週末のホームパーティ当日。
その日の予想外すぎるメンバーに、萌はかなり驚いてしまった。
元々自分が招待していた、凪紗、ヤマト、航という職場の3人と、華子と村田。
てっきりその5人だと思っていたのだが、なんと……
「はじめまして、加賀見希美です。」
昇の兄の妻である希美が来たのだ。
うっかり言い忘れていた、と昇に謝られたが、挨拶をまだしていなかったため、本来なら今日初対面なんてだいぶおかしな話なのだ。
「お、お姉さんっ……こちらから伺わなくてはならないのに、わざわざ本当にすみません!」
「いいのよ〜別にそんなに畏まらなくて。それに今日は、単純に昇くんの新居に遊びに来たかっただけだしね。」
はい、お土産。と言われて、とてつもなく上品でオシャレなお菓子を受け取る。
希美があまりにも美しいので萌はそれだけでもかなり緊張してしまった。
「すっげー、めっちゃ美人!!」
「う、わぁ〜……女優さんみたいですね〜…」
凪紗たちが、まるで中高生のように希美にストレートな感想をぶつけまくっている。
「むかーしはそんな仕事もしていたけど、今はアパレルを経営してるだけだから、そんなおだてないでよ皆さん。」
「いや、余計凄すぎますって!やっぱり表業界にいたんすね〜。オーラ只者じゃないっすもんね!」
「綺麗だしオシャレだし納得〜っ!どこのお店ですか?!うち今度行きますっ!!」
「ホント?嬉しい!銀座とお台場に店舗があるんだけどね、ホームページを送るわ。連絡先を交換しましょう。」
「いいんですかあ?!わーい!」
明るく笑ってよく喋る全く気取らない性格の希美は、すぐに皆に打ち解けていた。
昇にも希美は本当に良い人だと聞いたので、彼が言うのなら間違いないだろうと安心する。
やはり加賀見の人間だと思うと、だいぶ緊張感と警戒心が祟るのだが、希美とならうまく仲良くできそうだと、萌は思った。
しかし、問題はここからだった。
なんと……
「わぁ〜いっ☆おっじゃまっしまーっす♡萌ちゃんだぁ!久しぶりぃ〜!昇くんも久しぶりぃ〜♡」
なんと現れたのは、あのドッグランで会ったお嬢様、黒宮莉奈と……
「ご無沙汰しております!こちら、最近黒宮コーポの担当工場で開発したトゥンカロンとグミキャンディーですーっ!」
莉奈の世話係、前野真一だった。
凪紗たち3人は全員目が点になっていて、昇は心底気まずそうな表情、村田はため息、華子は苦笑い、希美はニコニコとしている。
それもそのはず、実は莉奈と真一を呼んだのは希美だった。
どうやら犬繋がりで仲が良いとのこと。
希美はアフガンハウンドという貴族のような珍しく美しい犬を飼っているらしい。
昇は事前に、希美に友人を連れていくと言われていた。
だがその友人がまさか自分の元フィアンセ、黒宮莉奈だとは思わなかった。
「ちょ、ちょっとっ、希美さん!どういうつもりですかっ!」
キッチンの奥で彼らのグラスや皿を用意しながら、昇は希美に抗議した。
「だってあなたたちまだ蟠り残ってるじゃない。そんなんだと、あなたにも萌さんにも、もちろんあの子にとっても良くないわ。私言ったわよね?女の子には注意しなさいって。じゃないと大変なことになるって。」
「……。」
希美の鋭く真剣な視線に息を飲み込み、何も言えなくなった。
なんだかまるで、自分が酷く大人気ない人間に思えてくるが、よく考えればこちらが悪いとは思えない。
解消したはずの婚約を勝手に引きづってるのは向こうなのに。
しかし、納得させていたつもりでいて実際は相手はそうじゃなかったということなのだろう。
つまり納得していないのはこっちもそっちも同じってことか。
「はぁ……めんどくさい……」
「なんですって?」
「っあ、いや……なんでも。」
「あなたって唯一そういうところが残念なのよねぇ……だから、これを機にきちんとクリアな関係を築いて、お互いちゃんとするべきよ。大人として。」
そんなふうに言われてしまうと、確かにそれは真っ当なことだと思えてくる。
それに、莉奈とは気まずいままで、心にモヤがかかっていたことは事実だ。
この機会がなければ、もしかしたら永遠によく分からないギクシャクした関係だったかもしれないし、萌だって嫌だろうと思った。
「その…通りですね。ありがとうございます。」
「うん。ほら、見て。萌さんはもう普通に会話してるじゃない。」
希美の目線の先を見ると、気まずそうにしていた萌は、いつのまにかにこやかに莉奈とお喋りしていた。