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第104話 人はそれをフラグを呼ぶ


「お前は変なことをして迷惑をかけるのではなく、失言や曖昧な態度で相手を逆上させるタイプだろう」



 アルタイルの冷静な突っ込みにハムレットは黙る。否定できないようでがっくりと項垂れてしまった。自覚というのはあるようだが、無意識に行うので質が悪いといったところだろうか。


 俺の事よりも自分を心配しろと言われてハムレットは「気を付けるよ」と返事を返す。それいか言えないといったふうに。



「なんか、本当にやりそうな雰囲気なんですけど……」


「フラグが立っているのかもしれないな」


「やめてくれよ、ハンター」


「そもそも、言動に気を付けていれば良いのではなくて?」



 メルーナの言葉がぐさりと突き刺さったようにハムレットが胸を押さえる。それでも、女にだらしないとは言われているけれど、女の子はみんな可愛いと思っているのだから仕方ないじゃないかと言い返してみる。


 だが、メルーナに「そこが女子は嫌なのではないかしら」と追撃されて撃沈した。いろんな女性に同じような態度を取っていれば、だらしないと思われて当然だと。



「みんな可愛いから同じように接したとしても、相手からしたら女ったらしだと感じるわ」


「あと、女性にだけ優しくしているとか、かっこつけているとかですよね」


「そうそう。そこが女子は嫌がるのではないかしら。わたくしも苦手ね」



 冒険者仲間としてならば付き合っていられるが、恋人となるとそうではない。メルーナは本命ができた時に苦労しますわよと注意する。


 本命が現れた時に同じような対応をすれば、相手によっては嫌な想いをするかもしれないし、感じ悪い印象を抱かせかねない。それはそうだとハムレットはうんと頷く。


 本命が現れなくとも誰かに想われたり、勘違いさせてしまった時などにもこの問題というのは出てくるはずだ。なので、ハムレットはメルーナの注意に言い返すことができず、ただ黙って聞き入れるしかない。



「どうあってもいつかやらかしかねないがな」


「そんなこと言うなよ、おれだって気を付けるさ」


「無意識に出るかもしれないからな」



 考え方を改めるか、実際に痛い目に遭わなければ無理だろうというのがアルタイルの考えのようだ。身に沁みれば嫌でも理解できるなとフランも思う。誰だって痛い想いをすれば記憶に残るからだ。


 酷い言われようではあるけれど、実際にフェルシェと問題を起こしているのでハムレットは文句を言うこともできない。



「おればっかり言われるのなぁ」


「お前が一番、問題を起こしそうだから注意しているだけだ」



 俺はフラン以外の女性に興味はないからなときっぱり言い切るアルタイルに、ハムレットはそうだよなぁと納得する。


 いや、それで納得されてもとフランは突っ込みたかったが、メルーナに無言で首を左右に振られてしまった。



「まぁいいや。フランちゃんも男には気を付けろよー」


「えっと、はい」


「フランは大丈夫でしょう。ハンター様がいらっしゃいますし」



 フランに近づける男などいないのではないか。メルーナの問いにハムレットは「あー、いないか」と笑う。ハンターに喧嘩を売る人間は早々いないだろうと。



「近づけさせないが?」


「語尾強くしなくても伝わるから、ハンター」



 何を言っているのだといったふうに怖い顔をするアルタイルに「落ち着けって」とハムレットは返す。別に相手がいるわけじゃないんだからと言えば、そうだなとアルタイルは表情を緩める。



「面倒を起こすのはいいが、俺とフランは巻き込むな」



 恋愛の揉め事など解決するのが面倒なのは理由を聞かなくとも判断ができる。そんなことに労力は割きたくないとアルタイルは「カルロにでも聞いてもらえ」と、先に断る。


(カルロさんも巻き込まれたくないのでは)


 恋愛の揉め事は余程の事がなければ、巻き込まれたくはないのではないだろうか。フランでもそう思うので、カルロも同じように感じるかもしれない。


 そんな事を考えていれば、ハムレットが「あいつ真面目な事を言っておれの心を砕いてくるから嫌だ」とぶんぶん首を振っている。どうやら、やられた経験があるようだ。



「あいつは普段はふざけているような言動が多いが、相手の急所を打ち抜く真面目な事を言うからな」


「それがもう心にくるんだよ……」


「そんなことにならないようにすればよいのではなくて?」


「その通りです、はい」



 そうならないように気を付けていけばいいだけなのだ。本人もそれは理解しているけれど、無意識というのは恐ろしいものである。


 それがハムレットの恐れていることのようで、想像してぐでっと机に突っ伏してしまった。


 やらかさない自信はないのだなとフランはその様子を見て察する。アルタイルもいつかやらかすだろうといったふうだ。メルーナはフォローすることなく、その様子を眺めていた。



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