そんな事をふつふつと考えている俺の目の前で、
花が咲いたような表情で陽向が返事をしてくれた。
「あ!秋斗さんっ!母さんから色々作り置きのおかずもらったんです!秋斗さんが持ってくれてる、そのおもーいバックに……それ、よかったら食べませんか?母さん、料理好きなので、不味くはないと思います……多分」
「まじ!?陽向のお母さんの手料理食べられんの!?食べたい食べたい!じゃ、それで決まりな!駅前のコンビニで飲み物とかだけ、買ってくか」
やべ、やっべぇ!一気にテンションが上がった。
陽向のお母さんの手料理とか、ぜってーウマイやつじゃん!しかもその味を食べて陽向が大きくなったのかと思ったら……あーーー、陽向の子どもの頃とか、とんでもなく可愛いんじゃねえか?……やべ、なんか、変な興奮してきた。
というか、誰かの手料理なんて……
あ、陽向がクリスマスに作って、渡しにきてくれたローストビーフとクッキー以来だ。
あとは基本、弁当や惣菜、自分でテキトーに作った丼飯くらい。
家で、陽向と飯食って、ピアス渡して……そして、陽向の同意を得てから……したい。今度こそ、今日こそ、したい。
触れたくて仕方がない。
陽向のあちこちに、こいつは俺のもんだって、印をつけてしまいたい。
そんな独占欲の塊な感情が、陽向を好きだと気がついてからどんどん湧き上がってきてしまう。
道を通り過ぎる奴らが陽向を見るたびに、睨み飛ばしているし、
カフェで陽向に接客されて、手渡しでコーヒーとかもらって陽向の手に触った奴らは抹殺してやりたい。
たかがコーヒー一杯で陽向の手に菌をつけるなんて。
だからできれば……陽向には裏方をやってもらいたい。
そんな事を間違って本人に言ったりしたら、マジで嫌われそうだから、心の中にしっかりとしまい込んでいる。
そう、俺は陽向病だから、仕方ないんだ。
うんうん、と一人で頷いて、改札を通り抜ける。
きゅ、きゅっ、と陽向の手を握りしめながら
花⚪︎方面行きのホームに2人でくっつきながら
電車を待っていた。
電車の中でも俺にぴったりとくっついてきてくれた陽向。
電車が揺れるたびにふわっと陽向の香りがして、
もう、ほとんど理性は崩壊しかけている。
早く、早く……早く。
花⚪︎駅についてからは
申し訳ないけれど、陽向の歩幅に合わせている余裕がなかった。
陽向は若干小走りで、それでも俺を咎めるでもなく、手をキツく握り返してくれながら俺についてきてくれている。
早く家に帰りたい、早く早くキスしたい、触れたい、抱きたい。陽向の中に入りたい。
頭の中がアホになったように、そればっかりしか浮かんでこない。
どうか、俺の理性!きちんと働いてくれ!
突然襲ってしまったりしませんように……。ちゃんと、ちゃんと……
キスなんてしちゃったら多分もうアウトだから
先にピアスだ。
ピアスを渡す!
必死に帰ってからのシュミレーションを何度も何度もする。
ガチャガチャッ……バタン!
「お、じゃま、しま、す、はぁ、はぁ、」
陽向が部屋に入ったと同時にドアを勢いよく閉める。
俺が引っ張ってきたせいで、陽向は肩で息をしている。
よし、ベッドのとこで、渡そう。一旦コーヒーでも飲んで、深呼吸しよう、そうだ、そうだ。
理性がぶっこわれないように、背後で靴を脱いでいる陽向を見ないようにして、
玄関からすぐのキッチンに、陽向から預かっていたパンパンに膨らんだトートバッグをどすっと置く。
何段にも積み重なっているタッパーを一つずつ取り出していく。お母さんの手作りなのだろうか?ジャムが入った瓶も3つある。そりゃ重いわけだ
「なんか、冷蔵庫入れとく……か?それともすぐ……っ!!」
……くそ、完全に油断していた。
まさか、まさか後ろから、陽向が抱きついてきてくれるなんて。
やばい、この展開は想像していなかった……!
「……ひ、ひな、た?あの、……えっと、今、食べよっか……?な、なに……食べる……あっ、グリーンカレーって書い……」
「……秋斗さん」
どくどくどくどくと、身体中の血液が沸騰しているように熱い。
まだ、まだ、だよ、陽向。ちょっと、一旦、深呼吸しよう。
「……。……あ、っな、な……なに……?陽向、あ、やっぱ、こっちの煮込みハンバーグと……か……?う、うまそぉー」
俺の腰に回された、陽向の細い腕。その腕のどこにそんな力があるのか……と思うほど強く巻き付いて離れない。
ど……ど、どうしよう……
背中のパーカーの布地に吸い込まれてしまいそうな声が
ぽそぽそっと聞こえてきた。
「秋斗さん……、あの、あの……え、エッチ、……したい、です、だから、あの、だからっ、その、……お風呂、……お借りしても、いいですか……?」