする」

「はは、カジュアルマッチだから気楽にな。カードのルール処理なんかもオートだし」

「うんっ」


『俺も今カジュアルマッチ潜ってるよ~』

『うぃんたそと対面したい‼』

『でもこれ実質VS秋城』

『秋城の実力分かっちゃいますねえ』


「プレイイングもクソもねえ、3ターンキル見せてやるよ。あ、お前らや信者の方がマッチングした場合は放送を一旦閉じてくれな。手札丸見えじゃ流石に勝てねえ」


 そう、画面をミラーリングしている都合上こっちの手札が全部見えてしまうのだ。それはよくない、というか公平なゲームでなくなってしまう。

 そして、そんな注意喚起をしている間にマッチングが成立する。対戦相手の名前は「お前らより愛をこめて」……。


「マジでお前らとマッチングするとは思わなかった」

「でも、お前らの皆さんの誰かってことは……」

「ワンチャンガチ勢だな」


 まあ、うぃんたそが握っている魔法族デッキはガチ勢相手でもプレイイングもクソもなく轢き殺せる性能のあるデッキではあるのだが。あとはうぃんたその幸運値次第、相手が派手に事故ってくれたら楽なんだけどな。

 そんな緊張感の中ゲームが開幕する。ちなみに配信外で放送のための設定を教えているときに基本操作のチュートリアルはやってもらったのでそこは心配ない。

 先手後手が決まる。うぃんたそは後手だ。


「後攻‼秋城さん不味くない?」

「んーや、相手が同じデッキもしくは巨人族だったらちと不味いが……それ以外ならどうにからならなくもないな」


『シーンチェンジ系デッキじゃない限りは割と通せるからな』

『ノーライフトリガーで通せばええんやで』

『貫通すれば勝ちや』

『2t目オブラート、3t目ラージ、パフェフレ、ギンメイジン、勝ちで』


 お、コメント欄のお前らが賑わってきたな。なんだかんだ他の人がやっているデュエルをヤジを飛ばしながら見るのって楽しいよな。

 コメント欄を端に見つつ、うぃんたその手元を確認して、相手の1コスト目になんのカードを置くかを見る。相手は1コスト目はドレスメリサ、ということは。


「お、アレス・ドレスか。黒緑なのか赤緑なのかが分からないが……」

「魔法族より強いデッキ?」

「んー、や。強い方向性の違うデッキ、的な?」

「方向性?」


 うぃんたその疑問になんて答えていいのか考えつつ、コメント欄を見ればコメント欄の方が分かりやすく解説してくれてた。


『魔法族は短距離走をするデッキ、アレスは中距離走をするデッキ』

『アレスはミッドレンジ』

『硝子コストでちょっと早くなったけど……』 

『魔法族の速さにはかなわんw』


 悔しいけどコメント欄GJ。


「つまり、うぃんたそは短い手番で相手を殺さなきゃいけない訳だね‼」

「そゆこと~。んじゃあ、うぃんたそのターンだ1コスト目なに置く?」

「え、えーと……魔法族は赤と青のデッキで……ギンメイジンで殺すデッキだから……この2色の呪文カード、かな?」


 うぃんたそが指さすのはアイフレという略称で呼ばれるカード。役割は大体ドローソースと踏み倒し召喚。うん、悪くない。だが。


「アイフレはちょっと持ってたいな。置くなら2枚あるギンメイジン置いていいと思う」

「ほえ~」


 うぃんたその手によってギンメイジンがコストに置かれる。そのターンは動くカードもなくエンドだ。




 ちょっと割愛。あの1戦は結局、最後のライフトリガーからうぃんたそを止める有効トリガーが来てしまい、そのまま流れを持ってかれて負けてしまった。だけど、そこでうぃんたその闘争心に火がついたのだった。


