……寝ちゃった?
左肩がぐっと重くなりそっと隣の可愛い存在を盗み見る。
はち切れそうだった下半身の膨らみは、
やっと少しずつ落ち着き始めた。
やばかった、
陽向から、まさか、キスしてくれるなんて。
そっからは全身の血液が沸騰したように熱くなって、
もう、自分が何をしているのか、わからなかった。
早く、早く抱きたい、挿れたい、気持ちよくなりたい。
あまりに自分勝手で、ほとんど襲っているのと変わらなかったろう。
陽向に、引かれてないだろうか……。
怖がらせて、ないだろうか……。
ローションとゴムに気が付かなかったら
あのままやってしまっていたはずだ。
怖い……自分の自制心のなさすぎに、びっくりした。
伏せられた長いまつ毛にそっと唇を寄せる。
ぐっと体重を預けてきてくれている陽向をそっと抱き抱えてベッドに眠らせた。
ベッドからは陽向の香りがして、理性に悪すぎる。
「玄関とこ、かかってたの、スペアキーだよな?あれで、鍵かけてくな?」
耳元でそっと聞いてみるが返事も、頷きもない。
「ふっ、完全に、寝た?……可愛すぎだろ、マジで……」
緩く少し開いたピンクの唇にそっとキスをする。
気持ちいい。
なんで、唇合わせるだけで、こんなにも気持ちいいんだろ。
なかなか離したくなくて、最後に下唇をはむっと甘噛みしてみた。
それでも陽向はぴくりとも動かない。
サラサラと枕に流れる茶色の細い髪を手に絡めると、
指の間をすり抜けていってしまった。
「陽向。会いにきてくれてありがとうな。……俺に、幸せな気持ちを教えてくれて、ありがとうな。……一生、陽向のこと、守るから。ずっと、ずっと、側にいさせてくれよ?」
面と向かってだったら到底、恥ずかしくて言えない本心を
陽向の左手の甲に唇を這わせながら、伝えた。
でも、いつか、いつかはちゃんと、陽向に伝えよう。
それはきっと、プロポーズになんのか?
プロポーズ……
俺には縁も無い事だと思っていた。
だけど、常に頭にあるのは
陽向との今後のことばかりだ。
一緒に住みたい、一生側にいたい、お互いおっさん、じいさんになっても……
子どもなんていらない。
だけど、陽向が何か動物飼いたいとかいうなら
それを飼って2人で育てるのもいい。
陽向の両親にもきちんと挨拶して……
2人だけの結婚式とかやって、
2人で旅行も行って
もし、陽向が店やりたいなら一緒にやりたい。
俺も必死で料理覚えるし。
それこそあの人に料理の基礎を習おうか……
癪だけど。
陽向……、陽向。
俺は陽向と付き合えてから、
毎日こんなことばっか考えてるんだ。
重いやつって思うかな?
陽向、
陽向も、俺との将来を考えてくれてると良いな。
規則正しい寝息と、気持ちよさそうな陽向の表情を見ていると、瞼も、身体も重くなってくる。
このまま隣で寝てしまおうか……。
いや、シャワーも浴びてないし、
服もない。
帰らなきゃだ。
壁にかかっている、木製の時計を見たら、もうとっくにクリスマスの日は終わっていた。
帰ろう。
「ひな、メリークリスマス」
ちゅっ、と頬に軽く吸い付いてから立ち上がる。
玄関に戻ると、
俺の理性が崩壊して、無意識に脱がせてしまった陽向のコートとマフラーがぐしゃっと広がっていた。
それを拾い上げると、
陽向がいつも持っている白いトートバッグが下敷きになっていた。
やべ。
掛けとくか。
コート、マフラー、トートバッグを軽くはたくと、
カツンッ!!!ピキッ……
カラカラッ……
と何かが転がり落ちてきた。
え……?
何?
やべ、何か落とした?変な音したけど……
陽向のもの、なんか壊した?
靴箱の下に転がっていった物を拾い上げた。
「……!?え?……これ……」
蜘蛛の巣のようにヒビのはいってしまったプラスチックケースに
見覚えがあった。
そう、あの日、あの雨の、陽向と最後だと思ったあの日……
陽向のバッグに忍ばせたものだ。
「陽向……これ、持っててくれたんだ……?」
中身は……?プラスチックケースに入れてあるはずのものがない。
スマホの灯りを点けて靴箱の下を覗き込むと
キラッと光る
俺が以前買ったものが転がり落ちてしまっていた。
「やべ。傷ついてない!?」
それをそっと拾いあげ、手のひらに乗せる。
ピンクゴールドに光るリングのピアスに
薄く擦り跡がついてしまっていた。
「これ……、なんで陽向、コート?バッグ?に入れてたんだ?俺に見せるため?……返すため……とかじゃねーよな?……じゃなきゃ、あんなわざわざ会いにきてくれたり、しない、よな……」
うん、うん、と自分に言い聞かせる。
これ、修理に出せんのか?
もし、もし、大事に取っててくれたなら、こんな傷ついてしまったと知ったら……
陽向はショックを受けるだろう。
そんな陽向は見たく無い。
明日、……いや、明日は無理だ。朝から仕事だ。
次の休み……30日の年末になるか……
その日に買った店に行って、直せるか聞いてみよう。
直せないと言われたら、新しいのを買おう。
蜘蛛の巣状にヒビの入ったケースがこれ以上割れないように気をつけながら、そこに傷ついてしまったピアスをそっとしまった。
陽向。ちゃんと綺麗なやつ、プレゼントするからな。
待っててな。
陽向の眠る部屋にこっそりと戻り、コートラックにベージュのコートとマフラー、トートバッグを引っ掛け、トートバッグに入っていたスマホを陽向の枕元に優しく置く。
また陽向にキスをしたくなる衝動を頭を振って古い落とし玄関へ再び戻った。
猫の置き物に並べてあるスペアキーを手に取り、
陽向がくれた紙袋を大事に腕に抱える。
何が入っているのか……家までの楽しみだ。
「おやすみ、陽向……」
そっと陽向の家のドアを静かに閉めた。