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第114話

テキトーな大学にしか入れず定職にも就かない僕は親からも見捨てられ、行くあてが無くなったら、気がつけばずっと女のヒモをやっていた。

しかも、何かめんどくさくなれば直ぐに乗り換えたりして取っかえ引っ変え。

自分の容姿はそんなに悪くないらしい。


人生の指針がわからないと、こうも堕落的な生活になるのか…と、身をもって実感した。

人間は、どんな環境でも、慣れてしまえば上手い具合に適応してしまう。

何もかもがめんどくさいから、もうこのままこんな感じの生活でダラダラ生きてりゃいいやなんて思っていた矢先、僕はその時の女に振られた。

他の女といるところを見かけたとかなんとかって理由で。


「だいたい真一くんって男としてってより、人間としてどうなの?!生きることに全っぜんやる気ないしさぁ!鬱とか言い訳してたけど、女と遊んでられんなら嘘ついてたのね!マジさいってい!」


パンっー!


平手打ちをかましてから、女は消えていった。


「……ちっ……なんなんだよ……俺の何に勝手に期待してたんだよ……」


勝手に何かを期待して寄ってきて、そのままで良いとか抜かしてたかと思えば勝手に期待外れだとかなんとか言って皆捨てていきやがって。

そもそも俺に何かを期待すること自体おかしい。

親も教師も女も。

今までそれが全く無かったのは、翼くんただ1人だけだ。

また、会いたいなぁ。俺と違って忙しいだろうから、連絡しても迷惑だろうし……


ふと前を向くと、目眩がした。

歩いている人間たちが皆、やけに生き生きと見える。

何を生きがいに生きていればそんなふうになれるんだと疑問に思った。

同じ国の同じ人間なのに、こうも差が生まれるのはどうしてだろうか。


チラチラと、周囲の人間たちの俺を憐れんだような視線を感じながらため息を吐いた。

いいさ……存分に憐れめよ。

どうせ他人事だからどうだっていいくせに。


あーあ、これからどうしようかなー。

どっかにまたちょうどいい女がいればなぁ〜。

って……俺は一体何がしたいんだろうな。

生き甲斐なんてもん、俺にはきっと一生見つからないな。


「はい。どーぞ♡」


突然声をかけられ顔を上げると、まだギリギリ十代そこらの若くて可愛い女の子が俺にハンカチを差し出していた。


「血、出てるよ?」


まっさらな白のレースにピンクの花の刺繍の着いたとても美しいハンカチ。

それを、見ず知らずの俺に差し出してくるなんてどういうつもりなんだろう?

でも……ちょうど良かった。

俺は今、ちょうどカモれそうな女を探していたところだったし。


こいつ見るからに……育ちが良さそうで金がありそうだ。


「ありがとう。でもそんな綺麗なハンカチ勿体ないから大丈夫。」


あえて笑顔で礼を言ってハンカチを受け取らずにいると、彼女は強引に俺の血を拭った。

綺麗なハンカチが、俺のせいで汚く染まる。


「ダメだよ〜。可愛いお顔が台無しなんだから。」


「……かわいい?」


「うん♡真一くん可愛いよ♡ワンチャンみたいで♡」


「えっ、なんで俺の名前っ」


「さっき女の人がそう呼んでたじゃん。」


なんだ……見てたのか。

じゃあこいつはカモれないか。

なら時間の無駄だ。

金持ちオーラあるけど惜しかったな。


「お嬢!勝手に居なくならないでくださいよもう!」


「うわあ!しまったっ!逃げよ!」


「はぁっ?!」


なぜか手を引かれて一緒に走らされる。

追ってくるのは執事かボディーガードかなんかだろうか。


「ちょっー!おい、なんで俺までっ!」


「だって一人じゃつまんないもーん!アハハ!」


一人……そっか、俺はなんだかんだ一人でいられないから常に誰かを求めてしまっているのか。


「はぁっ……疲れた……まさかこんな映画みたいなことがあるなんてな……あんた本当にお嬢様なんだな。」


「うん!だから莉奈はね、この状況を最大限に利用して楽しんでるんだ!じゃなきゃ損でしょ!」


" 得する生き方を考えろよ。人生なんて、得したもん勝ちだ。 "


翼さんの言っていたことを思い出した。

俺は……確実に人生を楽しめてはいない。

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