「チコちゃん久しぶりぃ〜♡莉奈のこと覚えてるかなぁ?」
「あっ、シッポ振ってすごく喜んでるし、莉奈ちゃんのこと覚えてると思うよ!」
萌はホッとしていた。
莉奈とはあのドッグランで異様な空気のまま別れたきりだった。
自分と昇との関係を知って取り乱し泣き始めた莉奈に、事情を知らないが故に何も出来なかったし、村田に連れられてまるで逃げるようにして帰ってしまった。
執事の真一だって良くしてくれたのに……と悔やんでいた。
しかしこんな機会が突然来ると思わなかった。
てっきりもう自分とは話したくないし顔も見たくないだろうと思っていたのだが、莉奈は何事も無かったかのように明るく、まるで初めてドッグランで会ったあの時のようだ。
気分屋なだけなのか……?
それとも、吹っ切れたのか……?
「……あの、莉奈ちゃん。今日は来てくれてありがとう。ティアラちゃんは元気?またドッグラン行きたいな。」
「うん!ほら莉奈の待受見て♡相変わらず可愛いプリンセスでしょ♡またぜひ来てよ!ウチのドッグラン!あ!希美ちゃんも一緒に♪」
「あら、そうね。私も最近コタロウを連れ出していないし。莉奈ちゃんとこのドッグランまだ行ったことないのよね。」
「希美さんのワンチャンはコタロウくんって言うんですか?お写真見ると、すっごく美しいロングヘアーの女性って感じなのにオスだったんですね!」
「ふふっ、そうなのよー。でも性格とかはこう見えて結構オスっぽいのよ。」
皆で希美の愛犬の写真を眺め、感嘆する。
「さすが高貴な犬代表アフガンハウンド!見た目そのものがまるでファンタジーって感じだ!」
と、航が興奮気味に言う。
「いいなぁ〜ワンチャン。ウチのマンションペット禁止だからなぁ」
「俺は実家にダックスフンドならいるけどもうおじいちゃんなんだ。久々に会いたくなってきたなぁ。遠いから年一しか会いに行けんけど。」
凪紗とヤマトが口々に言う。
「そうだ、じゃあここにいる皆でドッグラン来てよ!わんちゃんとたくさん遊べて癒されるよ♡莉奈たちが開発した美味しいスイーツもあるし♡」
そう提案したのは莉奈だった。
ということで、今度の週末に、本当に皆で莉奈のドッグランに遊びに行くことになった。
また一つ楽しみが増えたため、萌は気分が上がる。
そういえば……と思って華子を見ると、華子はやはりチラチラと凪紗を気にしているようだった。
そもそも華子が来た理由は、村田と良い感じになっている疑惑のある凪紗なのだから。
何をしたいのかは分からないが、村田に絡み始めた凪紗のもう片サイドに華子がすかさず座った。
「こんにちは!凪紗さんですよね!私、萌さんの義理の妹です!歳も近いみたいだし、良かったら仲良くしてください!」
「えっ!嬉しい!こちらこそ〜☆」
村田は凪紗と華子に挟まれた状態になり、明らかに顔を強ばらせ始めた。
萌は内心気の毒に思いながらも、3人ともいろんな意味で頑張れとエールを送る。
ところで……
さっきからずっと昇さんの声がしないけど……と思いながらぐるりと部屋を見回すと、なんと少し離れた場所でポツンと一人、ワイン片手にツマミを食べているではないか。
「ちょっと昇さん!こんな所で一人しっぽりしてないでくださいよっ」
「あー、すみません、萌さんが楽しげにしているのを見ているだけで満足なので。」
「っ……そんなことより……莉奈さん来てますよ。なんか彼女、何事も無かったかのようにも見えますが…」
「……えぇ。もちろん会話はしてみますよ。」
昇は苦笑い気味に軽くため息を吐いてから立ち上がり、萌の頬に口付けた。
「っっ!ちょっと昇さっ…!こんなところでやめてください!皆に見られたらっ」
「いいじゃないですか。見られても。僕の最愛の奥さんなんですからアピールしたいんです。」
妖艶に笑って向こうに近づいていく昇の背を、火照った顔で睨んだ。
いちいちドキドキしてしまう自分が仕方なく思えるくらい、昇はいちいち自分をときめかせる。