「ん……あ、れ……?」
いつもと違う天井が目に入る。
どこここ……
って、あ、そっか。ホテルの一室だ。
私、出張で北海道にいるんだった。
起き上がろうとして、ズキンと頭が痛いことに気がついた。
その瞬間、一気に記憶が蘇ってきた。
「はー……やらかしちゃったー…」
せっかくメインの夜景を見てたのに、まさか自分があんなにベロンベロンに酔っ払って迷惑かけてしまうとは……
全然覚えてないけど、きっと王谷さんが部屋に連れてきてくれたんだ……
「あー、もう。何やってんのよ私は……」
心底自分に嫌気がさし、こうしちゃいられないと思って急いで起き上がり、ベッドから降りて驚愕した。
「えぇっ?お、王谷さんっ!」
王谷が、美しい夜景の広がる窓際のソファーで寝ている。
そこで気がついた。
ここは、自分の部屋じゃなく、王谷の部屋なのだと。
恐る恐る近づくと、王谷は美しい顔で寝息を立てていた。
「ね、寝てる……どうしよう……」
起こすのはどうかとも思うが、かといって、このまま何も言わずに勝手に出ていくなんて失礼な事はしたくない。
「お…王谷さん、王谷さんすみません…っ」
「……んー…?…んぁー、ごめん……寝ちゃってたー」
欠伸をして起き上がる王谷に、急いで頭を下げた。
「謝るのは私の方です!本当にすみませんでした!自制してそんなに飲んでいないつもりだったんですけど、まさかこんな迷惑をかけることになってしまうとはっ!」
「いやいーよいーよ全然。一応夜景も見たことだし、目的は達成したんだからさ、あとはのんびり行こうよ。」
「でも私っ、夜景見たところから記憶がなくて……王谷さんが介抱してくれたんだと思うといたたまれなくてっ」
「あぁ大丈夫大丈夫〜。一応なんとか歩けてたよ?鍵がどこにあるのかわかんないから一応僕の部屋に寝かせたけど。」
「そうですか……本当に申し訳ありませんでした。」
「僕こそ、本條さんの酒の許容量を知らないのに調子乗って飲ませてごめんね。そんなことよりもう一度ここから一緒に夜景を楽しもうよ、せっかくなんだから。はい、座って。はい、水。」
王谷に促され、申し訳なさが煮え切らないまま隣に腰かけ、目の前に広がる絶景を眺めた。
そういえば、今は何時なのだろうと慌ててスマホを取り出すと、もう23:00をまわっていた。
「もうこんな時間……ん?あれ?えっっ!!」
「どうしたの?もしかして旦那さん?」
「その通りですっ……10件も着信きてます……」
「あぁ、そういえば、本條さんが寝ている間に何度もかかってきてたよ。だから、僕が出といた。」
「はい?!」
「だってあの旦那さんのことだから、放っておいたら本当に誰か人を寄越しそうだし、何より可哀想じゃないか。あんなに心配性なんだからきっと眠れないよ。まぁ今も眠れてないだろうけど。」
至極真っ当な意見だが、まさかの予想外の展開に、口をパクパクさせることしかできない。
「とりあえずかけてあげたらー?僕も、目が覚めたらかけ直させますって言っちゃったからさ。」
「あ……はい、そうですね……お騒がせしてすみません。」
なんだかもう謝ることしかできていない。
愚かすぎる自分を心底呪いながら、恐る恐る通話ボタンに指をかざす。
しかし、なかなか勇気が出ない。
「……。」
あー、なんて言われるんだろう……
きっとめちゃめちゃ怒られるよなぁ……
なんて言い訳しよう……
行く前、「お酒とか飲みすぎないでくださいね」って言われてたのに……
思い切って通話ボタンを押す。
トゥルッー
「もしもし萌さん!?大丈夫なんですか?!今何してます?!」
なんと、昇は0.5秒ほどで電話に出た。
まるでずっとスマホを握りしめて待ち構えていたように。
「あのっ、昇さん……本当にすみませんでした。まさかあんな少しのお酒で酔うとは思ってなくてっ……今はその…もう、というか、また寝ようかと…」
まさか王谷の部屋にいるとは言えずに、曖昧な嘘をついてしまった罪悪感にかられる。
「身体は大丈夫なんですか?!当然、何もされてませんよね?」
やっぱりこう来ると思った。
電話口の昇はものすごく心配している声だ。
「だだだいじょぶです!王谷さんに迷惑かけてしまいました…。もう今はバッチリ回復したので安心してください!」
「安心なんて全くできませんよ。とにかく今日は早く寝てください。明日の夕方、空港着いたら迎えに行くので連絡くださいね。」
「分かりました……心配かけてすみません。おやすみなさい。」
「あ、動画、送りましたので、朝にでも見てくださいね。ではおやすみなさい萌さん。」
え、動画……???
電話を切ってからよく見ると、メッセージボックスには、なんと20分もの動画が入っていた。
「どうだった?旦那さんは。叱られてない?」
「っあ、はい、怒ってはなかったです。ただやっぱりすごく心配はさせてしまっていました……」
「まぁ当然そうだよね。僕が電話に出た時はちょっと怒ってたけど。」
「えぇ?!」
「どうして酒の弱い萌さんに飲ませるんですか?!ってね。まぁたしかに、僕も反省したよ。帰ったら僕の代わりに謝っておいてくれる?」
「はい……ていうか、本当にすみません……」
謝るのはどう考えてもこちらだ。もはや申し訳ないという感情しか湧いてこない。
一体私は何をしにここまで来たのか……。