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第28章 ライブの同時視聴配信ってアリですか?


 年の瀬。というか12月31日。夕飯も年越しそばもきっちりと食べた俺は家族が年末特番を見ているリビングから撤収し、自室のパソコンの前に座ってパソコンのスリープモードを解除する。

 時間は22時半。ちなみに配信は22時50分からの予定だ。今日の配信は同時視聴、@ふぉーむ様の年末年始の恒例企画、「年末→お正月あけおめライブ」を同時視聴する予定だ。年に一回のお祭り、どうせなら盛り上がれる人と盛り上がりたい、そんな気持ちで取った枠だった。

 今日は、うぃんたそやセイラが12月中ずっとしていたレッスンの集大成のお披露目だ。いや、2人とも1月に誕生日も控えているからそっちのレッスンなんかもあったのだろうが……。だけど、2人にとっても俺にとっても大きなイベントであることは間違いなかった。ちなみにこのイベント、リアルタイムというかガチライブである。凄い。

 そんなことを考えながらカチカチと配信準備を進めていく。わかVを立ち上げて、秋城の3Dモデルの動作をちょろっと確認して。配信画面を整えたら、「年末→お正月あけおめライブ」視聴用のウィンドウを立ち上げて。

 そうして、迎える22時50分。俺は配信開始ボタンをぽちり、と押すのであった。




「こんしろ~2039年最後の生放送はっじまるよー、ゆっくりしていってね」


『こんしろ~』

『こんしろ』

『ついに年末のビッグイベントが始まるな』

『うぃんたそは何月担当か聞いてる?』


「聞いてないな。このライブについてのネタバレはなんも。守秘義務ちゃんとしててうぃんたそもセイラも偉いよな~」


 これはマジ。一言も聞いてない。というか、普通に言っちゃダメなんだろう。常識的に考えて。


「えーということで。今日は@ふぉーむさんの年末恒例、年末→お正月あけおめライブを同時視聴していくぞ~。ちなみにお前らの中にいないとは思うが今日が年末ライブ初視聴なやつ~」


『流石にいないだろうw』

『流石に~』

『ノ』

『お、少しいるな……?』


「お、いるな。じゃあ、ここで説明だ。この年末→お正月あけおめライブは23時から24時までの1時間をその年一際輝いた11人の@ふぉーむのVTuberが順繰りにその年を振り返っていくライブだ。ちなみに持ち時間は一人10分、大体1曲歌って5分トークみたいな感じだな。今年の11人は@ふぉーむの公式ゆったーかUtubeの@ふぉーむ公式チャンネルで確認できるぞ~。んで、11人が終わったら@ふぉーむ全体曲だ。全体曲だから当然全員で歌う」


 ちなみに。うぃんたそやセイラ、月城兄妹が出演することは確認済みである。月城兄妹は2人で1枠なので、厳密に言うと11人じゃないのだがそこはツッコんではいけない。


『当然のようにいるうぃんたそとセイラ』

『@ふぉーむの稼ぎ頭だもんな』

『カリア様もいらっしゃる!』

『やべえ、ライブ始まる前にトイレ』


「トイレは書き込んでないでさっさといってこーい。始まったら離れる隙なんてないからな。ちなみにお前らうぃんたそ何月予想?」


『え~新曲出した6月?』

『誕生日の1月だろ』

『セイラも1月だしぶつけてくるか?』

『秋城の予想は?』


「俺の予想……1月の誕生日ライブもよかったけど、コメントである通りセイラともぶつかるしなあ……俺は6月よりだな。やっぱいいよ、ウィング。俺未だに無限にリピートしてるわ」


『セイラの曲も聞け』

『カリア様の曲も聞け』

『5月に出たうぃんたそのアルバムも聞け』

『秋城オリ曲マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン』


「カードゲーム系VTuberがオリ曲出してどうすんだ、って言ってたらそろそろ始まるな」


 時間は23時ぴったり。年末→お正月あけおめライブのオープニング映像が流れ始めた。今年一年を振り返る映像の数々に俺はついつい腕を組んでうんうん、と唸ってしまう。1月のうぃんたその誕生日ライブよかったなあ、とか。2月のバレンタインASMR配信もよかったし、4月の@ふぉーむ新規生ウェルカムライブもよかった。うぃんたそのよかった点は無限に上がる。


「いやあ……今年もありがとう、@ふぉーむ様」


『秋城が後方彼氏面になっとるwwwww』

『お前は@ふぉーむのなんなんだwwww』

『まあ、7月あたりからお世話になりっぱなしだよな』

『もう様なしでは呼べない』


「さて、此処からはライブを見る都合上少し静かになるかもしれないが……まあ、俺の放送単独で見てるやつは今はいないだろ」


 と言っていると、オープニングの映像が終わり舞台が暗転する。さあ、最初のひと月、1月を担当するのは———。


「跪きなさい。豚ども!」

「おおおおお!リアさん——————ッ!」


 ということは。


「おはよう、こんばんは、いらっしゃい。僕の館へようこそ」

「アールさんだああああああああッ!」


『秋城煩い』

『く、予想が外れた』

『1月が月城兄妹だと……⁉』 

『最初からフルスロットルだな!』


 そうして、リアさんとアールさんのオリジナル楽曲「真夜中狂騒曲」が始まる。ポップでハイテンポな歌の中に2人の掛け合いが入って、まさに客席を掴むのにはうってつけの曲だ。


