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第103話 二人のその後


 素直すぎるのもどうなのか。フランはアルタイルの言動に思うことがあるけれど、彼が本心から言っているのは伝わってきていた。


 嘘や照れといったものが一切、ないからなのか疑うこともないし、言われても恥ずかしさというのは感じない。


(好意を向けられても嫌悪感は抱いていないってことは、自分は気づいていないだけで受け入れてしまっているのかな?)


 フランは自分のよく分からない感情にうーんと暫し唸ってから、焦って答えを出そうとするのはよくないなと気持ちを切り替える。ゆっくりとテーブルに突っ伏していた顔を上げて、椅子に座り直した。


 周囲を見れば時間が経ったというのもあってか、ギルド内はいつものように賑やかになっている。メルーナのパーティメンバーである二人はまだ来ていないようだ。



「そうだ、フラン。キャロメさんたちがどうなったか知ってる?」


「え? そういえば、ゴロウさんとどうなったんですかね?」



 あの後、有無言わせぬ圧に負けてゴロウが折れていたのだが、ちゃんと恋人としてお付き合いできているのだろうか。フランは気になったので聞いてみれば、メルーナが「キャロメさんの想いが勝ったわね」と教えてくれた。


 あれからキャロメは宣言通り、仕事優先にされても文句を言わずに、むしろ率先して手伝うだけでなく、毎食のご飯を作っては差し入れしたりと尽くしに尽くしているようだ。


 文句も愚痴も言わずに一緒にいるものだから、ゴロウは彼女の気持ちが本気であると悟ったとのこと。



「逃げられないとか思ってないかちょっと心配になるな、それ」


「ゴロウ殿のことだからそうは思っていないはずだ。彼はちゃんと相手の気持ちを受け止めてくれる。口は少々、悪いところはあるが、気持ちを裏切ることはしない」



 仕事第一であるのが女性が離れた原因であって、彼の人柄に惹かれた人というのは多い。その難点を受け止めてくれる存在が現れたのならば、問題なく付き合っていけるだろうというのがアルタイルの見解だ。


 難点を気にしないでむしろ一緒になってやっていけるというのは強いなとフランでも思う。自分の事を理解してもらえるというのは嬉しいことだから。



「仕事や自分の考えを理解してもらえるって嬉しいですもんねぇ。愚痴とかにも付き合ってもらえたりとか、励ましてくれたりしてもらうと特に」


「それねぇ。わたくしも、そこはキャロメさんの強みだと思いますわぁ」


「私はこの不幸体質が……」


「うん、それよね」



 フランの不幸体質は大なり小なり起こる。それは魔物との戦闘だけでなく、対人関係など問題を引っ張ってくるのだが、それを受け止めてなお、気にしないという人間というのは少ない。


 毎度そうやって巻き込まれてはと嫌がってしまう気持ちは誰だって抱いてしまうだろう。フランでもそれは理解できたので、文句をいうことはしない。


 メルーナも今は考えを改めたけれど、それでもその不幸体質というのは厄介なものだと感じているようだ。



「これがあるとなかなか……」


「よかったな、フランちゃん。ハンターは全く気にしないから」


「気にする要素はないな」


「アルタイルさんに教えてもらって、マイナスな面ばかりではないっていうのは分かったんで、今はネガティブな思考にはならないでいられています」



 アルタイルに出会い、彼と関わっていなければこんな思考にはならなかっただろう。ずっとネガティブにとらえていたのだから。それは自分にとっては幸運だったと自信を持って言える。


 ハムレットはアルタイルと出逢った時点で体質は発動していると言うが。


 不幸が転じて幸運を呼ぶというのを聞いたことがあるが、これはそれだったのかもしれない。そう思えば、この不幸体質は悪くないと感じられた。



「おれもそこまでフランちゃんの不幸体質は気にしてないしな。ハンターが殆ど解決できるし、おれでも対処できるから」


「なんだが、やっとこの不幸体質が報われた気がします。いろいろと酷い目に遭ってきたので……」


「俺は手放すつもりはないので安心してほしい」


「そこは見捨てるとかじゃないんですね……」



 どちらも同じ意味合いには聞こえるが、どちらからと言うと手放すつもりがないのほうが、愛が重くないだろうか。というフランの突っ込みにアルタイルが首を傾げた。


 無言でフランがハムレットへと目を向ければ、「何が悪いんだって素で思ってる」と言われた。長い付き合いの彼には分かるようで、どうしようもないらしい。



「フランはどうするかちゃんと考えなさいね」


「ゆっくり考えていきます」


「そうそう、ゆっくりで大丈夫だって。ハンターは逃げないからな」


「何故、逃げる必要が?」


「そこに食いつかなくていいから、ハンター」



 逃げないのはみんな知っているとハムレットは返せば、アルタイルが不思議そうにしてみせる。別に何かを求めているわけではないのだがなと。


 そこがまたフランの疑問点ではあるのだが、それを聞くとそのままの意味だと言われそうな気がしたので黙っておく。


 急かされないというのはありがたかった。自分の気持ちがよく分かってないうちから答えを出すのは難しい。しっかりと納得のいく答えを見つけないと相手に失礼だ。


 フランは後回しにすることはせずに、アルタイルと過ごしていくことで気持ちを整理しようと決める。



「ハンターも変なことしてフランちゃんに迷惑をかけるなよー」


「お前と違ってしないが?」


「おれも女の子に変なことして迷惑なんてかけてねぇよ!」



 お前みたいに冷たく返すこともしてないと突っ込むが、アルタイルはそうだなと興味なさげだ。


 そんな様子にメルーナがコント見たいと呟いたものだから、フランはくすりと笑ってしまった。



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