目次
ブックマーク
応援する
10
コメント
シェア
通報

第86話 初めての…⑥〜side陽向〜

「っはぁ、はっ、ひな、た……はぁっ、」

顔中を熱い熱がちゅっ、ちゅっ、と音を立てながら動き回る。

「っあ、あきとっ、さ……」

口を開けた瞬間、ぬるりと熱いものが、入り込んできた。

な、なに、なになに!?


それが秋斗さんの舌だとわかったのは、

その熱いものに散々口の中を掻き回された後で、ペロリと唇を舐められた時だった。


「ごめ、とまんな……い」

「っふうっ……!」

再び熱い秋斗さんの舌が俺の舌を絡めとるようにして、ぬるぬると動き回る。

息もどうしたらいいのかわからない。

このまま、溺れそう

つぅっと、俺のか、秋斗さんのかわからないものが

口から溢れてあごを伝っていく。


ずくっとお腹の下や腰のあたりが熱を持ち始めたのが嫌というほどわかってしまう。

男の身体はこんな時、すごく困る。

スキニーの前が熱過ぎて、キツくて、でもそんな事、気がつかれたくなくて、必死に腰を引いて、膝をもぞもぞと擦り合わせる。


キスされて、反応しちゃうなんて……

ど、どうしよう!

恥ずかしすぎる……

どうか秋斗さんに気がつかれませんように……!


そんな俺のことなど、お見通しというかのように

俺の膨らんでしまったズボンの前にぐいっと、秋斗さんの太ももが押しつけられてしまう。

「っやぁっ……」

恥ずかしさが限界になって、痺れる手になんとか力を込めて、秋斗さんの身体をぐっと押す。


はぁ、はあっ、はぁ、はぁっ、

暗闇でも目が慣れてきて、秋斗さんの表情がうっすらと見えるようになっていた。

その眼差しは、テレビで見た事があった。

草原で獲物を見つけた時の、チーターとか、ライオンのぎらぎらとした目だ。

俺……食べられ、ちゃう……。


いつの間にか脱がされてしまっていたコートとマフラーが足元でぐちゃっと力なく広がっていた。


「はぁ、あ、あきとっ、さ、ん、」

この人に、抱かれ、たい。


今度は甘く噛みつかれるように、唇を食べられた後、

その唇は、俺の耳たぶ、首筋にちりっ、ちりっと歯を立てていく。


この人と繋がりたい。


男なのに、男の人にこんな風に思う俺は、

やっぱりおかしいのかもしれない。

だけど、

だけど……、この人が、好きすぎる。

この人の全てが、欲しすぎる。


服を捲り上げられ、自分では意識したこともない小さな二つの飾りをちゅっちゅっと、交互に吸われる。

普段なら見えることのない、秋斗さんの頭のてっぺんのあたりの髪の毛に指を差し込む。

ずくんと腰が重くなって、足が震え、力が全く入っていない。


「ひなた、ひな……はぁ、はぁっ、……いい?」

「……っあ、ん……あ、きと、さ、んっ」


全身がカクカクしてしまい、力が入らない。

口も思うように動いてくれない。

だけど、したい、したい。もっと……


それが伝わるように、秋斗さんにぎゅっとしがみつく。


ガタ、ガタッ

もつれあう足同士で邪魔な靴を脱ぎ捨てる。


狭い廊下を唇を合わせたまま移動する。

移動するといっても、俺の足はもう、全くいうことなんて聞いてくれず、秋斗さんに腰を支えられて、引きずられているような状態だ。


ボスっ……

自分の布団の匂いに少し気持ちが落ち着く。

ここで、ここで、するんだ。

俺の部屋…で。


秋斗さんの大きな手が俺の身体を隅々まで、優しく撫でていく。

俺も、触りたい。

秋斗さんのパーカーの裾からそっと手を差し入れて、俺のぷにッとしたお腹とは違う、弾力のある筋肉をそっと指でなぞる。

「っく……陽向……陽向……」

秋斗さんの手がついに、俺の窮屈すぎる場所に辿り着いてしまった。

ば、ばれちゃった、よね?

「……かわいい、ひなた……」

「や、だ……」

恥ずかしくて、両手で顔を覆った。


ジジ……

ゆっくりとスキニーのチャックを降ろされている。

やだ、見られちゃう……

触られ……ちゃう?


