「だから基本的に、叔父のことは信用していない。でもこの資料は信憑性が高いと思う。」
いや、そうじゃなくても今はこれしか手掛かりがない。だから、こっちはこっちで進んでいくしかない。
いつか必ず、どこかで根を上げさせてやる。
「昇……じゃあこの、萌さんの父親と姉の内容も……」
村田は、頭が痛くなりそうな複雑すぎる話を整理しながら渡された資料のコピーを見つめていた。
「あぁ。もう航空券も取った。一人で行ってくるよ。」
「はぁあ?!いつだよ!そんななんの計画もなしに?!流石に時期尚早すぎるだろ!やるならもっと慎重にっ」
「そんなことをしてる余裕なんて、もう僕にはない。とにかく動くのが先だ。来週末には経つ。」
「分かるけどっ!なんのコンタクトも無しにいきなり押しかけてどうなるか……それこそ非効率を生むんじゃないのか?萌さんには当然…言わないで出るんだろ?」
「そうだよ。だから…庵、萌さんを頼む。」
昇は一度決めたことは決して意志を曲げることは無いと知っている村田は、はぁ…とため息を吐いた。
「それでもし……萌さんの家族に会えたら、どうするつもりなんだ?」
「聞きたいことがある。叔父と何をどれくらい関わっていたのか、例のアレが今どんな状況なのか、戻す薬はあるのか、萌さんはなんなのか、なぜ萌さんと靖子さんの元に戻らないのか……とにかく聞かなきゃならないことは山ほどあるんだ。」
確かに、疑問に思うことは多い。いや、むしろそれしかない。昇の言うように分からないことだから我々は行動を起こせないのだと分かっている。
「昇……。行くのはいいけどな、あまり遅くなりすぎるなよ。仕事を引き継いで回す方の身にもなってくれ。鈴木も最近、お前の仕事でやることが多くて忙しそうだしな。他もそうだ。」
鈴木というのは、村田と同じように昇のとある部門の執事的役割を担っている人物だ。
あの駒井のような感じで、全部で5人存在するのだ。
駒井の他に女性がもう一人いるのだが、前回駒井と昇の関係を萌に疑われトラブルになってから、昇は極力女性秘書と2人きりにならないように気をつけてきた。
それを知っている村田は言った。
「やっぱさ、昇、俺が萌さんの専属ドライバーだからどうこうってんなら、鈴木か吉野、誰かしら男の秘書を1人くらい同行させるべきじゃないのか?何かあってからじゃ遅い。」
「ちゃんと帰ってくるよ。」
「そうじゃなくて!お前のそのよく体調不良起こす身体に何かあって、お前が知らない間に倒れるなんてことがあったら困るから言ってんだよ!」
ピクっと昇が反応するのを横目に、村田は腕を組んだ。
「国内ならまだしもな、俺らですら誰も知らされてない所に一人で行くんだ。いつもみたいにお前に何かあっても俺らは誰も助けることができない。誰も知らないんだからな。
最悪、生きて戻れなくても文句言うなよ?お前の帰りを待つ萌さんの元に……。
その覚悟が当然できてるってことでいいよな?」
昇は目を見開いたままじわりと額に汗が滲むのがわかった。
「分かったら選べ。俺でも鈴木でも吉野でも誰でもいい。信用出来る奴を一人同行させろ。」
「………鈴木を…連れていくよ。仕事は庵たち4人で上手く回してもらえるかな。」
「了解した。」
「……必ず戻ってくるよ。何があっても萌さんの隣に、必ず戻ってくる。今も昔も、彼女の隣だけが僕の居場所だから。」
ふぅ〜、と村田は肩の力を抜く。
強情なわりに、萌さんの名前を出せば簡単に折れるんだから、ある意味うちのボスを動かすのは簡単だな。
それで足元救われなきゃいいが。