「今の勝てそうだったよね⁉よーし、うぃんたそ、この調子で頑張ったちゃうよぉ‼」


 そうして、かれこれ5戦。デッキの回し方も分かってきたのか俺が口を挟むことも少なくなり、すっかり俺も賑やかしの一部になっていた。そうして、今。


「うぃんたそいけるいけるいける‼これは勝てる!」


『いけるいける‼』

『魔法族と魔法族のぶつかり合いを制するのはうぃんたそだァ‼』

『これは勝ったな』

『うおおおおおおおおおお‼』


「さあ、最後のライフは⁉」 


 うぃんたそが興奮気味に体を揺らす。そして、相手のライフトリガーのチェック———トリガーはない。


「こういうとき、こう言うんだよね?……ガッチャ、いいデュエルだったぜ‼」


 そうしてうぃんたそが相手にとどめを刺す。完全なるうぃんたその勝利だった。


『うぃんたそおめでとーっ‼』

『さっきまでずっと惜しいところで負けてたからね』

『やっと勝てた———‼うぃんたそ復帰後初勝利おめ』

『おめでとうっ‼』


「みんなありがとう~!これも、色々教えてくれたお前らと秋城さんのおかげだよ~」

「いやいや。うぃんたその実力だろ。途中から俺もお前らも賑やかししてただけだし」

「でも、うぃんたそだけじゃ回し方とか戦い方は分からなかったよ~本当に感謝!秋城さん、お前ら、ありがとうね~」


『いえいえ~』

『バトマスユーザーが増えるのは嬉しいからね』

『新参は囲ってなんぼ』

『うぃんたそ楽しかったー?』


「すっごく楽しかった!やっぱり、ワイワイ言いながらやるカードゲームって凄い楽しい‼これからうぃんたその個人配信でもデジタル版バトマスの時間作っちゃおうかなぁ」


 うぃんたそが人差し指をくるくると回しながら機嫌よくそんなことを言う。これはガチでバトマスの時間作ろうと考えてるな、なんてちょっと嬉しくなりながら俺は口を開く。


「そうしていつしかバトマスから案件が着たり、な?」

「え、ええ⁉ど、どんな案件が来るんだろう……」


『グランプリの賑やかしとか?』

『グランプリでサイン会とかはありそう』

『ゲーム開始のコールをうぃんたそがやるとか』

『うぃんたその応援ステージ待ってます』


「んー、サイン会はちょっと厳しいと思うけど、でも、それ以外はできそうだからやってみたいな……っていうかグランプリ凄く行ってみたい!」


 うぃんたその語りに入る熱に本気でそう思ってくれていることを感じて自然と俺も口角が上がる。


「グランプリは楽しいからなあ。全国大会へ行くためのチケットを取るための大会ってだけじゃなくて……なんだろう、バトマスのお祭りみたいな?うぃんたそもきっと楽しめると思う」

「もし案件来なくても予定押さえてオフで行く手も……‼」

「それはマネちゃんさんストップが入りそうだな」


『人多いからなあ……』

『うぃんたそ声が特徴的だから特定簡単そう』

『そもそも女性は割と浮く』

『それなー』


 そう、悲しきことに女性バトマスプレイヤーは数少ない。故に、いるだけで目立つのだ。そんなところにお忍びとはいえ、うぃんたそもとい降夜さんが行くと……完全に浮くだろう。お忍びは厳しいなあ、なんて考えながら時計を見れば放送開始から1時間を回っていた。


「お、うぃんたそ。時間時間、区切りもいいし、な?」

「そうだね!いやーバトマス楽しかった~。オフでもやるつもりだから、当たったらお前らと信者の皆さんお手柔らかにね~。それじゃあ、秋城さん終わりの挨拶行くよ~?」

「おう」

「せーのっ」

「「おつうぃん~~~~‼‼」」


『おつうぃん~』

『おつ~』

『いいデュエルだったぜ‼』

『俺もバトマス始めるか……』




 放送終了ボタンをクリック。放送終了だ。放送時の緊張感が抜けて脱力していく。


「ん~~~~、お疲れ様、す、鈴羽」


 未だに鈴羽と呼ぶのは理由もなくそわついてしまって。でも、鈴羽が隼人、と呼んでくれるならなんとなくこちらが降夜さんと呼ぶのは距離がある気がしてしまって。絶賛、この呼び方に慣れようの努力の真っ最中だ。


