萌は、ほろ酔い気味の中、目の前の夜景に感激していた。
言葉を失うとはまさにこういうことなんだと思い知らされた。
隣にいる王谷も、何も言わずにただ夜景に視線を向けている。
ふと表情を見ると、王谷はどことなく寂しそうな顔に見えた。夜景を前にすると、誰もがいろいろなことを考えてしまうからかもしれない。
夜景はたまに、人を切ない感情にさせるものだ。
「王谷さん、今、何考えてますー?」
そんな踏み込んだこと、普段なら絶対に聞かないのに、今日は少し酒が入っているからか、好奇心に抗えなくなっていた。
「当てますね〜。んーと、そうだなぁ〜
両親元気かな〜?とか、元カノ結婚したかな〜とかですかー?」
王谷は驚いたように目を見開いてポカンと萌を見ていたが、すぐにハハッ!と声を出して笑った。
「すごいね、本條さんてっ!エスパー?」
「おっ、当てました?」
「いや、実は当たってないけど。」
「もうっ、なんだぁ〜っ!じゃあ全然エスパーじゃないじゃないですかァ〜っ!」
2人して同時に笑う。
なんだかものすごくおかしく感じて、笑いが止まらなくなった。
「っはー、まずいなー。一応仕事なのに飲みすぎちゃったみたいだ。」
「だから言ったじゃないですかーもぉー!それに、食事もホテルも豪華すぎなんですって!社長に叱られても知らないですからね?!」
「あーそれなら大丈夫だよー」
「どうしてです?」
「だって決めたの全部、会長だもん。
社長でもなく、僕でもない。」
意味がわからずポカンと沈黙する。
会長……?
ってことは……昇さんの叔父さんってこと?
昇さんの叔父さんがどうしてわざわざ??
いきなり酔いが回ってきている感覚がする。
思考が上手く回らなくて、言葉が出ない。
王谷は難しそうな顔をして小さく舌打ちした。
「全く……相手が本條さんじゃなければなぁ……僕としたことが、とんだ誤算だよ…」
「え?何の話、で…すか?」
あれ……??
いきなり呂律が回らない……
目の前が霞んで見えて……頭がグラグラする……
「っあ……ごめ、なさ……私ちょっと……酔いすぎて…っ、気持ち悪い、かも、です……」
突然体の力が抜け、グラッと天地が逆転しそうになった瞬間、王谷に抱き抱えられたのがわかった。
どんどん瞼が重くなり、意識が薄れていく。
うわー……どうしよう……最悪だ。
仕事なのにこんな失態……
すごく迷惑かけてる……
でももうダメ……いきなり一気に酔いが回ってきたみたいで声すら出ない……
「ようやくかよ。ったく、なんなんだこの女。」
萌が意識を失う寸前にかろうじて耳に入ったその声は、王谷のものではなかった。
「免疫強すぎだろ。本当はあの店でこうなる予定だったってのに。」
「まぁそうイライラすんなよ、冬弥。
夏輝もここまで頑張ってたんだから。なぁ?」
「ふー……春馬の言う通り。そもそも僕は、この子が酒に弱いし仕事中だから飲まないとか言うから、薬の効き目が酔いのせいにできないんじゃないかってヒヤヒヤしたんだ。」
「とりあえず早いとこ済ませて、すぐ石田さんに報告だ。」
冬弥と春馬、そして王谷夏輝は、
石田秋人の部下であった。