「えー、そういったものは届けられていないですね。」
「……そう、ですか。すみません、ありがとう、ございます……」
やっぱり
なかった……。
昨日、コートに入れておいたはずのピアス……。
どこに落としちゃったんだろう。
昨日まで赤や緑、キラキラに輝いてクリスマス一色だった駅は、あっという間に装飾が外され、駅中の店ではすでにお正月飾りが飾られ始めていた。
仕事終わりに、昨日通った道を辿ってみて、
秋斗さんの店の前までこっそりピアスを探しにいった。
田⚪︎駅の案内所にも
最後の望みをかけて行った花⚪︎駅の案内所に行ってみたけれど
ピアスの拾得物は無かった。
どうしよう、どこで、どこで落としちゃったんだろう。
秋斗さんの店で待っている時には、ポケットにあったのを確認したから……
帰り道かな……。
秋斗さんに会えて、浮かれてたから。
落とした事に気が付かなかったんだ。
駅のホームに向かって急いで歩く人の波を逆流しながら東口までやっと辿り着いた。
はぁ……
あんなに大事なもの。
どうしよう。どうしよう。
30日に、会う時に正直に謝ろうかな。
でも、あんな高いもの、無くしちゃうなんて。
秋斗さんからの初めてのプレゼントを
無くしちゃうなんて……。
はぁ。
何度目かわからないため息が、真っ白く辺りに広がった。
分厚い雲が夜の空を覆い、月も星も何も見えなくさせていた。
――――――――
気になって気になってここの所、ずっと眠れなかった。
ついに30日が来てしまった。
秋斗さんに会いたくて仕方ないのに、
ピアスの事が気になりすぎて。
どうしようかな、買い直した方が良いのかな?
でも、それって意味がある?
秋斗さんからもらったものだから、大切だし、嬉しいんだ。
自分で買い直すなんて、逆に失礼だよね。
正直に、謝るしかない。
とりあえず、仕事行かなきゃ。
はぁ、どうしよう。
なんだか、お腹、痛いや。
ガチャ、パタン。――
――――――――――
――ガチャガチャ……パタン。
…………。
……………………。
ばか。
俺の、ばか。
秋斗さんに、言えなかった。
無くしちゃってごめんなさいって。
もっと、一緒にいたかった。
エッチ、したかった。
でも、ピアスが気になりすぎて、
変な事ばっかり言っちゃって。
秋斗さん、呆れちゃっただろうか……。
明日の準備ある、とか言いながら、
コーヒー飲みに寄って下さいって言ったり。
キスも、なんだか、途中だったし……。
秋斗さん、俺がエッチしたくないって勘違いしちゃってないかな。
早く、早く伝えなきゃ……
ちゃんと伝えなきゃ、伝わらないよね。
また、6日まで会えないのに。
あぁ、なんで実家帰るなんて言っちゃったんだろう。
帰らなきゃ、秋斗さんも仕事休みだから、毎日会えてたかもしれないのに。
でも、今から「帰るのやめた。」なんて言ったら
母さんめっちゃ悲しむだろうし、理由言うまで納得しないだろうし、
そしたら秋斗さんと付き合ってる事、言わなきゃだよね。
言っちゃっても良いものなのかな?
まぁ、母さんなら、きっと否定はしないと思うんだけど、
今度は連れてきて!とか言いそうだからなぁ。
秋斗さん困っちゃうよね、きっと。
クローゼットから引っ張りだしてきた大きめのトートバッグに、パジャマと、数日用の服、下着を突っ込む。
あとは、充電器くらい?
ほら、実家に帰るのなんて準備ほとんどいらないのに。
俺、こんな事を言い訳にしてしまって。
秋斗さんに、嫌われたくないのに、こんな嘘つき、嫌われちゃうよね。
はぁ。
もう、何を考えてもマイナス思考になる自分が嫌すぎて
その場に服を脱ぎ捨てて、ベッドに置いておいたパジャマを着ると、もぞもぞと布団へ潜り込んだ。
お風呂は、もう、明日でいいや。はぁ、俺のばか。
じわっと滲んでくる涙が、こぼれ出ないようにギュッと目を瞑る。
人と付き合う、……好きになる、好きになってもらう、気持ちを伝える、伝わるって……難しいなぁ。
「ひなぁーーー!おかえりぃ!!」
「ただいまー、ぐえっ!」
実家の玄関を開けた途端、おそらくだいぶ前からそこで待っていたであろう母さんに思い切り抱きつかれた。
20歳も過ぎて母親に抱きつかれるなんて、恥ずかしすぎる。……まぁ、家の中だし、誰も見てないから、ギリギリセーフか。
「あー、ひなが帰ってきてくれてママ嬉しいー!ゆっくりしていってねっ」
母さんを引き剥がして、少し懐かしい玄関から、リビングまで移動する。
この家で暮らしていたころの定位置のソファに座った。
んー、母さんはちょっとウザいけど、やっぱり落ち着くな、自分の家。
夏に買い替えたらしい、無駄に大きな映画館のスクリーンみたいなテレビ画面では、年末らしく、芸人達が集まってわいわい楽しそうにしている映像が流れている。
ちょっと距離が近過ぎて見にくい……。
ぼーっとテレビを観ていると、
対面キッチンから何やら甘い匂いがふんわり漂ってくる。
ミルクの甘い匂いだ。
「はい、ひなの好きな甘々ミルクティー、飲んで飲んで。……ねぇねぇ、あのさぁ、なーんかひな、綺麗になったんじゃない?これは、もしかして、恋でもしちゃってる系かなっ!?」
「ぶっっ!!!」
母さんが運んできてくれたあたたかいミルクティーを思わず吹き出してしまった。
「あーあー、ちょっと、ひなぁー。はい、布巾。……ってその反応は図星だね!ねっねっ!!どんな子?あー、もうっサプライズで一緒に連れてきてくれたら良かったのにー!!」
「……。」
テーブルに吹き飛ばしてしまったミルクティーを拭き取り、布巾を綺麗に畳みなおす。
どうしよう。……さらっとカミングアウトするチャンス?
これで、引かれたりしたら、このまま帰ればいいよな。
父さんもいない、今がチャンスかも。
いけ、俺!!
テーブルに置いたミルクティーを覗き込みながら、少し震えている唇を開いた。