「く、小物でサイリウムを用意できなかったのが悔やまれる……!」


『まあ、ノルンなしじゃ用意してもどうにもならないので』 

『ノルン直してから来年挑もう』

『俺は画面前で振ってるやで』 

『サイリウム振るのた~~~のし~~~~‼』


 くう、マジで悔しい。これはマジで来年リベンジだ。ま、まあ、ライブを楽しむことはサイリウムなくてもできますし???俺は画面を見つめながら、この間の配信を思い返す。

 まさかのバトマス新規ユーザーだったアールさんと無茶苦茶意気投合して、一緒にオフで遊ぶ約束まで取り付けて、まさかのアールさん蛮族疑惑(いや、俺が振ってしまったのだが)で。そこに降ってきたリアさんからの鬼電。そこからリアさんとも会話をして……。ちなみにあれからアールさんとはそこそこ連絡を取っている。まあ、大体はUtubeに日々上がっている新規デッキ紹介の動画のURLがアールさんから送られてきて、それの私見を俺が言うみたいな形なのだが。でも、本当にバトマスをちゃんとやろうとしているのが分かって、本当に知り合えてよかった、という気持ちが強い。……半面、このライブに出ているということはうぃんたそやセイラと同じぐらい忙しかったわけで……ちょっと心配にならないと言ったら嘘になる感じであった。ちなみにリアさんとの惚気もたまに送られてくる。表には出せないから、だそうだ。く、羨ましい。

 そんなこんなで月城兄妹の歌が終わりトークに入っていく。


「さて、今年の1月を振り返っていこうか……1月と言えばやっぱり新春ダウト王決定戦かな?」

「そうね。あとはやっぱり、うぃんやセイラの誕生日ライブかしら?1月はイベントが多すぎて大変ね」

「はは、賑やかでいいじゃないか。カリアはうぃんちゃんのライブにお呼ばれしてどうだった?」

「……悪くないわ。普段自分のライブでは着ないような衣装で、他のメンバーと交流して……ええ、悪くなかったわ」


 こういう時素直に楽しかった、と言わない辺りが意地らしい。か~わいい~と頬がついつい緩んでしまう。


『秋城がにやけてる』

『秋城ニヤけカウンター入ります』 

『秋城 001』

『カリアたそに乗り換えか?』 


「乗り換えはしないが。こう、普段デレのデの字もない女の子から出る、デレの欠片はついついにやけちまうだろ?無茶苦茶いいだろ?ということでこれは乗り換えではなく、真っ当な反応だ」


 それに俺がカリ豚にでもなろうものならアールさんとの友情に亀裂が入りかねない気がする。いや、そんな余裕のない人ではないと思うのだが……不和の種は蒔かないに限る。そうして、アールさんが話題を広げようとしたところで、リアさんストップ。あくまで、2人は1月担当だから、とのことだ。


「豚たち、……一度しか言わないからよく聞きなさい。本年はお世話になったわね、まあ、その気があるなら来年も私と兄様の配信を見なさい」

「素直じゃないんだから、カリアは。ということで、来年もよろしくお願いします。じゃあ、次のイルちゃんへバトンを渡そうか」


 そうして、リアさんとアールさんが2人でお洒落なレイピアのようなモノを握り、1本目の蝋燭に火をともす。おお、お洒落だ。そうして、炎にズームアップが入り、ズームアウトしていけば———。


「春の一陣の風!ふわりと降り立つ、@ふぉーむ所属2期生!春風イル!」


 2月担当、イルたその挨拶が始まった。




 そんなこんなで。ライブも半分が終わり、今、6月の振り返りが終わろうとしている。1月を外したのならうぃんたそは6月だと思っていたが……うぃんたそが来ないことに俺は軽く動揺していた。


『秋城の落ち着きがなくなってきたな』

『此処までうぃんたそ来てないしな』

『セイラも来てない』

『まさかトラブル?』


「ま、ままま、まさかあ……なんかあったら流石に@ふぉーむ様からお知らせが入るだろ」


 コメントの指摘に俺は動揺しつつも、自分の言葉に自分で納得して頷く。そうそう、なにかあったら@ふぉーむ様が動かないはずがない。でも、これ以上うぃんたその思い入れの深い月……?俺は首を傾げるしかなかった。

 そうして、蠟燭の炎にズームが入り、ズームアウトしていけば———。



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