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第123話

休日。

約束していたドッグランの日だ。


萌はチコを放しながら、今日のメンバーをゆっくり見つめる。

希美とアフガンハウンドのコタロウ、

莉奈とトイプードルのティアラ、

凪紗とマルチーズのマル

ヤマトとダックスフンドのトン吉


そして、犬は飼っていないが、華子と航、そして王谷。もちろん真一と昇と村田もいる。


前回からまだそう日にちが経っていない。

だから皆当然、萌のことを心配したのだが萌は逆に申し訳なさしかなく、何度も謝罪した。

あのときの萌の意味不明な行動は、たまに引き起こす一時的な夢遊病ということで昇がなんとか誤魔化している。


「別にあなたまで来る必要はないんですけどね。」


昇の冷たい視線が王谷に絡む。


「まぁそう冷たいこと言わないでくださいよ〜。萌さんの件で相談してきたじゃないですか。」


「そうですけど、別に来てとは……」


「えっ!これ萌さんの手作りクッキーなの?!凄い!猫ちゃんとかワンチャンとかの形になってるよ!写真撮っていい?」


「あっ、どーぞどーぞ。むしろこんなの写真に撮ってくれるなんて光栄です。」


王谷はニコニコしながら萌に絡みはじめた。

あれから王谷はまるで吹っ切れたかのように、萌などと下の名前で呼んではグイグイと距離も詰めているらしい。


「萌さんのわんちゃん、初めて見たけど本当に可愛いなぁ〜」


「ふふ、そうでしょう?保護犬なんですよ。王谷さんはペットいないって言ってましたよね。これを機に検討してみては?」


「そうだねー。そしたらチコちゃんと遊べるから、萌さんとも会えるしね!」


イライラの感情を押し殺しながら昇は笑みを作って間に押し入った。


「王谷さんが飼うなら猫がいいんじゃないですか?」


「え?猫?」


「えぇ。犬は結構大変だし、一人暮らしではなかなか厳しいと思いますよ。それに王谷さんみたいに自由主義で利己的な人なんかは、きっと猫の方が合いそうな気がするし。」


遠回しな嫌味をにこやかに言った昇だったが、王谷には全く響かないようで、


「なるほどー!実は昔、アメショを実家で飼ってたんだけど、すごく猫に好かれるタイプなんだよ、僕。よく分かりましたね!さすが萌さんの旦那さん!!」


などと笑ったものだから、二人の間はなお一層ピリピリとしだした。


「わぁ……希美さんのコタロウくん、さっすがアフガンハウンド!初めて生で見ましたァ〜♡すごい綺麗!!」


「そう言う凪紗ちゃんのマルチーズちゃんだってとっても愛らしいじゃない!私実は小型犬って夢だったのよ……!わぁ〜もふもふ……♡」


すぐそばでは、既に莉奈、ヤマト、萌たちが愛犬たちと戯れている。


「あっ!こらトン吉!やめるんだ!レディーを追い回すのはっ!」


「あはは!いーよいーよー♡ティアラ嫌がってないし!

ヤマトくんのトン吉くんは、おじいちゃんドッグでもまだまだ女の子が好きなんだね〜♡人間みたい!」


「なんかやめろよその気持ち悪い言い方……」


チコだけはいつものごとくその臆病な性格さ故になかなか馴染めていないようで、まるで両親から離れようとしない幼児のように、萌と昇にくっついたままだ。


「ふふ……。子供が生まれたらきっとはじめはそんな感じなんでしょうねぇ。」


この様子にそうコメントして笑う希美。

萌も昇も咄嗟に顔を見合わせてから同時にチコに視線を移した。

きっと今お互いに、もし自分たちに子供がいたら……と、チコの姿を我が子に置き換えている。


「くすっ……チコは私に似たから臆病なのかも。」


「それを言うなら、おっちょこちょいなところは僕にも似ていますよ。」


「はい!みなさーん!まずは今のうちに記念撮影しときましょ〜!」


真一の一声で、ドッグラン専属のカメラマンに集合写真を撮ってもらい、ピクニックエリアで皆が持ち寄ったものたちで先日のようなパーティーを始めた。

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