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第29章 即死系デストラップってアリですか?④

「うぃんたそ~~~~今0番って聞いたけどマジ~~~~?」


 比較的セイラを煽るときぐらいのテンションで。でも若干緊張はぬぐえない。推しを煽るの心苦しい。


「……」

「……」

「うぃんたそ?」


 あまりにもな沈黙に耐えかねて俺が呼びかければ———。


「ぶわああああああああっ」

「うぃんたそ⁉」


 唐突なうぃんたその叫び声。どうした、どうした。


「うわあああああ……あ、秋城さぁん……秋城さん詳細聞いてる?」

「……即死トラップを踏んだ、ということは」

「そう!それがね!すごい理不尽だったの!」

「お、おう」


 そんなうぃんたそが取り乱すほどの理不尽トラップだったのか。俺は煽るのを一旦辞めて聞くことに徹することにした。


「商店街のね、床屋さんの前を通り過ぎようとしたあたりだったかな」


 床屋、そのワードに頭をよぎるさっきの血まみれの手跡。でも、あれは即死ってほど即死ではなかった気がする。


「突如、ゴゴゴゴ……って地鳴りがしてね」

「地鳴り?」

「地鳴り。そしたらね、突然カメラが切り替わって」

「カメラが切り替わる?」


 突如降ってきた謎ワードに俺は混乱をしながら言葉を反芻する。そんなん聞いたことねえ。


「空からこの商店街を見た映像が入って、商店街がドラゴンに踏みつぶされたの」


 ……ホワット?


「で、画面が暗転して0番に戻されたんだあ……うぃんたそ思う、これが理不尽なんだって……」


 うんうん。


「待て待て待て、待ってくれ。うぃんたそ別ゲーやってない?」

「やってないよ!ね、お前らのみんな!」


『アレはマジで唐突だった』

『ちゃんと同じゲームだよ、秋城』

『れっきとした異変です』

『コツは地鳴りがした時点、カメラが切り替わる前に全力ダッシュすること』


 同じゲームなのかあ。マジかあ。思わず眉間に皺が寄ってしまい、秋城も難しい顔をする。


「同じ轍を踏まないように気を付けるわ……?」

「……できれば秋城さんにもあの理不尽を味わってほしい」

「それはゲームの気分次第だなあ」


 残念ながら異変の出現はランダムなので。不機嫌そうなうぃんたその声に本当に理不尽を感じたのだと思うと同時に、滅多に見れない激レアうぃんたそに萌えを感じている俺も居て。


「もう、秋城さんがあの理不尽を目の当たりにするまでの耐久配信にしようよぉ……」

「お、趣旨がどっかいくやつ。でもそれだとサムネイル作成してもらう券が手に入らなくなるぞ?」

「も~この理不尽を共有できるならなんでもいいよ~」


 あーあー、余程これは心にキてますね。多分、下手なホラー耐性がある分、奇天烈なものに理不尽に、プレイヤースキルの関係ないところで殺された事実が心にキてるんだろうなあ。うーん、可愛い。


「じゃあ、とりあえず並走勝負の結果つけてそれ以降耐久配信にするか」

「え、ほんとにやってくれるの?」

「うぃんたそが言ってるの聞いてちょっと気になったからな。まあ、明日予定ない……は俺の都合だな。なんだったら、勝負ついたらうぃんたそだけ切り上げて、あとでアーカイブで俺が理不尽な目に合ってるの見るか?」


