南口から東口へと駅の中を通りながら向かう。
陽向からもらったクリスマスプレゼントのお礼を話しているつもりだけど、
頭の中は、どうやって陽向を誘って連れて帰ろうしか、考えていなかった。
そんな悶々とした邪な気持ちがバレないようにと、
顔をいつも通り保つのも苦労する。
ふう、陽向が俺の隣でにこにこと笑っている。
良かった。会った時はやっぱり仕事終わりだし、腹も減ってたから、疲れてたように見えただけか?
東口の俺たちにとっての出会いの柱の所へ着いてしまった。
さぁ、勝負だ、これからが!!
「っ、陽向っ!」
「は、はい!……?」
すぐ隣にいるのに、自分でも驚くほど大きな声がでてしまった。もちろん隣の陽向も驚いたような表情だ。
「……っと、これから、……予定なかった……ら、俺ん家……に、どうかなーって、あの、陽向が平気ならでいーんだけどさ、そのー、なんか、話しするだけ、とか。あ、ゲームでもいいし、あの、泊まりとか、明日休みだし、俺たちさ……そのー」
うわぁぁぁぁ、なんだよ!!そのダセー誘い方ー!!!
頭を抱えて倒れそうになるほどのダサさだ。
ちょっと、やり直しさせて欲しい!
はぁ、こういうのスマートに誘えるやつって、どうやってんだろ……。練習とかしてんのかな?
ダサすぎて顔を手で覆っていた指の隙間から、
陽向の様子をそっと盗み見る。
ん……?
なんか、困ってる……?
「あ、あの、えっと、明日……明日から、実家に帰る、って、約束しちゃってて、えと、準備とか、まだ、その……」
「年末年始、帰るんだ?」
知らなかった。
ま、お互いバタバタだったから仕方ないか。
こくこくと頷く陽向は、なんだか目を俺には合わせようとせず、なんだか、そわそわしていていつもと違う。
やっぱり、その……泊まりとか、この間の続きは、まだ
したくないって事か……?
無理矢理したいわけじゃない。
陽向がしたくなった時でいい。
とかいいながら、チャンスさえあれば、いつだって俺は陽向を抱きたい。
人間の三大欲求とはよく言ったもんだ。
あの快感を知ってしまったら、もっと、もっと、と欲しくなってしまう。
でも、最後にあんな酷い抱き方をして、
もしかしたら、恐怖を植え付けてしまったかもしれない。
ゆっくり、ゆっくり、進めていかねーと。
「ん、わかった。無理させたくないし。疲れてるもんな陽向。そんじゃ、家まで送るよ。何日まで実家?」
「あ、あの……、違っ…………、ん……んと、実家は3日まで、です」
陽向の家の方に向けて歩き出す。
立ち止まったままの陽向に向けて手を差し出すと、
困ったような顔をしていたが、繋いでくれた。
「えー、陽向の家族ってどんな?」
「ど、どんなって、……んー、多分ちょっと過保護かなぁ。特に母さんは。一人暮らしする時も、ずっと心配だ心配だ!ってうるさかった。毎日電話してきてたんですよー。やっと最近は電話攻撃なくなったんですけど、定期的に長文で心配メッセージが……」
陽向の家族……きっとほんわかしてんだろうなぁ。
ウチみたいに必要最低限の話しかしない家族とは違う。
って、俺が勝手に親との距離作ったんだけどな。
俺がゲイで、今、男と付き合ってる、なんて知ったら……
どーすんだろ。
まぁ、言う気もないし、知られた所で、反対された所で、陽向との関係をどうにかするつもりもない。
俺だって成人した1人の大人だ。
親にどうこうされるもんじゃない。
でも、やっぱ、
陽向の両親にはいつか挨拶いかないとだよな。
陽向のお母さんの心配性伝説を色々と聞いているうちに、あっという間に陽向のアパートについてしまった。
一番びっくりした伝説は
陽向がバイトするって時に、ちゃんと働けてるのか、周りの人はどんな人なのか心配して、変装して何度も店に食べに来てたって話だ。父親が休みの日は父親まで変装して、何時間も滞在していたらしい。でもメニュー片っ端から頼むという荒技もして、売り上げも上げてくれるから、店長も無下にはできず、いいよいいよー!素敵なご両親ね!って言うもんだから、白目だったんですー!っと説明する陽向のぷりぷりと膨らんだほっぺが可愛い。
アパートの階段の下、なかなか離すタイミングが見つからない指同士をまたそっと深く絡める。
「……秋斗さん……その、……」
「ん、陽向、じゃあ、次会えんのは……6日の陽向の仕事終わりになる、か?」
「……え、そんなに……!?」
陽向が驚いた表情でスマホを見る。
俺も店自体は6日からオープンだけど4日から掃除、事務作業、シェフ達は仕込みもあるしで、実質4日から出勤だ。
「……ぁ……」
悲しそうな陽向。でもつまり俺と会えなくて悲しいってことでいいんだよな。
それは、嬉しい。
陽向の丸い頬にそっと手を添える。
「陽向、……キス、して、いい?」
「っ!?え、あ、…………はぃ……」
はい、といいながらも俯いて真っ赤になる陽向の顔を自分の方へ向けさせる。
目が合うと、目の当たりが紅くなり、そのまま長いまつ毛が伏せられた。