「ねぇ、あなた、今日1日莉奈に付き合ってよ。」
「は、はぁ?どこで何するんだよ…」
「ん〜、まずはねー!さっき見かけた超可愛いカフェ!そのあと映画も見たいしショッピングもしたい♡ほら、行こ!真ちゃん♡」
そのあと本当に、メルヘンなカフェでド派手なパフェを食べたり映画を観たり買い物をしたり……
散々いろいろな所に付き合わされて、大量の買い物袋を持たされて……
それなのに、俺はなぜか、全然嫌じゃなかった。
笑ったり泣いたり怒ったり、しっかり自分を持っていて純粋で感情豊かなこの女の子といると、俺は初めて生きてる心地が実感できていた。
「ねぇ……何か動物みたいな鳴き声がしない?」
「鳴き声……?いや、俺にはしないけど」
「えっ、するよぉ。……ほら、多分あっちの方……あっ、あんなところにっ!もしかしてっ」
そこには、怪我をしているようで動けない猫がいた。
「この子、きっと莉奈に助け求めてたんだ!」
彼女はすぐさま抱き上げてタクシーを広い、動物病院へ連れていった。
もちろん荷物持ちの俺も一緒に。
こういう行動力が凄まじいところも、この子にしかないものだと思う。
しかも彼女は、身寄りのないその猫を引き受けていて、あとから聞いた話だと、もう既に6匹もの猫と犬を飼っているとのことだった。
しかも全て、捨て犬や捨て猫だというから驚きだ。
" お嬢様は動物でも人でもなんでも拾ってきちゃうのよね。助けを乞う者を放っておけない、優しい性格なの。"
周りの人間はそう言っていて、そしてそれは本当だった。
道で困っているお年寄りや子供に進んで駆け寄るし、何がなんでも絶対に解決する。
それが黒宮莉奈という女の子。
「今日は莉奈に付き合ってくれてありがとね♡すっごーく楽しかったよ〜!」
執事の人に迎えに来させた莉奈さんは、猫を抱えながら満面の笑みでそう言った。
もうこれでお別れで、ひょっとすると一生この子に会わないかもしれないと思うと、自然と俺の口は動いた。
「俺のこと、雇ってくれませんか」
「……真ちゃん?」
「生き甲斐が欲しいんだ。誰かのために生きたい。俺は…自分のために生きられないから。」
莉奈さんは俺の顔をポカンと見つめていたかと思えば、すぐにまた笑顔になった。
俺は、その笑みに惚れていたんだと思う。
「じゃあ、真ちゃんが真ちゃんのために生きられるまで、莉奈の執事さんに任命します!」
その笑みに、何度も助けられてきた。
その笑顔を見るためだけに生きられると思った。
莉奈さんに拾われてから、もうかれこれ5年経つ。
僕の人生は、莉奈さんのためにあるといっても過言では無い。
彼女のために生きることこそが生き甲斐であり、そして自分のためでもある。
彼女に出会ってから、俺の人生は180度大きく変わった。
人生が楽しくて仕方ないのだ。こんな風に思える日がくるなんて微塵も思っていなかった。
いつも無邪気で自由奔放な莉奈さんに、僕は憧れているし、尊敬もしている。
その笑顔のためなら、僕はなんだってできる。どんなワガママにでも付き合えるし、どんな理不尽な目にあっても構わない。
僕は、生涯を莉奈さんのために尽くす。
なぜならこれが、自分で見つけた自分のための生き方だからだ。