 俺の問いかけに、ぶんぶん、と首を振るうぃんたそ。


「うぃんたそ!明日はおやすみだから付き合えるよ~へへ、じゃあ、秋城さんもあの理不尽味わってね!」

「おー、じゃあ、並走の続きやるか」

「らじゃっ!じゃあまた後で~」


『すげえ、うぃんたそのメンタル立て直した』

『マジか。最後まで見切れるかな、時間的に』

『↑最悪アーカイブ見れば』 

『これが推しパワー』


「カフェイン飲料飲むぞ~」


 そう宣言してから俺はカフェイン飲料をごくり、と一口飲む。


「あ、明日予定のあるお前らだったりはちゃんと寝ろよ~この配信はちゃんとアーカイブ残るし、面白いところは切り抜き師さんが切り抜いてくれるだろうしな」


『秋城の気遣い……』 

『トゥンク』 

『俺達までオとそうという魂胆か?』

『男はちょっと……』


「ちげーわ。……いや、気遣いではあるが。うぃんたそもお前らも無理駄目絶対。じゃあ、続きやっていくぞ~」


 そうして、俺はポーズ画面を解除してゲームの続きをプレイしていく。




「おし、ついにラストだ!」


 あれからいくつかの異変を乗り越え。5と書かれた立て看板の横に立つ。天井異変なし、肉屋異変なし、八百屋異変なし。


「よし、よし」


 1個1個指差し確認していく。これは、勝てる、勝てるぞ。うぃんたそと鍋だ~そんな心持ちで商店街を気分よく歩いていく。そして、商店街の中腹辺りまで来た頃。

 ゴゴゴゴゴゴゴ……。


「お?」


『これは』

『さっきうぃんたそが死んだ奴!』

『戻れ戻れ!』

『うぃんたそとの鍋のために!』


「うぃんたそとの鍋のために!」


 低く唸るような地響き。俺は戸惑うことなく来た道を戻る。ダッシュをしているはずなのに遅く感じて。ゲームの走る速さの上限をもどかしく感じて。


「この走りにはッ、うぃんたそとの鍋がかかってるんだァッ———!」


『まあ、勝たなくても行ってくれる気がするが』

『それはそれとして勝ちたいよな』

『早く!うぃんたそも5まで来てる!』

『どっちが勝つか熱いレースだな』


 そうして、商店街の入り口に立った瞬間、画面が切り替わる暗転。


「間に合ったのか⁉」


『間に合ったか⁉』 

『フラグ過ぎるwwwwwwwww』

『それ間に合ってない奴wwwww』

『これは……』


 ごくり。唾を飲み込めば画面が映し出したのは———よく晴れた青空。


『あーこれは……』

『負けた、か』

『どんまい、秋城』

『胸貸すか?』


 どしん、どしん、という音と共に揺れる画面。そして、某映画配給会社の黒い大怪獣に似た、ギリギリドラゴンとも言い張れるようなドラゴンが映り———商店街を踏みつぶす映像。


「ああ……ああ……」


 画面は暗転、そして再度画面が明るくなれば、俺は商店街の入り口に立っていた。もちろん、隣の立て看板は0を示していて。そして、そんな絶望と同時に。


「あっきしろさーんッ!うぃんたそゴールしたよ~うぃんたその勝ちぃ~!」


 そんなうぃんたその声が右から左に流れていく。打ちひしがれて数秒。


「あ、秋城さん?」


 今度は心配そうなうぃんたその声。そして、俺は———。


「ぶわあああああああああッ!」

「秋城さん⁉」


 数十分前のうぃんたそと同じような叫び声をあげるのだった。


「わあああ、うわああああああああああッ」

「え、え、秋城さん⁉お前らのみんなこれなにがあったの⁉」


 混乱気味のうぃんたそ。


『うぃんたそと同じ目にあったんやで』

『耐久する間もなくトラップ踏んだ』

『しかも、あと1歩で脱出できていたところを……』 

『悲しいことに』


「え、あー……あれ踏んじゃったの?え、しかも、あと1歩で脱出できてたの?」


『できてた』

『マジであと1歩』

『ちなみにそれでクリアだった』

『カメラの切り替わりが1秒遅ければ勝ってた』


「わー……それはご愁傷様だあ……」


 うぃんたその声の背後で、俺の叫び声が枯れていく。もうすぐで脱出できたというのに、勝てると思ったのに。


「うぃんたそと鍋だったんだよぉおおおお!」

「わあ、秋城さん全力の叫び……秋城さん現実に戻っておいで~」

「戻れねえよ……本当に、あと1歩でうぃんたそと鍋だったんだ……」


 悔しくて現実という名のゲーム画面を直視できずに俺は椅子の上で放心する。


『あちゃー、これは』

『完全に呆けてますね』

『ショックがでかすぎたな』

『うぃんたそ、秋城慰めてあげて?』


「慰めか~うーん。ねえ、秋城さん」


 優しい声が俺のことを呼ぶ。その声が俺の名前を呼ぶだけで、俺の気分はちょっと上向いて。うわ、俺チョロなんて思っていればうぃんたそが続きの言葉を紡ぐ。


「……うぃんたそも赤鍋さん気になってるんだよね~誰か誘ってくれないかなぁ。秋城さんとか」


 分かりやすい釣り餌。でも、それはうぃんたそが精一杯用意してくれた俺が機嫌を直す口実。その言葉が例えこの放送限りのものでもうぃんたそが俺を慰めようとしてくれている事実が嬉しくて。俺は、推しに慰められてる事実に嬉しさと恥ずかしさ6:4ぐらいの微妙な表情を浮かべながら口を開くのだった。


「え、うぃんたそも気になってるん?んじゃあ」


 そこまで喋って、一瞬。脳内で思い浮かぶこの間の秋葉原デート。も、もしかしてこのお鍋もデートになるのか。そんな一瞬の考えが俺を緊張させ———。


「俺と一緒に赤鍋いこうじぇ!」


『wwwwwwwwwwwwwww』

『またいいところ噛んだなwwwwww』

『いこうじぇ!』

『じぇじぇじぇ!』


 はっはっはっ。


「コロセ……俺をいっそ殺してくれ……」


 両手で顔を覆って呻くようにつぶやく。本当にかっこつけられない、本当にかっこつかない。ここはさあ!もっとさあ!


