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第59話 疑えないなら信じるだけ

「ウミさん、入るけど」

 トントンっと軽く叩かれた扉が返事をする前に開きトトちゃんが入ってきた

「あ、おはようトトちゃん」

 結果今さらトトくんにしてもおかしいかと思いちゃんで通すことにしたが特にトトちゃんは気にしていないようだった

「もう起きてたの?」

 久しぶりの時計を見るに今の時間は大体朝の6時

「うん、あまり……眠れなくて」

 結果あの後部屋に戻って布団に沈み込んでみても全く眠ることなど出来なかった

「あっそう、朝ごはん準備出来たから呼んできてってアカネが」

 本人が聞いていながら殆ど興味無さげに話を流すがそれくらいが今の私には丁度よかった

「もうそんな時間か、わざわざありがとう」

 私は腰かけていたベットから立ち上がると軽く身だしなみを整えるとトトちゃんについて部屋を出た

「別にお礼言われるようなことじゃないし……」

 お礼を言われたのが気に入らないのかボソボソと文句を言うトトちゃんを歩きながら見ていると少し弟のことを思い出した

 全然似ているとかそういうことではないのだけれど何故か

 ダイチに記憶を見せてもらった後から何度かダイチに語りかけてみたものの一度も話を出来たことはなかった

 やはり身体の中にいると言っても死者と話をしようなんて魂胆が間違っているのだろうか

 それともまたヨルさんが関係しているのかどうなのか

 約束は守ったのだからダイチが消された、ということはないと切に思いたい

「ねぇトトちゃん……」

 ふと、死んだお姉さんのことを考えることはあるのかとか、共食いの影響は出ていないのかとか、聞きそうになってあわてて口を噤む

 もし口にしてしまっていれば眠いから頭が働いていなかった、では済まない話だ

「なに?」

「……ごめん、何でもない」

 立ち止まらず後ろを振り向いて聞き返してくるトトちゃんに謝って話を流す

「あっそ……」

 トトちゃんは特に気にするでもなくそれだけ言うとふいっと前を向いてしまった


「おはようウミちゃん」

「おはようございますアカネさん、底無しちゃんもおはよう……ソラちゃんは……」

 案内された部屋に入るとアカネさんと底無しちゃんが目に入って挨拶をする

 この地下ラボは結構な広さのようで今回案内された場所は初めて来る場所だった

 私は見当たらないソラちゃんを探して少しキョロキョロと辺りを見渡す

「そこにいるよ」

 アカネさんの指差したほうを見れば柱の影に隠れるようにソラちゃんが立っていた

「……そうですか」

 カチリと一度視線が噛み合うがお互いにすぐに視線を反らしてしまう

「まぁとりあえず、人間組の私達は朝ごはんにしようか」

 アカネさんは宅につくように私を促す

「はい」

 椅子に座って机を見ればいつもの自分の朝食よりよほど豪華なものが並んでいた

「それで、一晩ゆっくり考えて、頭は冷えたかな? それからこれからのことも」

 アカネさんが朝飯を食べながら聞いてくる

「……そうですね、色々と、考えました、だから私は」

 私はそこまで言うと一度手に持っていたスプーンを置いてアカネさんのほうを見て続けた

「アカネさんに全面的に協力します、必要なサンプルがあれば何でも言ってください」

 そう、一夜考えて出した答えはこれだ

「っ……ウミ、さん……」

 柱に寄りかかっていたソラちゃんが少し前のめりになるが昨日のこともあってかそれ以上は何も言っては来なかった

 だから、私は

 ソラちゃんのほうは気にする素振りを見せずにアカネさんに話続ける

「……アカネさんは言いましたよね、この廃退した世界に光が射し込む可能性が近くにあるって……昔の、廃退する前の世界に戻って欲しいというのは人類皆の夢であり、私もそんな世界に戻って欲しいと思う一人です、だから、私に出来ることがあるのならお手伝いします」

 私のほうをじーっと何を考えているのか分からない表情で眺めていたかと思うとそっとアカネさんが口を開く

「これが嘘で騙されているとか、そういう風なことは考えなかったのかな?」

 それは勿論

「考えました、だけど私はやっぱり人を疑うのが苦手なので、それなら信じてしまおうと思ったんです、別に自棄になった訳ではありません、自分の良い所を信じようと思っただけです、それに何よりも……私はソラちゃんや底無しちゃんの身体を治す薬が欲しいです、これから一緒に生きていくんですから」

 そう、私にはやっぱり誰かを疑うなんて性に合わない

 疑っても私の頭では誰が正解で誰が嘘を言っているのか分かるわけでもないのなら、信じてしまう

 そう思ったのだ

 それにオメガウイルスに対する特効薬が必要なのは私も一緒だ

 共食いをしたソラちゃんがいつゾンビ化の兆しを見せるかも分からない

 底無しちゃんの永遠に続く空腹だってどうにかしないといけない問題だ

「ウミ……さん……」

 でもやはりそんな私の考えが、理解できないというように名前を呼びながらもソラちゃんが話に入ってくることはなかった

「じゃーじゃー! わたしのちもとっていいからねー」

「底無しちゃん!」

 私の横からぴょこっと顔を覗かせた底無しちゃんは今日は意識がまだ残っているほうなようだった

「二人とも、ありがとう、君達の協力は必ず世界の希望に繋がる、私が繋いで見せる、朝食が終わったら早速で悪いが採血などをしたいから研究室までついてきてくれるかな」

「はい! 勿論です」

「わたしもー」

 アカネさんの言葉に私も底無しちゃんも即答で返す

「わ、私は……どうしたら」

 すっかり話に入ってくることが出来なかったソラちゃんがやっとのことでそれだけアカネさんに聞く

「そうだね、好きにしていてもらって大丈夫だよ、あ、安心してほしい、そんなに日付はかからないさ、二人のサンプルを提出してもらって、それの調べが少し進んだらユートピア、月陽の都についても教えてあげよう」

「わかり、ました……」

 アカネさんがそれほど考える様子も見せずに返事を返すとまたソラちゃんは柱に背を預けてまた黙り込んでしまった

 そんなソラちゃんを見てアカネさんはふむと唸るって続ける

「とりあえずサンプルを提出してもらったら後は二人も自由にしていてもらって構わないからその間に、仲直り、頑張って、この状態じゃあどう足掻いてもヨルさんのことを話すことは出来ないからね」

「っ……」

 ヨルさんという言葉にまたソラちゃんが反応して私のほうを振り向いた

 あれほどまでに私と顔を会わせようとしなかったソラちゃんがヨルさんの名前が出た途端に簡単に私のほうを見たことが、少しだけ、癪に触った

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