「っ……んんっ、よし、いくか」
自分のした事が急に恥ずかしくなって、わざとらしく咳払いをした。顔が熱くて、そんな状態で陽向の顔を直視できなくなった。
だから、何だか、うまく会話もできないまま
ふにっと柔らかい陽向の手を握りしめて、アクセサリーショップまで歩いた。
「ここ……」
「あー、うん、覚えてる?この店……前も、あのケーキん時、帰りに寄ったよな……」
良かった、陽向も覚えていてくれたんだ。
ケーキ食べている陽向が周りの景色が霞むほど可愛いかったのを良く覚えている。
でもあの頃は、こんな可愛い陽向の事、好きだって思ってなかったんだよなぁ。もったいねぇ。
いや、でも、これからまた、色んな所へ一緒に行って、
色んな表情の陽向を見てみたい。
春になったら、花見とか?……うん、桜吹雪と陽向とか……それはもう、広告ポスター並みの綺麗さに違いない。
……やべ、ぜってーいこう。決まり。
ひらひら舞う花びらの中でふわっと笑う陽向を思い浮かべながら、アクセサリーの飾られた棚やガラスケースの間を2人で通り抜ける。
俺がペアで買ったリングピアスコーナーだ。
以前の大々的な展示はされていないものの、おすすめのポップと一緒に並んでいた。
すでに陽向と同じピンクゴールドは売り切れになっている。
よかった。あん時買っておいて。
陽向はまぁシルバーならいけるかもだけど、ゴールド…ましてやブラックなんて雰囲気じゃないもんな。
あぁ、ピンクゴールドのピアス、桜との相性もばっちりだ。
夏は……海?プール?バーベキュー……?ひまわり畑……?あ、花火?
夏はなぁ、薄着になるから、俺得ではあるけれど
他の奴に見られるのは耐えらんねぇなぁ。
うーん、上裸の水着なんてぜってぇー禁止だ。ラッシュは絶対着させよ。
レジの近くに行き、繋いでいた手をそっと外す。
ピアスはサプライズで渡したい。
「ちょっと、レジんとこ行ってくるから、陽向はここら辺でうろうろしてて」
「あ、はい。」
以前とは違った若い男の店員がレジの所でリングを柔らかそうな布で磨いていた。
「あの、すみません。先程電話もらった、倉橋です。修理頼んでたピアスができたって……」
「あぁ、そういえば……。ちょっと待ってて下さいね、確認してきまーす」
ジャラジャラッと手首に沢山つけているシルバーのブレスレットを鳴らして、カーテンで区切られている奥の部屋へと消えていった。
「あーーと、くら、はしさんですよね?ありましたありましたっ!このピンクのピアスでお間違いないですかねっ!?」
男が大きな声を出しながら戻ってきたので
陽向にバレないかと慌てて後ろを振り返った。
……ほっ、良かった。陽向は何やら難しい顔をして、アクセサリーとにらめっこしてる。
店員がピアスが綺麗になっているかを俺に確認した後、また青い包装紙に綺麗にラッピングしてくれた。
……わざわざ、有難い。
ってか、自分用って思われてないってことだよな。まぁ、それをバレてんのも恥ずかしいっちゃ恥ずかしいけど……。
購入から1年間は修理代無料なのだが、
今回の傷は自分の過失になってしまうらしく……
修理代の半額分は支払いと年末に聞いていた。
財布を出して待っていると
「はいっ、おまたせしましたっ。これ……ペアで購入してもらってたんで、店長が修理代はいらないって言ってました!」
「……え、いいんですか?」
「はいっ!ペアの片方が壊れたら、相手の子はめっちゃ悲しんでるはずだから。ペア系のはあまりに酷くなきゃ無料って。……ピッカピカなの渡して相手の子、喜ばせてあげて下さいねっ!」
フレンドリーというのか、今風というのか、ゆるーい感じで説明された。
でも、店の心遣いは嬉しい。
「はい、こちら商品と、修理明細のお客さん控えでーす。」
「ありがとうございます」
紙袋とペラペラした明細書を渡される。
明細書を半分に折りたたみ、ショルダーバッグの外ポケットへと突っ込んでいると、
店員が小さな声で話しかけてきた、
「あの、うち、メンズ同士のペアリングも揃えてんで。また、良かったら、選びに来て下さいねっ」
「……っ!…………メンズ同士って、その、ペアリング、しても、いいもん、なんすか、ね?」
男同士って、バレてる……。ってか、焦って背中にじわっと汗が滲んだ。焦ったあまり、意味不明な質問をしていた。
「もっちろんです!結構いらっしゃいますよー、同性カップルの方。っていう俺も彼氏とコレ、オソロっすから」
そういいながら左手の薬指に嵌められている、少しひねりの入ったシルバーリングを嬉しそうにひらひらと見せてきた。 ひねりの所々では石が光っている。
……この人も、そう、なんだ。
何だろ。今までは世の中にゲイなんて一部しかいない異端的な存在だと思ってたけど。
こんな身近にもいるんだ。
ゲイである自分が、まるで欠陥品みたいに思って生きてきたけれど、
でも、それで陽向に出会えた。
陽向に会えた事で、マジで自分の世界が一気に広がった。
俺は、存在していていいんだって、今なら思える。
なんだか胸の奥がひりひりして、目がじゅわっと熱くなる。
「……、ありがとう、ございます。その時には、また、選びに、きます。ありがとうございます」
何だか勝手に声が震えた。
だから慌てて頭を軽く下げて身体の向きを変え、
陽向のそばへ駆け寄った。
相変わらず難しい顔で、ネックレスコーナーを眺める陽向。
俺は、きっと、陽向に出会うために……
「陽向!お待たせ!……なんかいいもんあった?」
震えていたのがバレないように、声を張った。
「あ、いや、……綺麗だなぁ、って思って、色々目移りしちゃってました。……秋斗さんは、注文していたの受け取れました?」
じっ……と陽向の目線は俺の手に握られた紙袋だ。
バレてる?いや、何買ったのか、気になってるだけか?
どうしても、驚かせたい。
そして、俺の手からコレを着けてやりたい。
「ん、これは、あとで、うん。……陽向、腹減ってない?なんか食べてくか?……それか、なんかテイクアウトして、ウチで少し、ゆっくりしてかない?……お互い、明日から仕事だから……そんな、遅い時間にならないように、飯食ったら解散とか……」
紙袋から意識を逸らしてもらおうと、違う話題に切り替えようとしたけれど、
やっぱり口下手の俺は、飯に誘うのも、家に誘うのもスマートにいかない。
はぁ、今度家でこっそり練習しとこうかな。
ほんっと、毎回、ダサすぎんだろ、こんなしどろもどろな誘い方…。