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第97話 初めてを君に②〜side秋斗〜

陽向の左肩のコートに食い込むデカいトートバッグが目に入った。

右肩に掛けているのはいつもと同じ白いやつだ。


「なにこれ、めっちゃ重そうじゃん。」

と陽向の細い肩に食い込んでいたトートバッグを外す。


げ、結構な重量。こんなんよく持ってたな。

意外と力あんな。陽向。

って、これ、何入ってんだ?

実家からあれこれ何か持たされたのか?


「いくか、電車来そう」


階段を降りた時

丁度ホームに滑り込んできた電車に乗り込む。

よし、ガラガラだ。


どこに座ろうかとキョロキョロとする陽向をベンチシートの一番端に座らせた。

誰にも触れさせたくない。


俺だけが触れていいんだ。

ガラガラに空いていたけれど、陽向を他から守るように隣にぴったりと座った。


左隣からあったかい陽向の体温が伝わってくる。

「ふぅ」と座って電子モニターを見上げる陽向。


横から見る丸い頬が可愛すぎる。

触りたい、触りたい。


「陽向、ちょっと頬、ぷにぷにになった?」

我慢できずに、その柔らかい頬にぷにっと触れた。

やっわらけーー。


どうやら陽向は俺が太ったって言ってると思ってしまったみたいで……ショックを受けさせてしまった。

そうじゃない。そうじゃないんだ。

ただ俺が触れたかっただけだ。

なんで俺って、うまく伝えらんねーんだろうなぁ。


「いや、そうじゃなくて……なんか、血色もよくて、ぷるんとしてて、なんか元気になってて、よかったって思って。てか、前言ったじゃん、太ったって、何だって……その、か……ぃいって」


心の中で可愛いって言ってんのと、

声に出すのとでは全然違う。

くっそ恥ずかしい。


でも、可愛いもんは可愛い。

陽向が目をパチパチして、恥ずかしそうに俺から目を逸らせた。

可愛いって、嫌じゃないよな?

大丈夫だよな?

男に可愛いはだめか?

いや、だって可愛いから仕方ない。それ以外の言葉……

んー?

愛らしい?愛おしい?

……いや、その方が100倍恥ずかしいだろ。


ふう……。

なんだか俺のせいで変な感じになってしまった。


ごめん、の意味も込めて、陽向の右手にそっと自分の手を重ねる。

ピクっと一瞬震えたその手はじわじわと熱を俺に伝えていて、俺の手の平がじわりと汗ばんでくる。

余計に熱が湧き上がってきてしまった。

ふぅ、あちぃ……。

熱くなってしまった顔がバレないように、陽向とは反対側の遠くにある電子モニターを見て、熱を紛らわそうとした。


陽向が俺の隣にいる。

陽向に触れられる。

それが、こんなにも幸せな気持ちにさせてくれる。

ほんと、

陽向ってすげー。




「次、降りるよ」

「はい。……あ、ここ、あれですね、前、ケーキビュッフェ連れていってくれたホテルのある……」


プシューっという音と共に開いた扉から降りる瞬間、陽向の髪の毛から、ふわりと甘い香りがしてきて

もう、我慢の限界だった。


やべー、キスしたい。

てか、もうこのままホテルへ連れて行きたい。

俺、性欲爆発してんのか?ってほど陽向を見るたびに変な熱が湧き上がってきてしてしまう。

なんだこれ。


陽向の質問に答えつつ、気持ちは

どこか、隠れて陽向に触れられる所はないか、必死に探していた。


ありがたいことに、今日は正月なのもあって、人がほとんどいない。

駅で降りた人達も、まっすぐ改札方面へ向かった。

「ごめ、陽向、ちょっとこっち……」

「ん……?」


階段下の柱の横にいくつか並んだ自動販売機。

そこへ陽向の手を引いていく。


ごめん、もう、我慢できない。

触れたい触れたい。


自販機に陽向の背中を押しつける。

「ん??」

どうしたの?というように首を傾げる陽向の白い首筋に思い切り噛みついてしまいたい。


突然押さえつけられて、困ったように身を少し捩る陽向の細い身体をぐっと押さえつけた。


こんな公共の場で。

我慢できないような男だったのか。


でも、

このまま店に行って、また帰って、家に帰るまで何も出来ないなんて、

無理。

一旦陽向補給。そうだ、エロい意味じゃない。

補給だ、補給。



「ごめん、ちょっと、無理……」

陽向の少し尖らせている唇に

そっと自分の唇を合わせる。


ちょっと、ちょっとだけだから。

誰かに見られてもヤバいし。


そっと唇を離すと

陽向の長いまつ毛がふるっと揺れた。

陽向のまんまるな瞳に俺が写っている。

そうだ、

そのまま、俺だけを写していてくれたらいい。


「……え?」

驚いた様子の陽向が、その柔らかい唇を指でなぞった。


「ごめん、ちょっと、可愛すぎて、無理。こんなとこで

 ごめん」


状況がわかったのか、ポッと一気に色づく陽向の頬。


はぁ、やっちゃった。

でも、最高。

キスがこんなに精神安定剤になるなんて、

知らなかった。

なんで、キスという行為をしたがるのか?

なぜ、唇を合わせなきゃいけないのか……。他人の唾液がつくなんて、若干気持ち悪くて、苦手だった。

今までの奴とも、頼まれたからまぁ、セックスには必要なもんなんだと思って、してただけだ。


それが、陽向には……


自分から触れたくて仕方ない。

陽向の唾液すら、全部欲しくなる。

って、俺キモい。こんなん陽向にバレたら、ドン引きされんだろうなぁ。

(さぁ、行こうか……)

と言いかけたとき、陽向がぐっと背伸びして

辺りをキョロキョロし始めた。

ん?そうだよな、こんな所で、男2人が……。不審な事してたらまずいよな。

ごめん、我慢できなくて。


「ねぇ、秋斗さん、もっかい。……あの、……したい……です。近く、誰も、いないから……」

「っ……!!」

頭をガンッと大きな石で殴られたような衝撃だった。

もう一回!?

いいの、いいのか!?


確認する前に、本能の方が先に動いて、陽向の唇を塞いでいた。


舌はだめ、これ以上したら

マジでヤバいから。

うっかりすると、気持ちよさに負けて捻じ込みそうになる舌に力を入れて、

唇だけを何度も何度も陽向に重ねていく。


うわっ、気持ちいい。

でも、もうマジで……ヤバい。

ズボンの中が形を変えそうになり、

理性を必死でかき集めて、陽向の唇から離れることに成功した。

「……っはぁ、まじ、ここまで、もう、これ以上、色々とやばいから……」


ふぅー、と大きく深呼吸して、気持ちを鎮める。

「ん。……俺も……、もっと、……へへ、ちゅーしたく、なっちゃいますね。……へへ、嬉しい……」


なんだ。

なんなんだ、この可愛すぎる生き物は……!

引かれるどころか……

嬉しいって……!?

はぁ、

たまんねぇーよ、マジ。


もう終わりと決めていたのに、どうしても名残惜しくて、

陽向の目元にまた少しちゅっと、口付けた。

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