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第102話 恋、とは


「恋ってなんなんでしょうかね……」


「フランちゃん、大丈夫か?」


「大丈夫じゃないですね……」


「でしょうね」



 はぁとそれはもう深い溜息を吐き出したフランをメルーナとハムレットが同情するように見つめる。早朝の人が少ないギルドの奥の席でフランが突っ伏していたのを、二人が見つけて声をかけてくれたのだ。


 フランは悩んでいた。それはもちろん、アルタイルのことである。彼は「フランが他の誰かを一番に選んだら暴れる」という爆弾を投下していたのだが、それによってフランは改めて好意に気が付いた。



「あれはもう脅しでは?」


「いや、あいつは脅しているわけじゃなくて、素なんだわ……」


「あれは素ですわよねぇ……」



 真顔で即答したのだがら。メルーナにあれは本気だと言われてフランはまたテーブルに突っ伏した。


 恋愛など一度もしたことのない自分にとって、どう対応すればいいのか分からない。それどころか、どういったものが恋なのかも判断ができなかった。


 だから、恋とは何かとぼやいたわけだ。これにメルーナが「貴女はどう思っているの?」と、フランがアルタイルにどういった感情を抱いているのかを問う。



「こんな私を拾ってくれた恩人ですかね。すごく感謝しているんですよ。アルタイルさんのおかげで私は自信が持てましたし、自分で考えて行動できるようにもなりましたから」



 不運体質なので大なり小なり何かが降りかかってくるのだが、それでもネガティブにならずにすんでいるのは間違いなくアルタイルのおかげだ。


 だから、感謝している。しているからこそ、恋というのに違和感を抱いてしまう。


 フランの返答にメルーナは「嫌いじゃないのね」とさらに問う。嫌いだなんて思ったことはないとフランは即答した。感謝はすれど、嫌いになる要素はないのだ、アルタイルに。



「好きなのよね?」


「その二択なら好きですけど。恋って言うとうーんって考えちゃって」


「まぁ、ハンターは恋愛とは無縁そうに見えるから、そのギャップとかもあるんじゃないかなぁ。あと、挙動おかしいし」



 アルタイルは恋愛とは無縁そうに見える。ハムレットの指摘にそれも原因なのかもしれないなとフランは納得した。


 挙動がおかしかったことは多々あったけれど、それはもう慣れてしまっているので、あまり関係はなさそうだが。


 直接的な言葉がないままにここまでいっての、ゴロウとキャロメの告白現場で出来事だ。巻き込まれ事故を起こして発覚したわけだが、フランは別にアルタイルから好意を抱かれて嫌悪感などは抱いていない。



「ただ、恋がいまいちよくわからなくて……」


「まぁ、恋って感じ方は人それぞれですものねぇ……。でも、嫌悪感を抱いていなくて、好きならば相手に対して好意を抱くこともあるかもしれないわよ」



 この人と一緒にいたいな、傍で見守っていたい、離れたくない。そういった感情を抱くこともあるだろう。あるいはそういった依存をもうすでにしているかもしれない。


 メルーナは「貴女って鈍感だから」と、もしかしら自分の気持ちにすら気づいていないだけかもしれないと指摘された。


 流石にそれはないのではと言い返したかったけれど、ここまで全く気づかなかった自分の鈍感さを否定できず。フランはうーんと腕を組んで呻る。



「あんまり、難しく考えなくていいと思うぜ。こういうのは相手に抱いた印象だとか、感情が大事なんだよ」


「アルタイルさんは別に悪い印象ないですよ。むしろ、何故に私なのかが知りたい」


「それは本人に聞いてみたらよいのでは?」



 本人に聞くというのはハードルが高い。フランは無言で首を左右に振った、無理だというように。ハムレットも「ハンターなら斜め上なことを言いかねないよなぁ」と想像できたらしく、苦く笑っている。



「こればかりは自分で感じて気づくしかない気がするわねぇ」


「ですかね……」



 恋というのは難しいもので、感じ方は人それぞれだ。だから、これが恋であるという答えはない。自分で感じて気づくしかなく、それがまた難解であったりもする。


 ハンターのことだから答えをすぐに欲しがったりはしないとハムレットは言うが、それはそれで申し訳なくも感じるのだ。彼の好意を利用しているような気がして。



「フランちゃんは考えすぎなんだよ。それハンターが聞いたら否定するぞ、絶対」


「そうですかねぇ……」


「何を話しているんだ、フラン」


「噂の本人が来たよ」



 迷いなくフランの隣へと座ったアルタイルを眺めながらハムレットが呟く。自分が来て問題があるのかと言いたげな表情を向けられて、ハムレットはそうじゃないと何か指摘される前に言う。



「フランちゃんがお前の好意を利用しているみたいに感じるって言うからさ」


「されていないが?」


「ほら、即答」



 ハムレットの言う通りアルタイルは否定した、即答で。フランはそうですかと不安げに彼を見るが、なんとも不思議そうな表情で返されてしまう。



「そもそも、何処に利用した要素があるだろうか? フランは何もしていないだろう。俺がただフランを手放したくないだけだ」



 利用しているというならば自分のほうではないだろうか、フランを拾ったのだから。そう言われて、フランはぶんぶんと首を左右に振った。利用されたとは思っていないし、むしろ感謝していると言葉にする。


 そうすると、アルタイルは「それと同じで俺も利用されたとは思っていない」と言った。本人からそう言われてはフランはそうなのかと納得する。



「別にどうなろうとか考えているわけではないから安心してほしい」


「わかりました」


「でも、誰かが一番になるのは嫌なんだよな」


「暴れるが?」



 真顔で言われてフランがひえっと小さく鳴く。それはそれで安心できないといったふうに。そんな様子にハムレットが呆れたようにアルタイルを見つめた。


 彼はといえば、おかしなことは言っていないといった様子で。メルーナに無言で肩を叩かれて、フランはまたぐでっとテーブルに突っ伏してしまった。



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