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第28章 ライブの同時視聴配信ってアリですか?②

「勝利を運ぶっ、鈴の音鳴らすVTuber‼鈴堂うぃんだよ~~‼」

「おおおおっ、うぃんたそきたな!」


『うぃんたそっ!!!!!!』

『うぃんたそキタ━(゚∀゚)━!』

『杞憂だったな』

『何故7月、うぃんたそ?』


 うぃんたその登場に一気にコメントの流れも早くなる。本日のうぃんたそはソロライブの時に実装された大天使衣装のうぃんたそで神々しい、マジで神々しい。髪もふわふわとしていて、本当に可愛いな。うぃんたその可愛さに俺の頬はもうゆるゆるだ。


『秋城顔面崩壊してるぞ』

『最早キャラ崩壊では?』 

『こっちが素なんだろうなあ』

『今までの鉄仮面はなんだったんだ』


「ははは、なんとでも言ってくれ。リニューアル後の秋城は表情も豊かに行くぞ~」


 もう今は何言われても幸せな気分だ。マジでうぃんたそ可愛い。


「今日はね、信者の人たち以外も見てくれてるからねっ。うぃんたその歌を始めて聞く人も多いだろうから、最新の!つよつようぃんたその楽曲持ってきたよ~それじゃあ、聞いてください。———ウィング」


 うぃんたそが瞳を閉じるとそれだけで空気が澄んでいくようで。うぃんたそが瞳を開くとピアノのイントロが入る。そして、喋っているときとは全然違うとても澄んだ歌声で歌うのだ。あの日、秋城を再起動させた歌を。


 ~~~~~~♪


 ガッ、と強く思い出す。夏の暑い日。渋谷の街頭で見たうぃんたその姿。就活のためにVTuber&カードゲーム断ちをしていた俺はそれがうぃんたその新曲であることを知らなかった。だけども、惹かれた、惹かれて、うぃんたその曲であることを知った。そして、ウィングに背中を押された。このままでいいのか、2週目の人生なのに1週目と似たようなことをしようとしている俺を奮い立たせたあの曲。

 きっとあの出会いがなかったら俺はこんな恵まれた人生になってなかった。それこそ、うぃんたそ、いや、鈴羽と出会うことなんて一生なかっただろうし、セイラの秘密も知らなかっただろう。そして、妹と再会することもなかった。あの日、あの場所で、うぃんたそのウィングが俺にVTuberに、秋城に戻るという選択をさせなかったらなにも、なにもない、人生だっただろう。


「本当にいろいろあったな」


『お、どうしたしみじみして』

『なにか思い出した?』

『7月……7月……?』

『秋城の復活した月じゃね?』


「いや、俺さ、うぃんたそのこの曲聞いてもう一度秋城を始めようと思ったんだ。だから、思い入れが深くてな」


 秋城を復活させて、うぃんたそからDMが来て、いっぱいの赤スパの主がうぃんたそだと知って、そして———夏の暑い日、鈴羽と出会った。

 今思えば噛まなかったのが奇跡と言えるぐらいにガチガチに緊張していた。ガチガチに緊張して、転生を打ち明けて、過去の話を語って。あの時のことを思い出すとちょっと胃が痛くなる。だけど、鈴羽は肯定してくれた。そんなの作り話だ、と一蹴することもできたのに、鈴羽は肯定して、俺が復帰するための舞台を整えてくれた。そして、幕開け配信を迎えた。

 幕開け配信もボロボロだった、というか、正直1人の力じゃどうにもならなかった、なんて改めて思い出す。1人じゃどうにもならなかった、でも、うぃんたそが打ち出してくれた策———俺の古い友人を連れてきてくれるという策がハマり。秋城として復活できた。

 そこからはうぃんたそと沢山のコラボをしたりな。本当に7月の密度がヤバイ。

 そうしみじみとしていると、うぃんたその歌が終わる。そして、アウトロが終わって。


「———ウィングでした!みなさんご清聴ありがとうございました!さてさて、7月。7月なにかあったっけ?っていう人が大多数なんじゃないかなあ、とうぃんたそは予想するよ」


 うぃんたそのMCパートが始まる。歌っている声もよかったけど、喋っている声も可愛い。ダンスを踊っているうぃんたそも可愛いけど、喋ってぴょこぴょこしているうぃんたそも可愛い。つまりはうぃんたそが可愛い。


「えへへ、まあ、実はあまり@ふぉーむは関係ないんだけど、2039年の7月はうぃんたそにとってとても!とても!大切な月だから、7月を担当させていただきました~!詳しくは7月29日の再生数が凄いアーカイブをチェックで!」


 ん?それって。


『幕開け配信やんけwwwwwww』

『秋うぃん匂わせですか?』

『両想いじゃねぇか!』

『秋城さん今のお気持ちは?』


「ちょっと待て、驚きすぎて声が出ない。え、ええ……つまり、俺が復活したからうぃんたそにとって今年の7月が特別だった、ってことォ?」


 バチバチに動揺してしまう。え、えー?言葉にすると凄い自惚れてる感があるが、そういうことだよな?な?俺は両眼をパチパチと何度も開きながら驚きの表情を浮かべる。


『秋城も聞いてなかったんかwwwww』

『サプライズやなあ』

『大みそかに秋うぃんが食べられるとは』

『まあ、推しの復活は特別にもなるわな』


 というか、そのノリで選んでいいのか出演月。いいのか、@ふぉーむ様。


「あ、ちなみにこのお話をすることはちゃんと許可を貰ってるのでうぃんたその暴走じゃないよ~セイちじゃないからね~」


 最近の流行語だな。「セイラじゃないから」。


「まあ、推しの復活月じゃなくても他の@ふぉーむのVTuberの生誕ライブにも出たりしたからね!そう言う意味でも慌ただしい月だったなあ。12月ほどじゃないけど」


『12月は毎年配信が減るぐらいだもんな』

『うぃんまどが珍しく隔週になる12月』

『12月は年末年始ライブ、1月は誕生日だもんね』

『誕生日と言えば秋城は誕生日グッズとか出さないん?』


「……そういえば、俺、俺の誕生日配信とかやったことないな?」


 コメントに問われて気づく。配信活動をそこそこしていて……誕生日配信をやっていないことに。


『確かに秋城の誕生日聞いたことないな』

『いつなん?』

『もしかして:誕生日設定してない』

『今日とか?』


「いや、流石に大晦日ではないが。え、えー……」


 こ、これはどうしたものか。というか、秋城の誕生日は秋都基準にすればいいのか隼人基準にすればいいのか。お、これは一度持ち帰って一旦検討した方がいいな。そうして、俺は声を絞り出す。


「す、すまん。誕生日は一旦保留で。前世基準にすべきか、今基準にすべきか、すんげー悩んじまう」


『そうか、誕生日二つあるのか』

『悩め悩め』

『どっちにしてもちゃんとお祝いしたるでw』

『ちゃんと1カ月前までに教えてくれよな』


 おうおう、お前らがなんか暖かい。


「ということで!うぃんたそのパートは此処まで!じゃあ、みんなよいお年を~!来年もよろしくね~!」


 そう言いながらうぃんたそがレイピアを出現させてそのレイピアの先に炎を灯してそれを蝋燭に移す。そして、炎にズームインしていき、次のメンバーにバトンが渡された。


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