「ところで萌さん、身体は本当に大丈夫ですか?」
「え?あ、全然大丈夫ですよ。アザくらいで心配しすぎですって。」
「……。」
本当に血を抜かれただけならいいんだが…
もし……それ以外のことをされていたら……
あの男は本当に真実を言っていたのか……?
「っあ、ちょっとっ……昇さ…」
「心配…しますよ、そりゃあ……萌さんのことに関してはなんでも……」
突然ぎゅっと抱きしめられて、首筋に口付けされる。
ゾクゾクっと一気に鳥肌が立ったが、萌は悩ましい笑みに変えて昇の背中に手を回す。
「過保護すぎますよ……」
「そうです、過保護です…」
昇はそのままチラと項に視線を流し、眉間に皺を寄せる。
絶対におかしい……。そう確信する。
アザが、あれから全く薄くなっていない。
「昇さん」
「っはい、どうしました?」
「もう、あれ……してくれないんですか?」
「……あれ?ですか?」
あれ、とはなんだろうと一瞬思考を巡らせたが、頬を染めて目を逸らした萌を見て、ドクッと鼓動が跳ねた。
思わず口角が上がってしまう。
「可愛すぎます…萌さん。反則ですよそんなの……」
眉を下げて笑う昇の顔が近づいてきて、額がコツッと萌の額に当たる。
後頭部に指が滑っていて、頭皮から全身へと刺激が広がっていくのがわかる。
「っん……」
唇が食べられるようにして優しく口に含まれた。
萌はこんなことをねだって恥ずかしいと思う反面、きちんとすぐに叶えてくれる昇の優しさを愛おしく思った。
何度か角度を変えて、啄むようなキスをされたかと思えば、少しずつ舌が入り込んできて思わず腰を引きそうになる。
しかし、昇の手にグッと引き寄せられて、逃れることができない。
「っは…ぁ……っ」
舌を絡めながらそのままソファーに押し倒された。
互いの息遣いがなまめかしく響き、唾液が混ざりあう音もして全身が火照り出す。
濃厚なキスをされながら昇に耳を触られていて、それがより一層ゾワゾワと全身の産毛を逆立てた。
「のぼっ、さっ……まっ、て、もうっ……」
いろいろな意味で限界が来てしまい、キスの合間になんとか声を出すと、ようやく解放されてハァハァと呼吸を繰り返す。
「……ふ…っ…」
てらてらと光る口で妖艶に笑う昇があまりにも色気があり、ドキドキと鼓動が速くなった。
「嬉しいな……萌さんからおねだりされたのなんて、初めてですから……」
「っ、そ、そう…でしたっけ……」
押し倒された状態のまま、互いの顔が目と鼻の先にある。
吸い込まれそうな昇の瞳をジッと見つめていると、懐かしい感覚を覚えた。
それは、初めてホテルで助けられたあの日に感じたものと同じだ。
そして、その時感じたものはきっと……幼い頃に初めて彼に会った時とも同じだと思った。
「……萌さん、続きをしてもいいですか?」
「えぇっ?!」
つ、続きって……
この先の…こと?それって……えっと……
「ここじゃなくて、ベッドで。」
真剣で吸い込まれそうな不思議な瞳に、なぜだか「はい……」と頷いてしまった。
無意識に、素直に、促されるままに昇に起こされ、またキスを受け入れていた。
横向きにお姫様抱っこ状態でベッドに運ばれ、下ろされる。
昇がみるみると服を脱いでいく。
綺麗にうっすら割れた腹筋と胸板があらわになった。
「脱がして、いいですか…?」
「はい……」
横になっている萌のパジャマのボタンを開けていく。ブラジャーの上に恐る恐る手を置いて、ふぅーっと深呼吸した。
下も脱がせようと手をかけた時、あることに気付いた。
「……萌…さん…??」
「……。」
何かおかしい。そう思った。
なぜなら萌は、茫然とこちらをまっすぐ見上げているだけで、石のように動かない。
瞬きもせず、完全なる無の表情にもかなりの違和感を感じた。
まるで、人形のように、そこに寝かされているだけ…。
「どうしましたか?……大丈夫ですか?萌さっ」
ハッとして、一瞬息が止まった。
昇はすぐさま萌の両頬を包み、まっすぐ名前を呼びかけた。
「萌さん!萌さん!僕を見てください!」
頬が冷たいし、目の焦点がなかなか合わない。
無理やり合わせて何度も名前を呼ぶと、ようやく萌は、ハッと我に返ったように瞬きをした。
「っ、あ…れ……??昇さん?私…あ、寝てました?」
時が止まったように、そしてなぜかショックを受けたように茫然とこちらを見つめていた昇に、突然抱き締められた。
「えぇっ?!昇さん、どうしたんですかっ」
「……なんでも、ありません……寝ましょうか。」
服のボタンを一つ一つ止められながら、萌は顔が赤くなった。
服を脱がされている最中…これからってときに、私は寝てしまったんだ…!
なんという失態…!!
この、昇さんの複雑そうな表情!
私はなんてことを……
「昇さん、ご、ごめんなさい。私もう一度っ」
「いいえ、僕が調子に乗りすぎました。お疲れのようですし、無理しないでください。」
「いえっ、疲れてないですっ!」
「今日は寝ましょう?ね?続きはまた今度。」
「はい……」
萌はまた思考が停止し、無意識に目を瞑った。
昇はそんな萌を、震えた手で撫でる。
「萌さん……」
昇は目を逸らし、震える拳を握った。
くそ……あいつ……!!!
今は怒りの矛先を、布団にぶつけることしかできなかった。