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第101話 初めてを君に⑥〜side秋斗〜

茹でダコの陽向は、トートバッグからパジャマを取り出すと、洗面所のドアにガンっと頭をぶつけ、よろよろしながら、お風呂場のドアを閉めた。


「……はぁ、可愛すぎだろ、ほんと。」


ザーーーーーーっというシャワー音を聞きながら、タッパーを冷蔵庫へと詰めていく。1人用の冷蔵庫だ。タッパーですぐにぎゅうぎゅうになってしまい、飲みかけの炭酸はシンクに出して置くことになった。



用意、用意しよ。

そわそわと冷蔵庫の周りを無駄にぐるぐる回りながら部屋へ入る。


ピアスの隠し場所を探して特に何もない部屋をうろうろとした。

テレビ台の引き出しにピアスの入った紙袋をそっとしまう。

クローゼットから新品のローションを取り出して、透明のフィルムを剥がす。

ゴムは2個……いや、もうひとつ……。

ローションとゴム3個は枕の下に隠した。

ベッドヘッドの棚に置いてあるティッシュは底が見えてきているので、新しいのを玄関の棚から取り出しておいた。



やる気まんまんのようでなんだか恥ずかしい。

いや、仕方ない。やる気まんまんなんだから。



全く気持ちが落ち着かなくて、部屋をあちこちウロウロしながら、ハンディモップ片手にテレビの埃なんて取ったりしてみた。

いや、いやいや、初めてするわけじゃないし!何回だって陽向としてんじゃねーか。


いや、付き合ってからは、初めてだ。

だから緊張しても仕方ねーじゃん。


ガチャ……。

びくっ!!

身体が面白いくらいに震えた

「あ、秋斗さん、お風呂ありがとうございます……あの、ドライヤーって……?」

もこもことした白いパジャマ?部屋着?姿を一瞬で目に焼き付ける。

やべ、白うさぎじゃん、あれ。

「あっ、ドライヤー、洗面所の棚にある。陽向が乾かしてるうちに、俺もパパって入ってくるから……」

部屋でドライヤーができるように、ブラシとドライヤーを手渡し、急いで脱いだ服を洗濯機へつっこんだ。





ガシガシと頭と身体を拭き、

どうせ脱ぐとはわかっているのに、スウェットを着た。

どんなして待っててくれてるんだろ、陽向。


ガチャッ

「っわっ!!」

陽向はオフになった状態のドライヤーを大事そうに持ったまま、ベッドの下にちょこんと座っていた。


ドライヤーを陽向の手から取り、9月には2人で苦しい話をした黒いテーブルへ置くと、陽向の腰を抱き上げ、ベッドへと座らせた。


「陽向……渡したいもんあるんだ」

「……?」


テレビ台の引き出しから、紙袋を取り出し、首を傾げている陽向の両手にそっと乗せた。

「……?さっきの……?開けて、いいですか?」

「ん。開けてみて」


カサカサッ、ペリ……カサカサ……

「っ!!!こ、これ……」

「ん。前、渡したピアス。これ、クリスマスの日に、俺陽向ん家の玄関とこで落としちゃって、傷つけちゃってさ。修理に出してたんだ。」

「……よ、よかっ、た……」

ぽろ、ぽろぽろ……とまた陽向の瞳から大きな粒が溢れる。


「何で、泣くんだよー。ほら、貸して。つけて、いい?」

「……っうーー、大事なの、なくし、ちゃったかと、思ってたから、よ、よかったぁ……」


陽向の右耳にいつもついている、小さな水色の石が光るピアスのキャッチをそっと外す。

「これ、いつもつけてるよな、なんで、水色?好き?」


「ピアス……、開けたのバレた時、母さんが、3月の……誕生石って……くれて、……なんか新しいの、どれが似合うか、……わかんなくて、ずっとこれ、つけてたんです。」

「待って、そういや、誕生日知らなかった。3月なの?」

柔らかい耳たぶをつい、ふにふにと触ってしまう。

くすぐったいのか、少し身を捩って、ははっと笑う陽向。

そうだ、陽向には笑顔が似合う。


「……ははっ、くすぐったい、ふふっ、3月18日ですっ、秋斗さんは4月ですよねっ、」

「え、何で知ってんの?」

透明なケースから綺麗に磨かれたピンクゴールドのピアスを取り出す。やっと、やっと陽向につけられるな……。

少し手が震えた。

「あの、最初の出会ったアプリに、書いてました、だから学年は2つ違いだけど、ほとんど3歳差だなぁーって」

そんな事を書いた事も、俺らが出会ったアプリの存在もすっかり忘れていた。

そうだ、退会しとかないとな。

「4月10日だよ。誕生日近いから、2人で、どっか誕生日旅行でも、行くか?」


ぷつっ、とピアスホールにピアスをそっと差し込む。

自分のはテキトーにできるのに、陽向に着けるとなると、緊張する。痛くないよな?大丈夫だよな。

かちっ。

「……ん、」

目を瞑って首を傾けて、着けやすいようにしてくれる。


陽向の右耳にピンクゴールドのリングピアスがキラキラと光った。

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