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第88話 大切な…②〜side秋斗〜

「えーと、そうですねぇ、年末年始にかかってきてしまいますので…んー、お渡しは早くて1月4日になりますね」

「4日!?……え……っ、そ、そうですか。いや、はい、あの、じゃあそれで、お願いします。」


そうだよな……年末年始だもんな……。

傷ついてしまったピアスとケースを店員に預けて、修理依頼伝票に必要事項を記入していく。


あわよくば当日OKかな、なんて期待は打ち砕かれた。

今日の夕方は陽向の仕事終わりに会う約束をしている。

あの会いに来てくれたクリスマス以降の陽向だ。

その時に渡して、つけてやりたかったな……。まぁ、でもあと1週間ちょい待てばいいんだもんな。うん。


まだ12時だ。陽向との約束まであと6時間もある。

ピアスショップを後にして、少し服や靴を見たけれど、これといって欲しいものはなかった。 自分のものは目につかないのに、『あ、これ陽向に似合いそう』と自分の趣味とは真逆な白っぽいスニーカーや、もこもことしたアウターばかりが目につく。

あーーー、陽向。早く会いたい。

今日……泊まりにきてくれっかな?陽向。

最後まで……したい。

でも、陽向がOKしてくれるまで、きちんと待たねーと。

この前みたいに暴走して無理矢理しちまうなんてことがないように……。


あー、

そうだ。ゴム買っとかないと。

締まらない顔をぺちっと叩き、

駅前のドラッグストアに向けて足を進めた。








「秋斗さんっ!おひさしぶりですっ!」

やっべ……陽向の周りだけ、なんでこんなキラッキラしてんだ?

あまりに眩しくて、少し眩暈がした。

18時少し過ぎ、あたりはすっかり暗くなり、駅周辺は電気がついて明るくなってはいるが、陽向の周りだけはどの電気よりも明るく見えるから不思議だ。

仕事終わりの陽向が走って柱の所までくる姿に、だらしなく顔がゆるむ。

陽向と目が合うと恥ずかしそうに逸らされてしまった。

ん……なんか、陽向、疲れてる?

目の下にうっすらとクマができていた。

「陽向も仕事お疲れ様。仕事きつかった?なんか、疲れてる?」

「えっ、いや、あの、でもクリスマスイベント終わったので、だいぶ、はい。通常な感じに戻ってます……」

へへっと笑うその顔はどことなく引き攣っていて、やっぱり疲れが滲んでいた。


「ん……そっか、じゃあ、俺ら仕事頑張った祝いに、肉でも食いにいくか?」

「肉っ!?わぁ!!食べたい食べたいです!」

ぴょんっと陽向の頭に、うさぎの耳が生えたように一瞬見えた。あぁ、俺は本格的に病気だ。

まぁ、こんな陽向病ならいくらでもかかってやる。



ジューーー

脂のはじける音、もくもくとあがる肉の香りに、ごくっと喉がなる。

「俺、焼肉なんて、すんごい久しぶりです!自分1人じゃ、なかなか焼肉に行けないし。よーーし、食べるぞぉ」

「ふ、いっぱい食おうぜ。あ、ここらへん、そろそろいいんじゃね?」

トングで良い焼き加減になった肉を陽向のタレ皿へと移す。

陽向の前には、顔には一切似合わない、丼に山盛りになったご飯がどーーんと置かれている。

あれ、全部食えんのか?

あの細い身体のどこに入るんだ?


「んんんんっっ!!!うっうまぁーい!やっわらかいですー!これ、ご飯何杯でもいけちゃいますっ!」

……!?何杯でも行く気なのか!?

はいっ!と今度は陽向が美味しそうに焼けた肉をどんどん俺のタレ皿へ乗せてくれる。

肉を白米に乗せて、タレを調整してから口へ放り込む。

「っんまっ!」

「ですよねっ!もっとじゃんじゃん焼きましょー!」


正直言うと、ここの焼肉屋は何度も来たことがある。

それこそ高橋さんと来たこともあるし、

1人焼肉しに、月一で来ていたり。


でも、こんなに肉がうまかったことは初めてだ。

20代そこそこの俺たちに出せる肉の値段なんてたかが知れている。安くて、量を食べたい。

だから一番安い肉しかいつも頼まない。

今日だって……。

なのに、とろけるほど美味い肉、タレの味も変わったのか?と思うほど、ご飯が進む。


そうか、きっと、きっとこれは

……陽向が目の前にいて、陽向がうまそうに食べている姿を見ているから?

それしか、思い当たる事がない。

はぁ、……まじで陽向ってすげー。


「ふふふっ!玉ねぎ、こっちのはじっこで焼いちゃおー」

玉ねぎや、ピーマン、とうもろこしは鉄板の外側に綺麗に並べられている。

常に立つ煙で、陽向が霞んでしまうのが勿体無いが、

あまりにも美味い肉を焼く、食べる手が全く止まらなかった。



「っうぁーー!!食ったー!やっべ、腹苦しいわ」

丼飯2杯と肉をもりもりと食べて、ジーンズのウエスト周りがキツくなった。

俺とほぼ変わらないくらい食べたはずの陽向は、苦しそうにはせず、お腹いっぱい!といいながら、撫でているぽこんと膨らんだ胃のあたりすら可愛い。

ちなみに陽向はデザートのバニラアイスもちゃんと食べている。

まじ、すげぇ。


「ふぅー、俺もお腹いっぱいですー!でも、でも、ほんっと美味しかったです!秋斗さん、また美味しいお店連れてきてくれてありがとうございます!」

焼肉屋の店の自動ドアを越えると、陽向が俺の腕に体当たりするようにして、くっついてきてくれた。

うわ、

やべ。そんだけで、ムラっときた。

陽向に触りたい。

あの陶器みたいななめらかな肌に、触れたい。



この後……家に誘ってみても、いいよな?

明日から陽向も仕事休みなわけだし。

陽向も……うん、この前のクリスマスの時の感じだと、次に会う時は……って雰囲気のこと言ってたよな?


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