え……?
瞬きした瞬間、陽向の頬にぽたりと大きな水滴が落ちた。
「……だいじょぶ?……あきと、さん……」
ぼたぼたぼたっ、とまるで音がしそうなほど次から次へと
陽向の顔が濡れていく。
俺の目元を優しく拭ってくれる、細い指。
「俺…………幸せだ。陽向」
勝手に口から言葉が溢れ出た。
「……秋斗さん……、俺も、俺も、幸せです。……おれ、こんな……」
「……まって、陽向、俺に言わせて。…………陽向、俺にこんな幸せな、気持ち、教えてくれて、ありがとう。出会ってくれて、ありがとう……好きになってくれて、……お、俺に色んな初めての気持ち、くれて……、ありがとうな、陽向、陽向……」
だめだ、涙腺が壊れた。
せっかくの至近距離に陽向がいるのに、何も見えやしない。
陽向の両手が俺の頬を優しく包んでくれる。
ふわっと唇がふさがれ、そっと離れていった。
「……俺も、初めてが、秋斗さんで、本当に良かった……これからの、色んな初めても、秋斗さんと、一緒に……したい……」
「……ん?それって、エロいこと色々したいってこと?」
バシッと肩を叩かれる。
「っもぉ!!!ばかっ、もーー、俺そんな意味で言ったんじゃないですー!!」
「ははっ、ごめん。色んなこと、2人でしような、旅行もだけど、色んなとこ、行こ。」
いつもよりさらに尖らせた可愛い唇にちゅっ、と口付けると、もっと、というように 俺の肩に置かれた陽向の指にぎゅっと力が入る。
あぁ、幸せって本当にこういう事なんだろう。
好きな相手と、心も身体も繋がって
相手も俺を好きでいてくれるっていう、安心感。
あぁ、気持ちがいい。
額から垂れてくる汗を手で拭い、目を開けると、
陽向の左耳のピアスが電気の光を反射して
輝いていた。
そっとそのピアスに触れた途端、
陽向の全身がびくびくっと大きく震えた。
「っあ、だ、め。」
「気持ちいいな、陽向。俺も……」
そう告げるのが精一杯だった。
きつく絡みつく中の感触を思い切り堪能する。
もう、ゆっくりとか、優しくとか、
そんな余裕なんて、とっくになかった。
「あ、あ……も、だ、めっ!んん、っあっ!!!!」
陽向の声が一際高く掠れて、
びくびくっ!っと震えた後、小さな子どものように、全身でしがみついてくる。
「ごめ、俺も、また、出そう……陽向、陽向、ひなたっ、……」
2度目の熱すぎる熱を陽向にぶつけた。
はぁ、はぁ、はぁっ……
2人で息を整えながら、キスをして、一向に息が整わない。
陽向と繋がったまま、白い肌のあちこちにきつく吸い付いて、俺の跡を残していく。
「秋斗さん、好き……」
「陽向、俺も、すき…………いや、好きじゃ、足りない……………………もっと……なんか」
頭の中にある言葉の引き出しから
この気持ちにあった言葉を必死に探し出す。
「陽向、愛してる。」
これだ、これが一番、この気持ちに相応しい言葉だ。
今、わかった。
これが、人を愛する、ってやつ、か。
「…っ!……っひっ、く、……うっ……」
映画やドラマみたいなこんな臭い言葉。自分から出てくるなんてな。
子どもみたいに俺の腕の中で泣きじゃくる陽向を、ぎゅっと抱きしめる。
あぁ、たまらない。
腕の中に陽向がいる。
そのままとろりと、2人繋がったところから溶けてしまえばいいのに。
陽向の唇にそっと唇を重ねた。
「ありがとうな、陽向……」
そのままずっと、時間なんて気にせずに、
2人でずっと抱き合っていた。
陽向が疲れて眠ってしまったあとも、ピアスに触れたり、その柔らかすぎる髪に指を通したり、穏やかな規則正しい寝息を聴きながら、俺もいつのまにかふわふわと眠くなってきた。
眠気と必死に戦いながら、丸く、幼さが少し残る陽向の頬に自分の頬を寄せる。
あぁ、
一生、大切にする、そばにいる。
神なんて信じてないけど、もし本当にいるんなら、神にだって他のどんなものにだって誓ったっていい。
俺のこれからの人生……初めてを、全部君に、ずっと君と。
意識が途切れる前に、
そう、固く心に決めたんだ。
―――side秋斗 完―――