「殺さないよ~?」


 なんかうぃんたそ凄い上機嫌だな。掌の隙間からちら、と配信画面の方を見れば嬉しそうに体を揺らすうぃんたそが目に入る。


「殺しちゃったらうぃんたそと赤鍋さん行けなくなっちゃうからね!いや、死んでもうぃんたそとは天界で一緒に居られるんだけど……赤鍋さん天界支店はないからね~」


 嬉しそうに口元を隠したり、揺れたり、凄いそわそわしてるな。うーん、可愛い。俺はそんな可愛いうぃんたそを見て、噛んだことをいつまでくよくよしてるのも馬鹿らしさを感じてきて。


「へえ、天界には赤鍋さんないのか」


 ちなみに天界とはうぃんたその幼少期を過ごした場所のことを指す、具体的に示すなら群馬県。


「ないよー。人間界にお引越ししてきて初めて存在を知ったかなあ?最初は辛い鍋って聞いてうぃんたそには無理だよお、って思ってたけど……食べれば食べるほどハマったよね」


 ちなみに人間界は今住んでいる地域のことである。信者の間では恐らく東京都のことを指していると予想されている。


「分かる。最初は辛さがちょっとつらいんだが、その奥に鍋の旨味があって……なかなかハマるんだよな」


 うんうん。2人で頷きあったところでそういえば、と切り出す。


「いやあ、しかし、僅差でうぃんたそに負けたな~」

「あー、あのデストラップは仕方ないよね。ほぼ逃げられないもん。でも、うぃんたそが発狂した理由、分かったでしょ?」

「分かった。俺はそこにあと1歩だったという現実が加わってもう、二重に発狂したわ」


『秋城、全力の叫び声だったもんな』

『ガチ発狂』

『暴言が出ても致し方なしと思ったよ』

『端々に秋城の育ちの良さがでるよな~』


「育ちの良さて。言っても普通の中流家庭だよ。暴言はほら、言ってる方も聞いている方も得しないだろ?」


『でも、秋城のガチ暴言、ちょっと聞いてみたい』

『秋城にっ、ストレス、お小言ちょいと詰めて♪』

『若干達観している人間から出る暴言で得られる栄養がある』

『ちょっと暴言吐いてみない?』


「え、えー……」


 そんなに俺の暴言に希少性ある?可愛い女の子ならまだしも、ガチ成人男性の暴言だぞ?


「うぃんたそ、俺の暴言ってどう思う?」

「うーん、秋城さん推しの観点で見れば新しい一面にときめかなくはないんだけど、お前ら視点で見ると新しい音MADの玩具かなあ」

「デスヨネー。まあ、暴言はそのうち。きっとゲーム中にとんでもないストレスが溜まったときにきっと出るだろ、きっと」


『あ、逃げた』

『逃げるな‼卑怯者‼』

『きっとが多すぎるwwwwwww』

『新しい素材を寄越せェ!』


「素材て。俺は狩猟ゲームのモンスターじゃねーんだぞー。さて、そんなこんなで当初予定してた配信終了時間だな」


 これ以上暴言を要求されたら本当に暴言を吐かなきゃいけなってしまう気配を察知して俺は時計を見て話題を逸らす。


「改めて、ゲーム6番街、並走。うぃんたその勝利ということで拍手っ」


『88888888888888888888888888』

『おめでとう、うぃんたそ!』

『秋城に大量のサムネ作らせような!』

『シャカパチシャカパチ』


「いぇーいっ、一回心折れかけたけど何とか勝てたよ~!」

「いやあ、うぃんたそマジでおめでとう。ちなみに、俺は何枚のサムネイルを作らされるのですか……?」


 震えた声で俺が問いかければ、うぃんたそはふっふっふっ、と不敵に笑いだすのであった。


「うぃんたその本望としては今月中ずっと手伝って欲しいんだけど、それは鬼畜が過ぎるから3枚だけ……火急に作らなきゃいけなくなった時に3枚だけお願いしていいかな……?」


 うぃんたそが目を逸らしながら右手の指を3本たてる。これ、サムネイルをお願いされたときマジで緊急のやつだな。


「それぐらいなら全然問題なし。むしろ、俺の作ったサムネイルをうぃんたそが使うって冷静に考えて楽しみすぎるな?」

「あは、そうだねえ。推しに自分の作ったものを使ってもらえるって冷静に考えると確かに嬉しいよね。あれ、もしかして、罰ゲームになってない?」

「それ言ったらそもそも俺の、鍋行きてーも罰ゲームか謎だしな。結局、どっちを選んでも2人とも得してるんだよな」


『てえてえを見せつけやがって』

『秋うぃんがじゃれているだけだったか』

『×ガチンコ並走 〇イチャイチャ並走』

『いや、ほんとにてえてえ』


 コメント欄がてえてえの文字で溢れる。いや、一部のコメントには殺意が込められているのだが。


「さてさて。じゃあ、そろそろ終わりかな?」

「ああ、そうだな。じゃあ、最後はいつもの挨拶で閉めるぞ~、うぃんたそフリやる?」

「やる!じゃあ、せーのっ」

「「おつしろ~~~~~!」」


『おつしろ~~~』

『おつうぃん~~~』

『おつしろ』

『新年早々てえてえが凄まじかった』



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