「お疲れ様、隼人。……まだ、恥ずかしいのかしら?」

「るせ。こちとら前世込みで女性の下の名前を呼ぶ機会がなかったんだよ」


 俺は唇を尖らせながら、カフェイン飲料を開けてごくごくと飲む。


「まあ、いつか慣れるわ。……ねえ、隼人」

「ん?」

「バトマス、凄く楽しかったわ」


 短い、短い、今日の放送の感想。だけれど、オフの場のその感想は俺がその場で足を浮かせてしまう程嬉しい感想であった。


「それはなにより。というか、マジで個人配信で時間作るん?」

「ええ、決まった枠ではないけれど少しずつ挟んでいこうと思っているわ」


 鈴羽もというぃんたそはやると言ったらやる。つまりこれはもう決定事項であるということだ。


「もっと強くなって隼人ともプレイしてみたいわね」

「え、今からでも俺は全然プレイするが?」

「嫌よ、隼人にデッキ全部バレてるじゃない。隼人に対策デッキ握られたら勝てないもの」

「いや、そんなことはしないが……」


 それこそ面白くない、というか盤外戦術というか。ただ自分の知識をひけらかしたい最低野郎のすることだ。俺はそんなことはしない。


「それに」

「それに?」

「私の力で強くなって、隼人をわっと驚かせたいわ」


 鈴羽の言葉に俺の顔は自然と緩んでいく。自分の好きなものに、推しがハマってくれるかもしれない、その事実がとても嬉しかった。

 だが、此処であれもこれもと知識を押し付けてはいけない。布教をするのであったら押し付けすぎず、求められたら知識を差し出すのだ。だから、此処は、あえて。


「んじゃあ、す、鈴羽が挑んでくる日を楽しみにしてるわ。……と言っても、それまでバトマスコラボ一切して貰えなかったらそれはそれで悲しいがな!」

「……確かに、隼人を驚かせるにはそれぐらい必要かしら」

「それは俺泣いちゃうって」


 泣いちゃう。それは悲しい。


「冗談よ。私が配信したら隼人は見に来てくれるのだから、手の内の隠しようがないもの」

「そりゃあな。推しの配信見に行かない手はない」


 俺とコラボをしなくても、鈴羽が配信をするなら結局手の内は分かるというもので。悲しいかな、VTuberとしてそのトピックスの配信をするなら隠し事なんてできないわけで。


「秋城入室禁止、って書かれてても複アカで入ってきそうよね」

「そりゃもう。隼人のアカウントで普通に見ますとも」

「意味ないわね」


 鈴羽の呆れたような、でも、ちょっと嬉しさを含んだ様な声に俺もつられて笑う。


「まあ、それはそれとして強くなることはバトマス割と簡単だったりするんだな」

「そうなの?」


 鈴羽の驚きを含んだ声に俺は鈴羽には見えないのにこくこく、と頷くのであった。


「バトマス系Utuberの動画見るだけでも大分知識が身につくし、ゆったーでは日々優勝者が有料記事出したりしてるからな。……たまにゴミみたいな記事もあるが」


 これは本当にそう。有料だからと言って全てが全ていいわけではない。有料記事と言っても書いているのは大半が文章素人、中には神のような記事もあったりするが、それと同じぐらいの確立でゴミも混じっている。


「質のいい記事だけ読む方法ないかしら……」

「ないな。マジで買って、読んでみないと神かゴミかはマジで分からん。強いて言うなら、ゆったーの宣伝にぶら下がってるリプライ見るとちょっとは内容の質が分かるかな」

「リプライは要チェック、ね」


 俺も有料記事を買う指針にしているが、本当に酷い有料記事のリプライ欄は荒れるものだ。買う価値がない、ゴミ、ってな。


「ま、それで記事なり動画なりの方法を実践していって自分のプレイスタイルに合う戦い方を身に着けるのが一番だな。プレイスタイルが固まれば取捨選択ができるようになってくるし」


 そこまで語って、いかんいかん、語りすぎてはいけない、と自分を律する。気を抜くとすぐこれである、本当にオタクの悪い癖だ。


「そうね、じゃあ、ご飯を食べながらUtubeの動画でも見ることにするわ。私がどんなプレイスタイルを身に着けるか、楽しみにしてて頂戴?」

「おう!」

「さて……名残惜しいけれど私はこの辺で失礼するわ。明日一限なの」

「うわ、それは頑張ってくれ」


 全大学生が一番げんなりとするワード、それが一限である。本当に、朝8時半近くから講義をするとかふざけるな、である。


「じゃあ、お疲れ様。隼人」

「おう、お疲れー」


 通話が終わる。……鈴羽が名残惜しいと言ったからだろうか、なんとなく俺も名残惜しくてヘッドフォンをつけたまま、背もたれに寄り掛かる。そのまま、俺はUtubeのマイページを開き、自分のチャンネルの登録者数を確認する。


「83万人かぁ」


 まあ、ここ最近は個人配信ばかりだったし、今日もデジタル版バトマス配信だったからそんなに飛躍的に伸びたりはしていなかった。

 ま、それでも83万人は凄い数字だ。なにかの記事で見たが、チャンネル登録者数が50万人を超えるのは上位0.1%にも満たないらしい。そこに入っているのだから、個人勢としてはかなり凄い部類に入っているだろう。


「でもなあ……」


 うぃんたそにセイラ、周りが凄すぎてついつい感覚がバグってしまう。でも、それは悪いバグじゃない、「俺ももっと頑張らねば」なんていういいバグだ。


「まあ、とりあえず今日できることはやった、か」


 配信の終わった画面を見つめて、息を吐きだせばヘッドフォンをヘッドフォン置きに置く。そうして、俺は立ち上がり全身に力を入れて伸びて、脱力。


「明日からも頑張っていこーぜ、秋城」


 そんなもう一人のボクに話しかけるような言葉を自分に放って、俺は軽快な足取りでリビングに向かうのであった。


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