「陽向、……キス、して、いい?」
「っ!?え、あ、…………はぃ……」
はい、といいながらも俯いて真っ赤になる陽向の顔を自分の方へ向けさせる。
目が合うと、目の当たりが紅くなり、そのまま長いまつ毛が伏せられた。
少し、んっと出た唇が可愛くてたまらない。
その唇にそっと自分の唇を合わせる。
「……ん、」
ふわふわと柔らかい唇を角度を変えながら甘く啄んでいく。
「ん、っ……ふっ、」
角度を変えるタイミングで、陽向の鼻から抜ける甘い声が
ダイレクトに下半身を直撃する。
開けて、と言うようにそっと閉じられた唇の間を舐めると
「んんっ……」
いやいやと首を振りつつ、そっと開かれるそこに、舌を捩じ込んだ。
「んんっ、っふぁ、……っんん」
陽向の口の中を全て舐め回す。舌先同士がぶつかると、恥ずかしそうに逃げていく舌を舌で絡めとる。
俺にしがみついていた腕がふっと力が抜けて、地面にずり落ちそうになる陽向の腰をぐっと抱え上げる。
昂っている熱を、陽向の細い下腹部あたりに押し付ける。
びくっ、と逃げようとする身体をしっかりと自分へと引き寄せた。
バタン!!!ガチャガチャッ
ドアの閉まる音がして、2人で慌てて顔を離した。
「っ、だれか、くる……」
とろんとした瞳で、そんな事を言われたら、余計に止まらなくなりそうな自分の理性を必死にかき集める。
「っ、ん、ごめん、こんなとこで」
俯いたままだけど、ううん、と首を振ってくれる陽向にほっとした。
絡めていた左手をそっと離す。
はぁ……また、暴走しかけた。
カツカツカツ!
軽快なヒールの音が響いて、「あ、うん!今駅むかうとこー!あと15分ちょいだからー」とスマホで誰かと話している若い女が
俺たちのことをちらっとみて、少し頭を下げたあと、駅方面へカツカツ音を立てて向かっていった。
ぽんぽんと陽向の頭を撫でて、少し身体の向きを変える。
「……んじゃ、俺、帰るな。」
「……あ、あのっ!!」
陽向にぐいっと腕を掴まれた。
どうした……?
「あ、あ、あの、コーヒーとか、えっと、少し、飲んで、行きませんか……?」
……?
陽向に、家に誘われてる?
いや、嬉しい、けど、けど……今の感じだと、俺、また暴走しかねないからなぁ。この下半身の状態、やべーし。
「んー、いや、また今度、な。俺、今、これ以上しちゃわないように必死だから……ちゃんと、陽向の気持ちが準備できるまで、家に2人きりになんのはやめとくわ。ははっ、余裕ないんだ。みっともねーけどさ」
「……あの、違くて、その、ご、ごめんなさい……」
陽向が突然頭を下げる。
え?
そんな、謝るほど、まだ無理ってこと?
……はぁ、これはまじでゆっくりゆっくりしてかなきゃなやつだ。
内心めっちゃがっかりしてしまったことを、悟られないように、なんとか陽向を安心させようと思ったら、
接客の時みたいなうさんくさい作り笑顔になってしまった。
頬がひくっと引き攣ってんのがわかる。
「ん、大丈夫。大丈夫。こんなして、一緒にいられるだけで、いいからさ。んじゃ、帰るな。……んー、良いお年をーだな。寒いからさ、風邪ひくなよ?」
引き攣った顔を見られたくなくて顔をそっとポストの方へ向けた。
「……っあ、……えっ……、……は、はい。」
何だか陽向が何か言いたそうな顔でもじもじとしていたが、
これ以上、この話を今する事じゃない事くらいわかる。
雰囲気とか、そんなんも大事だと思うし、
陽向が俺の家に来たい、触られたい、セックスしたい、とか意思表示してくれるまで、俺はなるべく触れないでおこう。
どうしたって、陽向は受ける側だから負担もあるし……俺がガツガツしてみっともない所、これ以上見せないようにしないと。
「んじゃ、またな、メッセージ毎日するから」
「……はい。……送ってくれてありがとうございます……」
腕を掴んでいた陽向の指をむにむに、と撫でる。
そっとその指を外した。
離れがたい、だけど、少しずつ少しずつ進んでいこう。
ぺこっと頭を下げてアパートの階段を昇っていく陽向を見守る。
部屋の前の廊下からひらひらと手を振ってくれた。
その表情は暗くてあまりよく見えなかった。
次は6日かぁ。
なかなか会えないもんだなぁ。
でも、6日にはピアスが修理終わっている。4日の仕事終わりに取りに行って……、んで次に会った時に
陽向に渡そう。
あー、早く渡して、陽向につけてあげたい。
はぁ、結局一人の年越しかぁ。
一人でなにしよ。
永遠とゲーム三昧でもすっか。
陽向と一緒にいられるかも……なーんて勝手に思っちゃってたんだけどなぁ。
ま、家族との時間も大事だろうし。
俺が口を出せることじゃねぇよな。
付き合うって、なんか、難しいなぁ。
付き合った所で相手のこと全部わかるわけじゃないし。
ずっと一緒にいられるわけでもない。
でも、こうやって少し会えるだけでも心があったまる。
そんな不思議な存在。
駅へと向かう俺の正面から冷たい北風が容赦なく吹き付け、鼻の奥がツンとなる。
身体の奥で、まだ少し燻っている熱を
一気に冷やしていった。