やっと、窮屈なところから熱が解放されて、熱すぎたそこが部屋の冷たい空気にさらされて、ぴりっと震えた。


ドキドキ……なんて可愛い音じゃない。

和太鼓でも身体の中で叩かれてるみたいな、ドンドンと響くほどすごい心音だ。

秋斗さんに聞こえてしまっているだろうか……。


「顔、見せて?」

え……

隠していた両手を剥がされてしまった。

「ひな……好きだ……」

「……!っ、お、おれも、あ、あきと、さ……」

唇が興奮なのか、緊張なのか、嬉しさなのか、よくわからないけれど、震えてしまって、上手く話せない。


ふっ、と優しく秋斗さんが笑い、カッコ良すぎる顔が近づいてきた。

あ、また、キス……してくれる……


そっと目を閉じて、秋斗さんの唇が触れてくれるのを待った。


「あっ!!!!!!」

突然秋斗さんの大声に、身体がびくんっと跳ねる。

慌てたように身体を起こす秋斗さんにつられて、

俺もぐっと布団から起き上がる。

秋斗さんの目はさっき見た、獲物を捕まえようとする目つきではなくなってしまっていた。


「……ど、どうした、んです、か?」

「はぁ、はぁ、ごめん……陽向……ごめん……」


秋斗さんがギッとベッドに座り直して、俺の脱げかけた服を直してくれた。

え?……おしまい……?

なんで、なんでっ!?

何か、しちゃった!?


くつろげられたスキニーの前面には、ぱふっと布団をかけられた。


「ごめん、マジで。……準備……なんもしてなかった」

「準備……?」


なんの、準備?

クリスマスのこと?

そんなの、いいのに……

俺はわけがわからず、首を傾げる。

秋斗さんが頭を抱えながら、はぁーーーっと息を長く吐く。

意味がわからなくて、ベッドサイドに置いてあるリモコンで部屋の電気を点けた。


秋斗さんは俺の足元で、膝に顔を埋めて、頭を手で抱え、小さくなって座り込んでいた。

はぁーー。とすごく落ち込んでいるように見えた。

どうしたんだろ、突然……。


「その……ローションとか、ゴムとか、今日、持ってなくて……陽向も、家に、無い、よな?」

「あっ……」


その準備……。

そうだよ、俺だって、何も準備してなかった。


「ごめん。こんなガツガツしちゃって。余裕なさすぎだな、俺。」

頭を抱えたまま、ずるずるとベッドの下に落ちて行ってしまう秋斗さん。

いつもは俺よりも大きいし、かっこいいし、頼りになる感じなのに、

なんだかその背中は小さくしょぼんとしている……そんな姿が可愛らしく思えてしまう。

ベッドから布団ごと引き連れて、そんな秋斗さんの隣にそっと座る。


「俺、俺、すごい、嬉しかったです。秋斗さんに、き、きす、キスしてもらえて!」

秋斗さんがそっと俺の頭を後ろから抱え込むようにして、ぽんぽん、と撫でてくれた。

「そう言ってもらえて、良かった。……また、次……次、泊まりとか、ウチに来て……とか、……どうかな。その……陽向の都合の良い日とかで……」

「はいっ……俺も、ちゃんと、準備してきますね」

何だか、次のえっちの約束をしている事に、2人で一気に恥ずかしくなってしまった。


合わさっていた目線を同時に外して、ただ隣に座って、お互いの心音が落ち着くまで、特に何も話はしなかったけれど、ただずっとくっついていた。

一緒にいられる、それだけで、胸がぽかぽかとしてあったかくなる。

右側から伝わる秋斗さんの体温が心地よい。

ふわっと、頭の中が白くなってきた。


「ふふ、ひな、眠い?」

「ねむく、ない、れ、す」

一生懸命開けようとするのに、勝手に瞼が降りてきて、視界が半分に狭まる。

規則正しく背中をとんとんとしてもらい、まぶたが完全に閉じてしまった。

「いっぱい待っててくれたもんな。ありがとな、陽向」

「あきと、さん、あえ……て、んー、う……」


ふわっと身体が持ち上がり、ぽふっとふわふわの布団に包まれる。

「玄関とこ、かかってたの、スペアキーだよな?あれで、鍵かけてくな?…………ふっ、完全に、寝た?……可愛すぎだろ、マジで……」

なんだかすごく遠くで秋斗さんの声がした。

ふわっと唇にキスをされる夢を見ながら、

俺の、俺たちのクリスマスは、

綿みたいなふわふわな幸せに包まれて、終わっていった。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?