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第102話


「じゃあ……あなたを直接雇ったのは誰なんですか?」


「とある組のヤクザですよ。」


「……。」


「……はは、やっぱりって顔してる。」


そりゃ、やっぱりとはなるだろう……。

あんなやばいシロモノを必死になって追い求めているのなんて、ヤクザたちくらいだ。

それに昔から、叔父はビジネスをやる上で彼らと上手くつながり、上手く使いこなしているのを知っている。


「僕の昔からの友人がね、数名ヤクザになっちゃってるんですね。まぁこう見えて僕、ガキの頃なんて結構ヤンチャだったんで。」


なるほど。そこで繋がったというわけか。

確かにこんな育ちの良さそうで女性からモテそうで無害そうに見える男は、カタギじゃない仕事においてかなり使えることは確かだ。


「で……萌さんの血液採取に成功したあとの、今のあなたの仕事は?」


「今は萌さんを落とすことですね」


「落とす……?」


「ええ。でも旦那さんがあまりにも勘が鋭く怖い人だったのでなかなか難しそうですが。」


妖艶に笑ってそう言うと、王谷はポケットからガムを取りだした。

安心か、イラつきか、焦りか誤魔化しか、何かしら感情の動きを感じた。


「落とすって……あなたに惚れさせるってことですか?」


「まぁ、そうですね。ふふ……」


膝の上で、ぎゅっと拳を握った。

そんなこと……させてなるものか。


「というか、項のアザは発見したのに、体のアザは見てないんですか?」


「はい?」


クスッと笑った王谷に血の気が引く。


「いや、そんな顔しないでください。冗談ですよ?ていうことは彼女とはまだ、身体の関係を持たれてないということですか?」


イラッとした表情を隠しきれずに王谷を睨みつけてしまった。

それが肯定と捉えられたようで、驚いたように目を丸くされた。


「えっ、夫婦なのにそんなことってあるんですか?まぁ僕は男女関係には疎いので、最近はいろんな形があるんでしょうね。」


なんなんだこいつ…

ムカつくが、人を自然に誘導して次々と情報を収集していくのがさすがプロだ。

うかうかしていると気付かぬうちに手のひらで踊らされているかもしれない危険人物……


「そういえばなぜ、あのアザが血を抜いたものだと分かったんです?」


王谷はガムを口に入れる直前、突然、萌さんのうなじのアザについて聞いてきた。


「しかも、あんな場所のあんな小指ほどの大きさのもの……医療従事者でない限り、普通わからないと思うのですが?」


「僕も昔、同じようなことをされていたので。」


「え?」


「あなたの雇い主のボスである会長にね。」


王谷は口に入れたガムを噛むことなく、目を見開いてしばらく固まっていた。

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